ずっと探してたから愛しいに違いないとか。
過去がそうだったから、この想いを今世も遂げなければならないとか。
――そんな『決められた』ものでも『決まっている』ものでも、まして『決めていた』わけでもなくて。
「修君?」
過去なのか同名を授かったことによる呼応なのか。
八神 修は今世とは違う記憶をもち、それが夢幻ではなく現実だったと思い知ったばかり。
ふらりと訪れた
祭りで、偶然にも対となる人形を選び取った少女、
七夜 あおいが記憶に焦がれて探していた少女に違いないと、一目会った時には確信していたけれど。
それは風貌でなんとなく……とかではなくて、魂に刻み込まれた直感に近いものだったから、一緒に過ごせば記憶の『彼女』と今の彼女との差異に苦しむこともあるかもしれないと覚悟もしていた。
けれど笑う声も、こちらを見る眼差しも全てが『彼女』だっだから。杞憂はすぐに晴れたのに――記憶の共有は、出来ずにいた。
「なあ、あおいは……」
――あの島の出来事を覚えているか?
そう何度も問いかけて、躊躇する。
同じ記憶を持ち、同じ世に再び生まれ巡り会えたなら、なんと素敵なことだろう。
では、その逆は?
同じ記憶がなければいけないのか――否。
今の彼女と巡り会ったからこそ、心が震えたんだ。ならばこの問いは愚問になる。
(だけど)
自分には二つの記憶があり、同一と言い切るか悩むもう一人の自分が愛した人。
記憶の中の、寝子島で笑っていた七夜あおいを『俺』が愛しているというのも本当で。
今の彼女と誠実に向き合いたいからこそ、口にするか迷った。
「……ごめん、なんか混乱してるみたいで」
「ううん、大丈夫。不思議な夜のお祭りだから、そんなこともあるよ」
小さな夜店のコーナーを遊び倒して、見よう見まねで踊ってみて。休む場所を探すように波打ち際を散策すれば、祭りの喧騒と潮騒の混ざり合う音が違う海の景色を連れてくるから。
今世でやっとあえた彼女と『彼女』が重なってしまうのは、仕方の無いことだと思う。
「修君は、このお祭りに……会いたい人がいたの?」
だから気づけなかった。
あおいの言葉に、僅かな憂いが含まれたいたことに。
「会いたい人はいたけど、会えると思っていたわけじゃないかな」
穏やかに、何かに感謝するように。修が優しく笑うから、あおいはぎゅっと拳を握りしめた。
「……私が、会いたかったのは」
少し大きめの波が打ち付けて、あおいの言葉をかき消してしまう。
砕けた波が風に乗り、頬を湿らせても拭いもせず。あおいは拳をそのままに瞳を揺らす。
何か言葉を誤っただろうかと修が声をかけるより早く、彼女は方向転換してしまった。
「ランタン作ってくる!」
「なら、俺も一緒に――」
「考えたいことがあるの、だから、あとで……一緒に置きに行こうね!」
目線もあわせずまくし立てて走り出した彼女を、すぐに追いかけることができなかった。
――考えたいことがあるのは、自分も同じだ。
それに、『彼女』なら目を見て話すだろうとか、『彼女』なら心配をかける振る舞いをしないとか、彼女と『彼女』を無意識に比べてしまいそうになって、歯を食いしばる。
(そうじゃない)
わかっている、今の自分が何を守り大切にしなければいけないかなんて。
理解はしているんだ、混同してはならないことくらい。
「大切に……したい、だけなんだ」
ただ、選べない。
同一視しているから大事だと押しつけるわけじゃない。
天秤にかけて比べるものでも無い。
どちらも、だなんて欲深いだろうか?
両腕で抱き留められない大きな思いでも、取りこぼしたくなんてなかった。
かける言葉が見当たらず、空を仰ぐ。
月もだいぶと高い位置にあるというのに、祭りの喧騒は静まる気配も無い。
(会いたい人に会える日……)
そうだ、間違いなく会いたかった。
何度と出逢ったかわからない『きみ』を、今世も求めてしまった。
この手は、まだ届くだろうか。
伝えたい言葉は『きみ』に受け入れられるだろうか。
それとも、
――全てを手に入れた『俺』になれば、すべての『きみ』を悲しませずに済むだろうか?
(良かったね、『あなた』に会いに来たんだって)
今世のあおいには、寝子島の記憶は無い。
けれど彼女自身に記憶はなくとも、それを良く知る者と対話出来たのならどうだろう。
どこか自分と近しいようで、まったく他人の視点、思考。あおいは長年連れ添った姉妹のように、時々『彼女』とお喋りを楽しんでいたから、修のことも「知っていた」のだ。
(私はあなたの話す『彼』が好きなんじゃない、『あなたにとっての彼』のような存在に憧れていた)
そんな人が見つけられたらと思っていたのに。対の人形を選べて、この人だって思えたのに。
その上、今は少なくなって、各地に散らばってしまった同じ狐の獣人であったのに。
(あの人は『あなたの修君』なんだね……)
気にすることはないと言われても、素敵な巡り合わせだと言われても。
だって悔しいではないか、恋心が決められているなんて。
運命から差し出された中から選ぶんじゃなくて、好きになる人なんて自分で決めたいのに。
彼が私に微笑むのも、きっともう一人の『あおい』を探していたからで。
私が彼に惹かれそうなのも、心の中で『あおい』が喜んでいるからで。
――私と『あおい』が入れ替わってしまえば。
不思議な不思議な赤い月。
この目に映してゆっくり瞼を閉じれば、次に瞳へ宿るは『誰』の想い?
リクエストありがとうございます、浅野悠希です。
こちらは、八神 修さんのプライベートが満載なシナリオです。
概要
■日時・場所
寝子島があるのかすらわからない世界の、とある島。
夏の夜に、獣人を恋い焦がれる祭りが行われています。
夜の始めというには遅く、満月がまだ真上に来ていない頃合いです。
■状況
寝子島での記憶にお互い振り回され、二人はすれ違いかけてしまっています。
選択を誤ると、-今世の七夜あおい-とは二度と会えなくなるかもしれませんし、
八神さん自身も-今世の八神修-として過ごせなくなるかもしれません。
あおいは宣言通り、キャンドルランタン作りのスペースに居ます。
想いをかため、偽りなく伝えることで【あおい】も気持ちをかためるでしょう。
■できること
赤い月に望むのであれば、寝子島の、あるいはまた別の『理想の自分』になれるでしょう。
但し-今世の八神修-と引き換えにする覚悟を伴います。
同じく『会いたいあおい』を望めば、赤い月は引き合わせてくれるでしょう。
誰かを選択するのか、共存を強く望むのか。
決められた答えはありません、八神さんらしい未来を紡いで下さい。
NPC
今回登場とお伺いしてますのは、NPC:七夜 あおい(if)
寝子島の記憶を持たない、狐の獣人。
けれども『寝子島の七夜あおい』の人格を心の内に持っているようです。
参照シナリオについて ※独自ルール※
他のシナリオ、コミュニティなどの描写や設定を参照することは、原則的には採用されにくいとなっています。事前にお知らせ頂いている物以外は、通常シナリオと同じように記載をお願いします!
・事実を確認するだけで良く、深い読み込みがいらないもの
・どうしても前提にしてもらわないと困るもの
これらに関しましては、できる限り参考にしますので『URLの一部』をお知らせ下さい。
【例】シナリオID3242の9ページと、トピックID2853の181番目の書き込みを参照依頼する。
- T/2853/181の結果を受けてS/3242?p=9で●●を成功しました。●●の情報はある前提の行動です。 -
など、シナリオを『S』としたり、トピックを『T』としたり短縮表記で大丈夫です。
IDから該当ページまでのURLは省略せず、そのまま提示して下さい。
・必須じゃないけど知っておいて欲しいなという事柄については、
余力があれば確認させて頂きますので、ご了承の上で記載お願いします。
※浅野の独自ルールのため、こちらは他MSへ対応を迫る行為はお控え下さい。
それでは、よい夜になりますように!