「お花見! したい!」
野々 ののこは突如思い立ったように、机を叩いて目を輝かせた。
「ど、どうしたの? ののこちゃん」
朝のホームルームが終わった直後、
七夜 あおいはその勢いに気圧される。
「今朝登校したらね、朝練してる部活の人が、ずいぶんと熱心に話してたんだ。お花見行きたいーって! それ聞いてたら私もまた行きたくなっちゃった!」
うきうきとお花見に思いを馳せるののこだったが、あおいは少々気の毒そうに苦笑した。
「でも桜……もう、ほとんど散っちゃってるんじゃないかなぁ」
そう言って、窓から見える桜の木に目を移す。かつて新入生を満開で迎えてくれたそれも僅かな余韻を残すのみである。
桜のピークが過ぎてからしばらく経ってしまっている今、満足に花見ができる場所はほぼ無いだろう。ののこを落胆させないような言葉を選んでいると、その時――
「うおおおー! お花見ィィィー!!」
窓際の席にいた一人の男子生徒が雄叫びを上げ、ドタバタと教室を出て行ったのである。
「ど、どこ行くの!? もう授業始まるよ!」
あおいがその背中に声をかけたものの、彼の耳には届かなかった。
教室の一同が唖然とする中、隣の教室から更なる喧騒が聞こえてくる。
「お花見しに行かなきゃ! 今行かなくてどうするの!!」
花見への熱狂的な思いを訴えながら、クラスメイトの制止を振り切り、女子も混じった数人が廊下を駆けて行く。
そこへ、彼等の行く手を阻むように
桐島 義弘先生が立ちはだかった。ののこ達のクラスへ数学の授業をしに来たのだろうが、抜け出す生徒を見つけ目を光らせる。
「お前達!」
風紀の厳守で彼の右に出る者はいない。この異常事態において、彼はヒーローのように思えた。
「桐島先生! 皆を止め……」
しかし、そう喜べたのも束の間。桐島先生の服装をよく見ると、スーツではなく何故か――
ジャージなのだ。
「き、桐島先生! その服は……あの、数学の授業は……!」
「そんなことをやっている場合ではない! さあ皆、花見に出発だ!」
「オォーッ!!」
「やった、これは特別授業だね!」
「あっ、ののこちゃん……!」
ちゃっかりと便乗して桐島先生と数人の生徒の後に付いて行ってしまうののこ。
静まり返った教室に、始業のチャイムが木霊する。
するとやがて、チチチ……という小鳥のさえずりと共に、このクラスの担任である
五十嵐 尚輝先生がぼそりと呟いた。
「あぁ、これですかね……朝から話題の犯人は」
ホームルームが終わってから一連の騒ぎを眺めていた五十嵐先生は始終マイペースに、窓辺に立って俯き、実験用の薄手袋をはめて何かを拾った。近くにいた生徒がその小さな物を見て、首を傾げる。
「桜の――花びら?」
だがそれは、一目見れば普通の桜と違うことが誰にでも判った。
春の空のような、青色をしているのだ。
「えぇ。どうやらこの青い花びらが素肌に触れると、とてつもないお花見衝動に駆られるそうで。今朝、部活動生の何人かが暴れたらしく、職員室でも話題になりました」
「な、何それ……!?」
「さぁ……? 試してみましょうか」
問い掛けてきた生徒の頬に、五十嵐先生は青い桜をぴとりとくっつけた。
すると、数秒の後に。
「うわぁぁぁ! お花見行きたいッ!! 待ってぇ桐島先生ー!!」
そう叫ぶや否や、誰かが止めに入る隙もなく、その生徒はお花見組の後を追った。
「うーん、見事な即効性ですね。まるで何かに取り憑かれたかのようだ……色素成分以外は、見た目も形も普通の桜と変わり無さそうなんですが……いったいどんな原理で……まずは構造の分析から……」
「せっ……先生! 私達どうすればいいですか!?」
五十嵐先生の担当は化学。青い桜というサンプルを入手した彼は、もうそれしか眼中にないと言わんばかりに生徒の追及を流し、ぶつぶつとぼやきながら教室を出て行ってしまった。
謎のお花見衝動に捕われた、数人の生徒と数学の桐島先生。
取り残された生徒達の無言が、教室を再び静寂に包む。
しかしやがて、たまらなくなったあおいが意を決したように、小さな拳を握った。
「……これじゃ授業にならないよっ!」
柔らかなツインテールを揺らし、懸命に呼び掛けた。
「みんな! 青い桜の大元を探して、この事件を解決しよう!」
寝子島へようこそ!
青い桜の花びらは、風に乗って九夜山方面から
寝子高校までやってきているようです。
この日、朝練に出ていた生徒や、教室の窓際にいた生徒だけでなく
数人の先生も青い桜にやられているので
いくつかのクラスはまともに授業を進められない状態になっています。
高校の敷地内にある桜は既に散ってしまっています。
感染者は遅咲きの桜を求め、九夜山を目指しているようです。
・青い桜に触れたら
お花見がしたくてたまらない状態になります。
興奮して「お花見ーッ!」となるタイプや
ぽや~っとして「お花見~お花見~……」となるタイプなど
キャラクタによって雰囲気が変わるかもしれません。
(ご希望がある場合はご指定ください!)
・一度触ってしまったら
基本的に、しばらく正気に戻れません……が、
落神神社で拾えるらしい御札を貼ると、一発で治るようです。
しかし簡単には手に入らないかも。
・進むごとに難易度は上昇
青い桜の木に近づく度、吹いてくる青い花びらも増えてきます。
最後まで正気でいられるかどうかは、努力と運次第……?
風に漂う花びらを避けながら、
大元となる青い桜の木を探して原因を突き止めましょう。
一方、この騒ぎに便乗して、ただお花見を楽しむこともできます。
ご自由にアクションを起こしてくださいね!