冬の猫鳴館は寒い。
　隙間という隙間から冷たい風は入り込むし、古びた窓はさほど強くない風でも大きな音を立てる。となると、早く帰ってのんびりしたいという気分にもなれなくて、月原 想花は図書室にやってきた。
　ここなら静かに宿題をすることも、ゆっくり本を読むことも出来る。最終下校時間までという制約こそあっても、誰にも邪魔されない穏やかな時間は空想するのにも向いているから、文句などない。
　ただ……どれだけ素晴らしい場所に思えても、足りないものだってある。ふとそれを思いだしてしまい、想花は溜息を吐いた。
　会いたいと望んで会える相手でもないし、何かできることがあるわけでもない。
　よく言えば平凡、正直に言えば無力な想花は、塞ぎ込まずに毎日を過ごすだけで精一杯だ。

（どうしてるかな）

　景色が暗い色に塗りつぶされそうとも、逃げないと決めた。
　例え闇から伸ばされる手が怖くても、黙ってされるがままになんてならない。
　立ち上がって、見据えて、声を荒げて……そのどれもが弱々しくたって、諦めないと。
　……それでも、突然開けた視界は眩しくて、目を逸らしたくもなる。
　つい前髪に触れて目元を隠そうとしてしまうけれど、今の長さでは眉にすら届きはしない。
　別に髪を切ったのだって、覚悟の現れだなんて大層なものではなく、ただ美容師にお任せして居眠りをしていたらベリーショートになっていただけだ。伸びきっていた惨状からすっきりして気に入っているけれど、顔面を晒すというのはこれほど落ち着かないものなのか。

（変われる、かな）

　今はまだ、視線から逃れるように机に突っ伏してしまうけれど。
　いつかは胸を張って歩けたら良いなと思い描き、想花はそのままうとうとと眠りに落ちた。



　――わからずや。



　誰かが、泣いている。
　どこかの丘の上で、雪のように輝く髪と両手で顔を隠し、さめざめと泣いていた。
　古き日本の姫君のような、幾重にも合わさった衣に施された文様は神々しいくらいなのに、そんな着物が汚れるのも気にせず花畑に膝をつき、ただ「わからずや」とだけ繰り返している。

（喧嘩でもしたのかな……）

　少しだけ、想花は羨ましいと思った。
　喧嘩のできる、感情のぶつけられる距離に相手がいるだけでも幸せではないかと。
　どうせ声をかけたって、気の利いた言葉も言えはしない。話をして楽になるならいいけれど、それこそ恋バナなんて始まってしまったら、相づちだって気を遣う。だから、見なかったことにして踵を返した。
　こういうものは適材適所、どうにかできる人が声をかけるべきであり、かける言葉を持ち合わせない自分は、そっと静かに退席するに限る。

「――えっ」

　その瞬間、足元にぽっかりと穴が空いた。
　底の見えない穴に落ちていくのは、怖いよりも先に混乱がやってきてしまうのか、どうにかもがき体勢を整えようと手をバタつかせる。

　――この雨じゃあ、無理だねぇ。

　諦めきったように、どこか冷めた声。

　――次の機会を楽しみにしようぜ！

　暢気に笑う明るい声音は、酷く他人事のようにも聞こえた。

　――これが最後でもないのだし。

　闇の中に猫のような瞳だけが浮かび、それぞれ違う声音が似たようなことを口にする。
　その度に思い起こされるのは、先ほど丘の上で泣いていた少女のこと。

　――変わらず、想っているからっ！

　ちがう。
　そんな言葉を、聞きたいのではない。


「……わからずや」

　ぽつりと、想花は彼女と同じ言葉を口にした。
　そうじゃないのだと、わかってほしいと告げることすら叶わず、酷く不安がこみ上げる。自分が落ち着いているのかも、無気力なのかも曖昧で、ただただ闇の中を落ちていくしかできない。
　どうにもならないことに叫んでしまいそうだった。わけもわからず泣いてしまいそうだった。
　感情が弾ける前に、腕を力強く引き上げられる。思わず顔を上げたけれど、そこには力強い『今紫色』をした瞳以外何も無い。

「おいっ！　女を見なかったか!?」
「え、見るには……見たけど」

　突然言われたって、それが誰かなんてわからない。
　もっと説明のしようがあるだろう。特徴だとか、はぐれたなら場所だとか言ってくれないと。

「見たんだな？　アイツはココにいるんだなっ!?」

　必死な声はザァザァとした音にかき消されていくのに、瞳だけは印象的だった。
　未だ何かを訴えてはいるようだが、その声は結局届かず――光が溢れてきたと思った時には図書室だった。

「夢……？」

　腕を掴まれた感触が妙にリアルで、嫌な汗が背を伝う。
　本当に夢から覚めたのかと確認するように周囲を伺うと、見覚えのないプリントが１枚置いてあった。

「五頭猫のお祭り……？」

　寝ているときに誰かが置いていったのだろうか。
　それは寝子島神社で60年に１度だけ開催される大きな祭事だが、大きさのわりに知名度は低い。なぜなら天候が悪ければ中止となり、前回も前々回も行われていないのだ。
　本土に祀られている五頭猫のご神体が寝子島大橋を渡り、寝子島を１周して天女が祀られる寝子島神社へと届けられる。それは軽くドライブというわけにもいかないらしく、今年のお知らせにも『雨天の場合中止』という記載があった。
　窓の外には黒い曇天が広がっていく。きっと今年のお祭りも中止だろう。

（仕方ない、のかな）

　60年だ。
　織り姫と彦星でさえ、１年に１度は逢瀬が叶う。雨であっても、カササギが橋となってくれるのに。
　猫神様と天女には本当に、タイミングの悪い雨のせいで会えないのだろうか――。

担当ゲームマスター

浅野 悠希

マスターコメント

サンプルアクション（1）

プレイヤーの目的・意図

エネルギッシュなキャラクターがみたい。

キャラクターの目的・理由

明るく楽しい夢を見て、猫神様も楽しんで欲しい。

キャラクターの行動・手段

色イメージ：シトリン
友愛や希望といった言葉が込められた、太陽のエネルギーを持つ宝石。


雨だって冬だって、元気に遊んじゃうぞっ☆

妙に人懐っこい猫ちゃんがやってきたけど……なんか声が聞こえた気もしたけど。
一緒に遊びたいってことかな？

よーし、まずは雨と言えば……海だぁあああ！
いつもより激しい波を見るとテンション上がるよね、上がらない？
そっか……。風も出てきたら危ないし、今日は猫ちゃんも一緒だから我慢しよう。

何をして遊ぼうかと猫ちゃんと戯れてたら、なんだか常夏のような気がしてきたぞ……？
やっぱり海だあああああああ!!!!!

そりゃ雨の日だってあるし、落ち込むことだってあるけどさ。
晴れの日だってくるし、楽しいことだってあるんだから。
あれだよあれ、踊らにゃそんってやつですよ！

猫ちゃんも楽しんでる～？