「どうかお助け下さいまし」
その少女、島山 しづと名乗る女給はそう言って、
愛猫 萌々子に深々と頭を下げた。
◆
帝都では淺草が賑わっているというが、此処、寝子島でいっとう賑わっているのがどこか、というのは島民の中で意見の分かれるところだ。寝子ヶ浜の辺りが良いという話もあれば、寝子島神社から続く参道の界隈は外せまいよと管を巻く者も居る。
その寝子島神社の界隈は、本土から島にやって来た人が真っ先に通り抜ける場所でもあって、あれこれと商店が立ち並ぶ。甘味処やカフェーもちらほらあり、昼時を過ぎれば学業を終えた尋常小学校生(※小学生)や高等小学校生(※中学生)、高等学校生や女学生(※いずれも高校生相当)も訪れて、甘味や食事に舌鼓。
そんな参道に立ち並ぶカフェーの1軒である、カフェー・ネココがしづの勤め先という事だった。
「実は今度、界隈の皆さんで出店をしてみようかという事になりまして」
そう告げるしづに案内されたカフェー・ネココは、赤いビロウド張りが洒落たチェアーの、色硝子窓もモダンな店であった。これは庶民には立ち寄りがたい店なのでは、という顔になった萌々子に、これでも良心的なお値段なんですよ、としづが笑う。
ほら、と渡されたメニュウを見れば、なるほど確かに良心的。モダンな見た目を裏切らず、クリィムあんみつやクリィムソォダァ、シベリヤなども用意されていた。
きらん、とそれらの甘味を素早くチェックしながら、それで、とあくまで表情は真面目に萌々子は問う。
「私の助けが必要と聞きましたが?」
「はぁ。将校さんにお願いするなんて、恐れ多い事だと私は言ったんですけれどねぇ」
それに申し訳なさそうに応えたのは、店主だという壮年の男だ。
「この辺りも最近は、物騒になりましてね。出店の祭界隈を見回って頂ければありがたいんですわ」
曰く、どうも帝都で職にあぶれた無頼の者が、ちらほら島までやって来ているのだという。今のところ大きな問題はないが、店先で因縁をつけられたり、無銭飲食を働いたりと、地味な嫌がらせが続いているらしい。
もちろん、用心棒を雇って対策をしている店もあるが、どこもそう出来る訳ではない。そこで、女性将校である萌々子を別の甘味処で見かけた事のあるしづが、一つお願いしてみては……と提案したのだという。
さて、とその申し出に萌々子は少し考える。聞けば出店の日は非番だ、帝国民を守るのも将校の役目ではないかと言われれば、それもあながち間違いではないのだが。
(その日は浜の方の甘味処に行こうと思っていたのですよね……)
季節限定の芋きんとんが、そろそろ出る頃だという。ゆえに、うーん、と悩んでいた萌々子の様子をどう思ったか、しづがすすすと萌々子の傍に寄り、耳打ちした。
「お礼は、金子は多くはお包み出来ないんですが……シベリヤ食べ放題で」
「食べ放題」
「他にも、クリィムソォダァやクリィムあんみつ、この店のメニュウに乗っている甘味ならお好きなだけ……」
「好きなだけ」
ゴクリ、その言葉に喉が鳴る。しづがにっこり微笑んで、ぜひお願い致します将校さま、と三つ指をついてみせた。
いつもお世話になっております、または初めまして、蓮華・水無月と申します。
寒い日々の中にも春の訪れを感じるような、いやいややっぱり寒いような今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
ご縁を頂きまして、こちらのキャンペーンシナリオを担当させて頂けることになりました。
愛猫 萌々子さん、キャンペーン当選おめでとうございます!
ガイドに囚われず、ご自由にアクションをおかけください。
さて、現実に存在したのか、はたまた夢の中での出来事なのか、大正時代の寝子島で行われる出店祭で、そぞろ歩きを楽しみましょう!
大正時代、と言いつつそれは明治では? 昭和では? みたいな事もあるかもしれませんが、人の数だけ大正ロマンは存在するので大丈夫です(何
ハイカラなモダンガァル・モダンボォイの皆さまも、そうではない皆さまも、ぜひ気軽にお楽しみいただけますと幸いです。
◆このシナリオで出来ることって?
基本的には、以下のような行動をお楽しみいただけます。
(1)カフェー・ネココのお手伝い
カフェー・ネココは出店祭の当日、カフェーの前で暖かいコォヒィと、クッキーを販売しています。
店番は女給のしづが行います。
帝都のワルが因縁をつけに来るかもしれませんので、その用心棒をお願いしたいようです。
他にも、しづを手伝って店番をしてくれる方も大歓迎。
お礼にカフェー・ネココの甘味の食べ放題がご用意されています。
※『大正時代 スイーツ』で検索して出て来るものは大体あります
(2)出店祭をそぞろ歩く
参道界隈(今の参道商店街)では、最近なんか景気悪いしパァっと盛り上がろうぜ! というノリで、神無月のとある日曜日に出店祭を行うことにしました。
ほとんどのお店が参加していますので、それらを巡って歩くと楽しいかもしれません。
うどんやそば、寿司の立ち食い屋台もありますし、細工物を扱っている出店もあります。
※『大正時代 ○○』で検索して出て来るものは大体あります
中には現在の参道商店街に今もあるお店もあるかもしれませんね。
また、当日はちんどん屋が練り歩いたり、芝居小屋が立てられたり、街角で大道芸人が何かしているかもしれません。
それらを眺めても楽しいでしょう。
(3)出店祭に参加する
参道界隈で商売をしているという設定で、出店側に回っても面白いかもしれません。
その日限りの出店でも大歓迎。
ぜひ奮ってご参加ください。
◆登場NPC
島山 しづ(17)……
九夜山の裾にある島山梅園の末娘。
高等小学校を卒業後、職業婦人になりたくて家を飛び出し、カフェー・ネココで住み込みの女給をしている。
淑やかそうに見えるが、意外と気が強いおてんば。
「しづは姉さま達と違って、モダンガァルなんです。職業婦人として、立派にひとり立ちしてみせます!」
畑山 里三郎(50)……
カフェー・ネココの店主。
帝都の方でカフェーを営んでいたが、昨今の『美人女給の接待ありきのカフェー』に嫌気がさし、新天地を求めて寝子島へとやって来た。
もちろんカフェー・ネココも接待なし、女給へのお触り禁止。
里三郎はコォヒィ専門で、カフェーで提供している洋食や甘味は奥さんが作っているらしい。
「美人女給の接待なんてね、けしからん事ですよ。カフェーは大日本帝国の文化の発信地として、誇り高くあるべきなんです」
※上記2名につきましては、常連や顔見知り、元同級生など、ご自由に関係を設定して頂いても大丈夫です。
◆NPCとの描写について
本シナリオでは、水無月の過去のシナリオに出てきたNPC、及び特定の担当が居られないNPCを、基本的にはご自由に誘って頂けます。
マスター裁量で、または無理のない範囲でご指定頂けば、大正ナイズされて出て来ます。
お誘いになりたいNPCがいらっしゃる場合、お相手の名前を明記して頂けますようお願い致します。
なお、NPCとの描写は大変申し訳ありませんが、基本、個別に行わせて頂きます。
グループで参加されている場合は、そのグループ&NPC、という描写になります。
それではお気が向かれましたらお気軽に、どうぞよろしくお願い致します(深々と