寝子島の東に位置する参道商店街は訪れる人々で賑わっていた。新旧の店が不規則に建ち並ぶ様は眺めているだけでも楽しめる。
その中に埋もれるかのように
神野文房具店があった。古めかしい店構えは昔ながらの営みをひっそりと現在に伝えている。
その店内はこぢんまりとしている。奥行きのある棚に各種ペンが大量に詰め込まれ、試し書きのノートには様々な落書きで溢れていた。いや、店の中こそ、細々とした物で溢れ返っていたのだ。画材コーナーの隅には古ぼけた箱が幾つか置いてあり、宝探しの気分も味わえた。
掘り出し物は、まさに掘り起こして見つけないといけない。店側と客側の暗黙のルールになっていた。
店の古さに反して、店番はとても若い。鮮やかな朝焼けにも似た赤い髪で棒状の羊羹に齧り付く。店主夫婦の一人娘、
神野 マキナであった。その優れた容姿を目当てに訪れる女性も少なくないという。先程も三人の女子中学生を相手に新入荷したペンが大量に売れた。
「ぼくは女性なんだけどねー。ま、この企画で新規開拓といきますか」
レジカウンターの目立つところに大ぶりの容器が置いてある。中には山盛りの菓子が入れられていて、どれもネーミングセンスが甚だ怪しい。ロシアンルーレットのような趣向を思わせた。
「今日はどんなお客さんがくるのかなー」
マキナは出入り口のドアを見ながら大きく伸びをするのだった。
今回の舞台は参道商店街の神野文房具店になります。店番の方の好意によって、お菓子が無料で食べられます。他ではあまりお目に掛かれない珍品が揃いました。味は食べてからの
苦しみ、いえ、お楽しみとなります。数々のお菓子を以下に紹介します(紙箱以外は個別包装)。
1:キムチカレー飴(複雑な辛さが人を選ぶ。飴の見た目は黄土色)
2:羊羹サイダー(スティックタイプの羊羹。齧ると口の中が心地よく弾ける)
3:超堅焼き煎餅(直径十センチの醤油煎餅。別名、前歯殺し)
4:つちのこの里、鰻のかば焼き味(長方形の紙箱。中にはつちのこを模した直径三センチ程度のチョコ&クッキーが入っている)
5:ミニあんころモニ(黒い餡の玉の中身には、モニッとする物が入っている)
6:ドクダミバナナ(直径五センチ程のバナナ型ホワイトチョコレート。ドクダミ成分で白から掛け離れた深緑)
7:生姜ニンニクッキー(掌サイズの猫のクッキー。一人の時に食べることを推奨している珍しいお菓子)
8:気紛れ爆弾(一口サイズの丸型チョコレート。菓子メーカーの気紛れで中身が変わる為、食べた者にしか味がわからない)
店番の方の事情で不在の場合があります。その時にはレジカウンターに料金用の箱が置かれます。側のノートには購入した商品名を書き込んでください。
掘り出し物、文房具、画材、お菓子、それらに華を添える一時の楽しい会話。
皆様の目的のものは見つかるでしょうか。小さな文房具店のささやかな物語の始まりです。