「ええー、なんなのこれ?」
相原 まゆは眉をしかめた。気がつくと連れとはぐれて、一人きりになっていた。
まゆを戸惑わせたのは、周囲の風景がどうにも現実のものとは思えなかったことだ。
「夢でも見てる? 影の町、だなんて」
ヨーロッパの片田舎に見えなくもない。坂道がいくつも斜面にのびて、小さくかわいらしい家々が並ぶ。しかし空はどんよりとして薄暗く、垂れこめた雲がはらむ鈍く赤い輝きが、町並みへ濃く影を落としていた。
それだけではない。町をうろめく人々は、まさしく影だった。人型のシルエットがいくつもそこらを歩き回り、さまよっているのだった。
まゆが肌寒さに肩を抱いていると、
「ああ、やっと見つけましたわ。あなたさま」
「え?」
振り返ると、そんな影がひとり、まゆの目の前に立っていた。揺れる髪に細い体躯、軽やかな高い声、どうやら影は少女であるらしい。
影の少女はまゆを手招きして言った。
「さあ、行きましょう。ここは冷えますから。あたたかいたべもの、あたたかいのみもの、たくさんあるところへ。さあ、こちらへ……」
「そうね……あたたかいところへ」
ゆらり、ゆらりと、まゆは影に誘われて町の奥へと歩いてゆく。
一方その頃、
冴木 竜司は駆けていた。
「ちくしょう、はぐれちまったぜ。ここはいったいどこなんだ?」
学生時代からの思いを実らせ、晴れて
恋人同士となった竜司とまゆだが、彼女とはぐれてしまったらしい。
奇妙な影の町は不気味なほどに静まり返っているが、よく耳をそばだててみればひそひそと、あちこちからささやき声が聞こえてくる。あちこちで見かける、シルエットのような影の住人たちの声だろうか。
「こんなところにいらしたんですね。あなたさま」
「あん?」
何とも聞き心地のよい、やわらかな声だった。
「そのように寒そうな格好をされて、お可哀想に。さあ、もっとあたたかいところへいきましょう。さあ」
「だ、誰だ? 何だ? 俺はあの人を探さないと……うわ!?」
影の少女に触れられて、竜司は思わず手を振りほどき飛び退った。その肌の冷たさに驚いたが、そればかりではない。
「俺の手が、身体が、少しずつ影になっていく……!?」
「ええ、もちろん。あなたさまにも早く、わたくしや町の者たちと一つになっていただきたいですから」
「な、なんだって!?」
暗雲立ち込める町に、影たちは黒々として佇んでいる。
どうやらあなたも迷い込んでしまったようだ。この影の町に……。
「あの人って……誰だ? 俺にとって大切な、かけがえのない人だったはずなのに。俺は……何を忘れちまったんだ?」
星織 遥です、よろしくお願いします。
冴木 竜司さん、ガイドへ登場していただきありがとうございます。
ご参加の際はどうぞ、自由にアクションをお書きください。
概要
謎めいた影の町に、あなたは迷い込んでしまいました。
町は坂道の多いヨーロッパの片田舎風ですが、常に暗く曇っており、陰鬱な雰囲気です。
影の町には、影の人々がさまよっています。
影の人に触れられると、自分も少しずつ影になってしまいます。
特に『影の少女』は、親愛に満ちた態度であなたへ近づいてきて、手を引いてどこかへ連れ去ろうとしてきます。
少女は少女なりに、あなたや来訪者たちへの親切のつもりなのかもしれませんが……。
少女に手を引かれると、だんだんと「ついていってもいいかな」という気分になってきます。
時間の経過で、あるいは町の奥にひっそりと建っている館へと連れ込まれてしまうと、
あなたは完全に影になってしまうでしょう。
影の町から脱出するには、町のどこかにある、『あなたに縁のある人、物、場所の影』を見つけてください。
見つけ出し触れることができれば、あなたはそれについて忘れていたことを思い出し、
元いた場所へと戻ることができるでしょう。
☆不気味な影の町でなんとなく恐怖体験
☆恋人とはぐれてしまったが、やがて誰とはぐれたのか忘れてしまった。探さないと……
☆影の町を観光気分で散歩する。何か風情があるじゃない、住みたくはないけど
☆自分が小さい頃に死んでしまった、飼い猫の影と再会。涙とともに思い出がよみがえってくる
などなど、自由なアクションでお楽しみください。
NPCについて
登録済みのNPCなら、特定のマスターが扱うキャラクターを除き、基本的に誰でも登場可能です。
Xイラストのキャラクターを描写する場合、
PCとXキャラの2人あわせて「1人分」の描写なので、無関係の行動などはお控えください。
※Xキャラだけで1人分の描写とすることも可能です。
その場合は、PCさん自身は描写がなく、Xキャラだけが描写されます。
Xキャラのみの描写をご希望である旨を、アクションにわかるようにご記入ください。
※Xキャラをご希望の場合は、口調などのキャラ設定をアクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
以上です。
どなたでもお気軽にご参加ください!