寝子島、夜の九夜山の麓に降り立った人物がいた。
その物は白色の髪色をした和服の人物だ。見た目は少女のようだが狐耳と尻尾が生えており、どうにも普通の人間ではない様子。
「ふむ、眠っている間に面白い世界になったようだ……どれ、観光してみるとしようか」
ふわりと宙に浮いた狐の少女は森の上を飛んでいく。
眼下には寝子島の町が広がっており、夜でも明かりが点いている光景が珍しいのか物珍しそうに狐の少女はそれを眺めていた。
そうしているうちに何かを見つけたのか、狐の少女はふわっと空から降りていった。
「……ったく、ダストの奴。酒ぐらい自分で買ってくればいいだろうに。なんであたしがこんなことを」
ふてくされた態度でコンビニから出てきたのは
ティオレ・ユリウェイスだ。手にはビニール袋を持っており、中には酒とおつまみが数個入っているようだ。
彼女はダストの店が終了後、閉店した店内で彼女と宅飲みしていたのだが、酒が切れた為に買いに行かされているのである。なお、じゃんけんで負けたのがその理由だ。
視線の先では暗がりで狐の少女と若い女性が話し込んでいる。少女には立派な狐の耳と四本の尻尾があった。
「ん? なんだいあれは? 狐のコスプレか、それとも獣人か何かかねぇ?」
変わった奴もいるな、と思いながら視線を外そうとした瞬間、彼女の前で驚くべきことが起きる。
なんと、狐の少女が若い女性を玉に変え、壺の中にしまってしまったのだ。
「ああ、またこういう手合いか……ったく、ほんとこの島はどうなってんだい」
ナイフを抜き放つとティオレは走り、狐の少女に斬りかかった。身を隠す心得がある彼女の不意打ちを狐の少女は難なくいなし、斬撃をかわす。
「いきなり斬りかかってくるとは、随分と血の気が多い。一体、どうしたというのだ?」
「いや、目の前で人間がさらわれるなんて許せるタチじゃなくってね……悪いがそいつを置いてってくれないかい?」
壺に視線を送ると、ティオレに向きなおり狐の少女はけたけたと笑いだす。楽しそうに笑っているのが少々気味が悪い。
「これを? この紫陽花(あじさい)のコレクションに加えた物を渡すわけがないだろう。何ならお前もコレクションに加えてやろうか!」
「はっ! できるもんならやってみなっ!」
白い衝撃波をいくつも放った紫陽花だったがそれらはティオレには当たらない。夜の闇を隠れ蓑に跳んだティオレは空中から数本のナイフを放つ。
腕を振るって紫陽花はナイフを弾くと距離を取りながら手の平サイズの青い火球を放つ。
燃え盛る青い火球をナイフで斬り裂くとそのまま体重を乗せた蹴りを眼下の紫陽花目掛けてティオレは放った。受けきれず、蹴り飛ばされた紫陽花は地面を跳ねながら転がっていく。
むくりと起き上がった紫陽花は……笑っていた。それも実に楽しそうにだ。
これにはティオレもぞくりと悪寒を感じる。
「ははは、はっはっはっはっは! こんな楽しい気分になったのは久方ぶりだ、100年、いや200年ぶりぐらいか。では、そろそろ本気で遊ぼうじゃないかッ!」
ぶわっと紫色のオーラが紫陽花から溢れ出す。半透明のそれは渦を巻き、彼女を包み込んでいく。
「なんだいこいつは……わけがわからないが、やばい感じだけが強まっていく……こりゃ分が悪いかねぇ」
「そこまでじゃっ! 紫陽花、貴様の好きにはさせんぞッ!」
コンビニから走り出してきたのは、黒髪で小柄の着物を着た少女チビナミ。彼女は異界の少女ちーあの仲間の一人だ。
チビナミは黒い渦を作り出すとそれを紫陽花に向かって放つ。黒い渦と紫の渦が衝突し互いにその力を相殺し合ったのか、二つの渦は消え去った。
そのタイミングでコンビニから水色髪の少女が出てくる。彼女が異界の少女ちーあである。
「この周辺の隔離は完了したのです……って何でティオレがここにいるのです?」
「ああ、ちょいと野暮用でね。隔離ってことは、暴れても問題ないってことかい?」
「はいなのです、紫陽花を逃がすわけにはいかないのですよ!」
ナイフを再び構えると、ティオレは再び戦闘態勢を取った。姿勢を低くし、いつでも飛び出せる体勢だ。
「そうかい……訳は後で聞くとして、まずはあいつをどうするかだね」
「あやつは紫陽花。数百年前に、九夜山に封印された悪しき狐のあやかしじゃ。まだ力を取り戻してはおらぬようだから、ここで仕留めねば寝子島が危うい!」
数枚のお札を取り出すとそれに黒い炎を灯し、チビナミはそれらを投げ放つ。紫陽花の間近でそれらは炸裂し、激しい雷の雨を降らせた。
紫陽花は紫色のオーラを再び顕現させると、それをバリアのように纏い雷を防いでしまう。
にやりと笑いながら紫陽花は衣服に付いたほこりを払って見せた。
「今、何かしたか? それにしてもイザ那美、随分と小さくなったものだ。我を封印した時とは大違い……その様子では再封印など夢のまた夢だな」
「くっ、あの程度では傷すらつかぬか!」
「この島は面白くなった……私は山に戻って力を蓄えるとしよう。追ってくるなら良し、我が配下が相手をするだろう。人の恐怖から生まれし、怪異たちがな」
背中を向けて去ろうとした紫陽花にティオレが追いすがる。
「誰が逃がすって言ったんだい? まだパーティーをお開きにするには早いってもんだっ!」
「愚かな……この紫陽花にまだ楯突くとは、死にたいと見えるな!」
振り向き様に鋭く伸ばした爪を振るう紫陽花だったが、その攻撃はティオレには当たらない。紙一重でかわしたティオレがすれ違い様に紫陽花の横っ腹をナイフで斬り裂く。赤い鮮血が迸った。
「ぐあぁぁあ!? この我に、手傷を? くくく、はっはっは! 興が乗った……ティオレ、お前の名は覚えておくとしよう!」
「おいっ、逃げるってのかい!?」
「違うな、我は楽しみを後に取っておくタイプなのだ。ここで摘んでしまってはつまらないだろう?」
にやっと笑った紫陽花はちーあの隔離したフィールドを力ずくでぶち破るとそのまま九夜山の方へと飛び去って行った。
ちーあの自宅。アパートにて。チビナミ、ちーあ、ティオレと共に作戦会議が行われていた。
「なるほどねぇ、あいつは力を解放する為に、九夜山の森にある祠にいなくちゃいけないってことかい?」
地図に丸を付けた地点を指差しながら、ちーあはそれに頷いた。手にはアイスを持っている。頭を使うと糖分が必要とのことだった。
「はいなのです。祠から離れては封印されている力を引き出せないのです。徹底的に戦力を削ぎ、確実に再封印するのです!」
「あやつの力は底知れん。全盛期のわしがやっとの思いで封印した化け物じゃ。自分の愉しみの為ならば何でもやる、そういう輩なのじゃよ、アレは」
傍にいた金髪紅眼の女性、ツクヨはスマホを指で操作しながら話を聞いているようだ。彼女もちーあの仲間の一人である。
「なんだか楽しそうなことに……ああ、それじゃいい人を呼びますから待っててくださいねぇ!」
誰かに電話をかけるとツクヨは話しながら外に出ていく。
ティオレはチビナミとちーあの方を見ると、二人は何とも申し訳なさそうな顔をしていた。
「ああ、またあやつが巻き込まれるのか。ツクヨの隣に立とうと考えた時点でそうなることは決まっていただろうがの」
「お財布の件といい、あの人も苦労するのです。ごしゅうしょうさまなのですよ」
数十分後、ツクヨに腕を組まれて引っ張る様に部屋に連れてこられたのは
御剣 刀だった。ちーあは彼に分かりやすく状況を説明する。
御剣はなるほどな、と理解したようだ。伊達にちーあに異世界に連れ回されたり、ダストの手伝いをおこなっているわけではない。
「怪異は私たちに任せるといいんですよぉ! ちょうど、暴れたかった所ですからねぇッ!」
「用があるからって言われてきてみればまた面倒なことになってるんだな。わかったよ、雑魚は任せてくれ」
手の平を拳で打つと、ティオレは気合十分に立ち上がる。その目には闘志が静かに燃えていた。
「あたしはあいつとヤリ合うよ、あんな中途半端で逃げられたんじゃ、すっきりしないからね!」
「それじゃみんなで行くのです! いざ、【紫陽花、再封印作戦】開始なのですよっ!」
初めての人もそうでない人もこんにちわ、ウケッキです。
今回は寝子島に復活した古のあやかしが悪さをしているようです。
御剣 刀さん、ティオレ・ユリウェイスさん、ガイド登場ありがとうございます。
勿論、ガイド以外のアクションもOKです。
それでは寝子島のフツウを守る為、よろしくお願い致します。
※初めての方も、どなたでもお気軽にご参加ください
概要
◆戦闘場所
九夜山の古びた祠
:九夜山のどこかにある忘れ去られた祠。
祠の前には紫陽花がいる。その周囲を守る様に怪異たちが囲んでいるようだ。
普通に仕掛ければ怪異と紫陽花に連携攻撃をされ、被害は甚大だろう。
◆予想される敵
紫陽花(あじさい)
:古の封印から蘇った妖狐。尻尾は四本。
凄まじい妖力を秘めているがまだ本調子ではない。
紫色のオーラとして妖力を纏っての身体能力上昇、青い炎【狐火】の生成、
衝撃波を斬撃として飛ばすなどその能力は多彩。
妖力を障壁として展開することも可能。
寝子島の人間を気に入ったようで、コレクションと称して玉に変え、傍らに置いてある壺に集めている。
怪異【クチサケ】
:顔の端まで口が裂けた女性の怪異。
長身で手には大きな鎌を持っている。
素早く動き回り、力に任せた鎌の一撃は脅威。
怪異【トイレノ】
:幼い少女の姿をした怪異。
瞬間転移能力を持っており、近づけば離れる、離れたら近づく。
触れた相手の潜在的な恐怖心を拡大させ、戦闘不能に追い込む。
直接的な攻撃は爪での引っ掻きのみ。
怪異【コックリ】
:狐の女性の姿をした怪異。尻尾は一本。
相手の動きを思考を読んで行動を先読みする。
小さな炎を放ったり、爪を伸ばしての斬撃はかわす回避さえ予見される為、ほぼ必中。
だが、思考を読む為に、相手が別の事を考えていると読めないようだ。
◆支給品
異界の少女ちーあが作ったアイテム。ひとつだけ選んで持っていくことができる。
※ロストワードとは、ちーあが刻んで効果を発揮する【失われた魔術文字】のこと。
効果が強力な分、何かしらのデメリットもある。
・疾風迅雷の刀
:【疾風】と【迅雷】のロストワードが刻まれており、
装備すると使用者の速度を2倍に引き上げてくれる刀。
斬撃の際にも、雷を纏った刃がその切れ味を格段に引き上げる。
反面、扱いが難しく力任せに振れば折れてしまう程に繊細。
・ソードシールド3号くん
:大型の長方形の盾。両端には剣身が装備されている。
非常に重く、鍛えた者でないと扱えないが上手く扱えれば攻撃も防御も可能。
【鉄壁】のロストワードが刻まれており、一度だけ、数人を包み込む光のシールドを展開できる。
なお、シールド展開後は3秒で爆発する。
・魅惑の薙刀
:見た目は普通の薙刀。アシスト機能があり、心得がない物でも簡単に振るうことができる。
押すなと書かれたボタンがあり、押すと何かが起きるようだ。何が起きるかは装備者によって変化する模様。
なぜか男性が装備すると【スタイルのイイ女性】に変化してしまう。効果は一日ほど。
女性が装備しても特に変化はない。
・おたすけ包帯
:一見すると普通の包帯。だが様々な薬効成分が染み込まされており、
傷をたちどころに癒す。傷は塞ぐが、体力は戻らないので注意。
使い終わるとチャージに入り、包帯が再生成されるまで15分掛かる。
包帯の再生成ごとに非常にお腹が減る。お腹が減った状態では再生成されない為、
再生成を繰り返すには何かしら食糧が必須となる。
・紫炎の脚甲
:銀色の脚甲で紫色の炎の柄が刻まれている。
装備して蹴りを放つと同時に足を紫炎が包み込み、相手に炎ダメージを与える。
自分は熱くない安心仕様。
脚甲は靴程度のサイズから太ももを覆うまで様々なサイズがあり、大型の物ほど炎の出力が強い。
なお何故か生足に直接装備しないと効果がなく、ズボンの上から装備しただけではただの飾りと化す。
◆登場する人物
ちーあ
:皆様を非日常に放り込む張本人。絶壁ロリで元気いっぱいな機械生命体。でも見た目は人と変わらない。
ありとあらゆるコンピューターにハッキングできるが割とポンコツの為、よく失敗する。
日夜怪しい研究品を開発している。それらが役に立つかどうかは皆様しだい。
最近のお気に入りは回転寿司屋のアイス。
ツクヨ
:わがままボディを持つ金髪紅眼の女性。戦闘狂であり、三度の飯より戦闘が好き。
中距離では赤い鎖を鞭のように扱い、近距離では二本の赤い長剣で戦うオールラウンダー。
攻撃魔法も扱える万能さ。なお胸はFカップ。
最近、回復魔法も使えることが判明したがもっぱら敵への拷問にしか使っていなかった模様。
寝子島のファーストフードにハマっており、気が向けば訪れている。
敵が強ければ強いほど燃えるタイプ。
回転寿司で気に入っているのは、ホタテ。
チビナミ
:力を奪われ、弱体化してロリ巨となった、かつての敵イザ那美。のじゃ口調。
その正体は別世界の人間が過去に非人道的なロストワードの研究の末に作り出した『生体兵器』。
自分が『存在してはならない造り物』ということを理解しており人からは距離を取る所があったが、
現在では寝子島生活を謳歌している。コンビニは魅惑の場所だとか。
回転寿司で好きなのはサーモン。