寝子島。夜中のシーサイドタウン。
そこを歩いているサラリーマンが一人。いい感じに酔っぱらっており、その気分は上々だ。
「ういぃーひっくぁ、あーそろそろ帰らないと母ちゃんが怒るよなぁ」
ふらふらと千鳥足で歩く彼の目の前。ちかちかと光る電柱の光の下に誰かが立っている。よく見れば女性のようだ。
女性は照らされた電灯の中で腰を振りながら男性を誘うように手招きしている。
「あんだぁ? えへへ、おねーちゃんよ、俺を呼んでるのか?」
サラリーマンの男性は誘われるがままに女性へと近づいていく。女性は紫色の髪をなびかせながら、妖しく笑った。
手が届くような距離まで近づいた瞬間、女性は男性を引っ張ると抱き締める。柔らかな胸の感触が男性の身体を硬直させた。
「えへ、へへ、俺には妻も子もいるんだが、まあ、誘われちゃあしょうがねえっていうか」
「あはっ、脂ぎってて貴方……本当に美味しそうねぇ? このまま食べちゃおうかしらぁ」
男性は自分を抱き締めながら身体を撫で回す女性の手に意識を集中して違和感に気が付く。そう、女性の手が多いのだ。
しっかりと男性を抱きしめて掴んでいる手は二本。そして体を撫で回す手が三本、四本と数えていく度に男性の顔に冷や汗が増える。
「は、はは、手が多い? いや、そんなはずは……ッ!」
恐る恐る顔を上げて男性は言葉を失った。
なぜなら、そこにあった顔は女性の顔では確かにあったのだが、その口が明らかに普通ではない。両側に開く虫のような顎に、開いた口の中には小さな触腕が見える。
女性は男性を抱きしめる手に力を込めながら、ちかちかと光る電灯に照らされながら……にたりと笑った。男性の背筋が凍り付く。
「あはっははは、さっきまでの嬉しい言葉は嘘かしらぁ? まあ、いいわぁ。それじゃあ、いただきまぁあす」
夜の闇の中。
暗い誰もいない道で。
男性の悲鳴が木霊した。
◆
「ありがとうございますぅ。また来てくださいねぇ?」
「ああ、勿論だよダストちゃん。君のマッサージ、裏の方だがね、あれ、病みつきになっちゃうんだよ」
小太りの男性が額から出る汗を拭きながら、支払いを終え店の店主である黒髪の女性に笑顔を向けた。
ここはシーサイドタウンにある【ダストのマッサージ店】。
普通のマッサージで体をほぐす他に、裏メニューとして【イケナイ】ことをする代わりに生命力を少しだけいただくといったお店だ。
なぜ生命力をいただくのかというとそれはこの店の店主【ダスト】が悪魔であることに由来する。
彼女は以前、この寝子島に襲来し人々の生命力を糧にする為に猛威を振るったが、寝子島の者らにそれを防がれ以降は心を入れ替えてお店を開き、マッサージの傍ら生きるのに必要な最低限の生命力を貰って生活しているのだ。
定期的に彼女を見張る為、ちーあが来店しているが今の所は悪事を働いている様子はない。
男性客と入れ替わりに金髪赤眼の女性が来店する。わがままボディを持つ彼女は【ツクヨ】。ちーあの仲間であり、彼女もまた悪魔だ。
「久しぶりですねぇ? はぁ……まだツクヨの姿をしているんですかぁ?」
ため息をついたツクヨの目線は自分と同じ姿をしたダストに注がれている。顔つきに始まり、胸のサイズから太ももやお尻の形まで瓜二つと言っていい。違うのは髪色が黒い点と肌が褐色なぐらいである。
ダストはお茶をツクヨに渡しながら椅子に腰かける。足を組んで自らの太ももを撫でた。
「勿論ですよぉ。この体ぁ、すっごい評判なんですよぉ。裏の方でもそれはそれは人気でしてぇ、ふふふ」
「はぁ……それは置いておくとして。聞いてます、最近この辺で行方不明者が出るって話なんですけど」
ツクヨの話によれば、シーサイドタウンで行方不明者が出るとの噂が広まっているようだ。
決まってそれは夜中であり、見知らぬ美女によって誘われるという。
「まさか……何かしでかしてませんよねぇ?」
ダストを睨みつけるツクヨの視線は鋭い。
何かあれば今にも斬りかかってきそうな目線を向けられたダストは平然とした顔で手をひらひらと振る。そして机にあった紅茶を一口。
「やりませんよぉ。そんな割に合わないことぉ。お客さんとぉ、気持ちいことしてぇ、稼いだ方がいいですしぃ」
「そうですかぁ。それじゃ、また来ますねぇ。くれぐれも、注意なさってください。まだ嫌疑は貼れていないので」
それだけ言うとツクヨは店のから出ていく。
静かになった店でダストはもう一口紅茶をすすった。
「……人の縄張りで好き勝手やる羽虫がいるようですねぇ。これはお灸をすえに行きませんと。ふふっ、久しぶりに楽しくなりそうですねぇ」
夜のシーサイドタウン。
街の明かりを電柱の上から眺めている複数の腕を持った美女が一人。その背には虫の羽根が生えていた。彼女の周りには似た姿をした女性【インセダミー】が複数、羽を羽ばたかせ浮かんでいる。
「早くもっと暗くならないかしらぁ。ふふ、うふふ。今日の得物がぁ、とってもぉ待ち遠しいわぁ」
細長い舌を出し、女性――【インセ】は舌なめずりするのだった。
白石 妙子は家路を急いでいた。ちょっとコンビニへ買い物に出たのだが思ったよりも遅くなってしまった。
光の少ない道を歩きながら妙子は身を震わせる。こんな夜道、何かあっては大変だと。
「行方不明者が出るって噂、確かこの辺よね。できればそんな事件には遭遇したくないのだけれど……」
夜の闇の中に何かがいるような気がして妙子の足は自然と早くなる。
ふと、彼女は気づいた。
足音が多いのだ。自分ひとりにしては。
ばっと意を決して振り返る。だが、そこには人の姿はない。いっそ誰か歩いていてくれた方が気が楽だっただろうが、そんな現実はなかった。
ならばなぜ足音が多いのだろうか。
考えてしまえばそれは不安ではなく恐怖に変わる。家路を急ぐ為、妙子の足はいっそう早くなった。
こつこつ。かつかつ。
やはり、一人分多い。そう、足音が。
「これがまさか……行方不明事件の!」
妙子が振り向くと、ちかちかと光る電灯に照らされた道に一人の女性……インセの姿。インセはいくつもある腕を広げると虫の様を思わせる羽を広げ、妙子の身体を舐めまわすように見てにやりと笑うのだった。
お初の人もそうでない人もこんにちわ、ウケッキです。
今回はシーサイドタウンで囁かれる行方不明事件にまつわるお話です。
自分の縄張りを荒らされるのが我慢できない悪魔ダスト。
彼女は果たして、事件の犯人を捕まえることができるのでしょうか。
ダストと共にインセ討伐作戦を決行するもよし、街中で不意にインセに遭遇してしまった、という感じでもOKです。
なお無事に解決できた場合、ダストがお礼として無料でマッサージしてくれるようですよ。
ダストを知らない方や、初めての方でも、お気軽にご参加ください。
◆場所
シーサイドタウン
:夜中のシーサイドタウン。
対象を発見した場合、テオによって世界が切り取られ周囲への影響を気にせずろっこんの使用が可能となります。
◆予想されるルート
インセを見つける為に囮となる
:インセの巣を見つけだす為に囮になります。男性でも女性でも囮になることは可能です。
インセと接触した目撃者の証言によると甘い香りと頭がぼーっとするような感覚があるとのこと。
このことからインセは幻覚の類を使用する可能性があるので注意してください。
巣に持ち帰られる前に味見としてインセは生気を奪う為、
ある程度【イケナイ】ことはされてしまうかもしれません。
インセを討伐する 同行者:ダスト
:囮にインセが喰いつき、巣が判明するまで待機。巣が判明次第、インセを襲撃します。
インセが連れているインセダミーは他ルートの味方に任せ、インセを狙うルートです。
インセとの直接戦闘になるのでこのルートは危険度が高いでしょう。
インセダミーの相手をする
:巣に複数現れるインセダミーの相手をします。
インセダミーは相手の生気を吸い取る攻撃を多用する為、
身動きできなくなった場合【イケナイ】展開になってしまうかもしれません。
◆登場する敵
インセ
:紫髪の女性の姿をした異形。見た目は普通の女性に見えますが、腕が複数あり虫の特徴を持っています。
背中には羽があり、飛行することも可能のようです。
鱗粉を用いた幻覚を使用し対象を【イケナイ】夢へと誘い、さらってしまうようです。
戦闘時は複数の腕の爪による斬撃や衝撃波、鱗粉を用いた幻覚などを多用します。
また近距離でインセに拘束されてしまうと生気を奪われるので注意が必要です。
生気は一定以上奪われると行動不能となり、何もできなくなってしまいます。
インセダミー
:インセが連れているよく似た姿をしたダミーです。
明確な意思はなく、ただ生気を奪う為に行動します。
近接した状態でインセダミーに拘束されれば、インセと同じく生気を奪われてしまいます。
インセと違い吸生行為に特化しているのか、尻尾を持ちその先に吸生器官が存在しています。
◆ダストの支給品
ダストが用意してくれた支給品です。一つだけ持っていくことができます。
・即席火炎スプレー
:殺虫剤を改造した火炎放射器です。30秒ほど火炎が放てます。
替えのガスボンベが2本付属しています。
・強化済みサバイバルナイフ
:通販で買ったサバイバルナイフの刃をダストが特殊加工で刃こぼれしなくした物です。
切れ味も地味に上がっており、それほど硬くない物ならば簡単に裂けます。
・生気シール
:このシールを貼れば、行動不能まで生気を失った場合でも行動可能状態まで即座に回復させます。
3枚セットです。
◆登場人物
ダスト
:悪魔の少女。ちーあの仲間のツクヨと瓜二つの姿をしている。
相手攻撃を読み取り、一度見た攻撃はコピーするという厄介な能力の持ち主。
ただ現在は生きる為に必要最低限の生気しか得ておらず、普段の30%程度しかパワーが出ない模様。
そのお胸サイズはツクヨと同じFカップ。中々にファンが多いのでお店は繁盛しているらしい。