『173回! 【幻の花・硝子彩華】探索ツアー!』
「……このツアー、またやっているのね」
魔行列車 寝子島電鉄・霊界線の中にある張り紙に、そんな形で銘打たれた広告が目に入る。
それを小さな鍵の付喪神、くせっ毛のシャンパンゴールドの髪が柔らかな、
四ツ葉乃 キィの淡い黄金色の瞳が映し出した。
夜に抜け出しては、歩いて今日は霊界線に乗ってここまで来たけれども。
この話は聞いたことがある。付喪神になったばかりの一年前、去年も回数だけが違う同じ張り紙を目にしたこともある。
でも――この幻の花を、この眼で見たという存在の話はキィは一度も聞いたことがない――。
一年前、
場所は、霊界線『浅縹(あさはなだ)駅』、日付は昨日から今朝にかけて。付喪神になったばかりのキィは、目的地へ戻るには時間的に少しの余裕を見出して、丁度停車した『浅縹駅』へと、ほんのりとした興味本位で降りてみることにした。
「……はぁ、今回も、だめでしたね。ポン吉先生……」
「そうであるな……我が助手うさ美よ……」
浅縹駅――霧に包まれた神秘的な蜃気楼を思わせる、神出鬼没な森の駅――のホームにて。
キィが声のした方を目にすれば、そこには二体のあやかしがしょんぼりと立ち尽くしていた。
キィが小首を傾げる中で『ポン吉先生』と呼ばれた、茶釜の胴体を持った付喪神のたぬきと『うさ美』と呼ばれたその助手らしい、脚力のありそうなうさぎの妖怪は、輝かしい朝の光とは対照的に、ホームに二体ちょんと並んでは、二本足で真っ暗な夜のような深いため息をついていた。
その背後には、今回のツアーについて謳った大きな張り紙が見える。
『霊界の浅縹駅の森の中。夜明けに差し込む光を浴びて、目覚めるように咲く、きらきらと煌めく美しいガラス細工のような花が咲くらしい。咲けば不思議な音が響き、その花弁の色と同じ光を散らす、たいそう神秘的な花であるらしい。
それを目に出来る機会は、何十年に一度「でる」と噂される程度のもの。
だが、それを目にするだけでも幸運でありながら、もし透明の中に色づいた花が見られれば、色に応じて様々な御利益を与えてくれるのだ』と――。
「ポン吉先生、これやっぱり条件が厳しすぎるんじゃないですか?
情報が『自然があふれた朝焼けが差し込んで綺麗な水が流れる場所』で。
しかもその花は咲く瞬間まで、普通の花と区別がつかないそうじゃないですかー。やっぱり【硝子彩華】って名前までつけてみたけれども、実際に見たって証明の一つもないとー」
うさ美の言葉に、ポン吉が慌てて首を振る。
「いやいや、それでも! ちゃんとこの173年をただ無為に過ごしてきた訳ではないんじゃぞ! もう、駅がどこに現れようとも場所を把握出来るようになったし、ほれ! こうして花が咲きそうな場所まで地図を作ったではないか!
我々の努力は無駄ではない……はず、なんじゃが……」
キィの存在に気付かない二体は、並んで一緒に俯いた。
話を聞く限り、さすがに噂を追い掛けて一世紀以上の時間を費やしてしまえば、そこに付きまとう虚無は打ち払えるものでもない。途中までは意地であったが、だんだん脱力感の方が強くなってきた様子で呟いた。
「次で……ツアー最後にしません……?」
「次回以降は、気まぐれにやればいいかの……」
完全に心折れ掛けた二体は、互いにポツリと心の本音を洩らしていた。
それが一年前の出来事――。
キィは、それから同じ電車の中で偶然、同じような張り紙を目に留めた。
今年こそ、今年こそは、もしかしたら奇跡が起こるかも知れない――と。
それは、そんな願いを込められた『174回! 【幻の花・硝子彩華】探索ツアー!』の募集の宣伝ポスターだった。
大変お久し振りでございます。初めましての方も、どうか宜しくお願い致します。冬眠と申します。
この度は『霊界☆ミーティング <霊界の謎を追え!>』の中より、四ツ葉乃 キィ様のお話をお預かり致しました。
素敵なお話、またシナリオガイドのご登場、誠にありがとうございました!
それでは、以下より状況内容を説明させていただきます。
現状
何十年かに一度、特定の条件下でしか咲かないガラス細工のような美しい花『幻の花』を求めて、律儀に年に一度、一度は目にしたいとツアーを企画していた、あやかし『ポン吉』と『うさ美』の努力が実を結んだようです。
あやかしの一念が岩をも通してしまったしまったのか、偶然、今年この時期、最後のツアーとして霊界で企画された、
『174回! 【幻の花・硝子彩華】探索ツアー!』
にて、今まで見ることも叶わなかった、その幻の花の咲く姿が目撃できる可能性がございます。
▼『硝子彩華』って?
ポン吉とうさ美が、ツアーを企画するに当たって『幻の花』だけでは物足りないからと、まだ見ぬ花に勝手に命名してみたものとなります。
(アクションではどちらの名称でも構いません)
○幻の花の咲く場所は、明確には分かっていません。
しかし、ポン吉の200年近くにわたる研究により、共通点となる『自然があふれた、朝焼けが差し込んで綺麗な水が流れる場所』には、いくつかの当りが付いているようです。
○幻の花は、一見では他と判断のつかない蕾の状態で夜を越します。
それが、朝焼け一番の光を浴びた瞬間に、花により煌めく色の光と共に花ごとに特有の音を立てながら花開き、まるで繊細なガラス細工のような花びらを開かせます。
できること
○場所は霊界ツアーですが、あやかし以外のひと、もれいび、ほしびとも、霊界線に迷い込んだということで、ツアーへの参加が可能です。
その場合でも、ポン吉とうさ美が、これでもかという程に、ツアー内容について教えてくれるので、迷う心配はありません。
○ツアー参加者には、妖力により幻の花が咲くらしい場所候補と、自分のいる位置、今の駅の位置が浮かび上がる地図が配られます。
あっさり見つけるのも、候補を巡りながら苦心の末に見つけるのも、幻の花を見つけられなかったということも、アクションにご記載いただければ、ご自由にお選びいただけます。
○噂によれば、無色透明な花弁の他にも、見つけた花によっては以下のような幸運の恩恵が受けられるとか。
・薄桃色の花は恋の願い
・金色の花は幸運
・水色の花は癒し
などなど、他にもあるかも知れません。
噂によれば『恋人、友人知人でいけば効果倍増』という話も……?
上記にない願いのご希望がある方は、アクションにその幸運の恩恵イメージを、『何でも良いからおまかせします!』という場合には、MSへ【おまかせ】とご記載下さい。
※基本的にその場での効果は、どれも劇的なものではなく、仄かで温かく『そうなったら良いな、と思える』程度のものとなります。
NPCについて
※今回は、シナリオ参加PC様のみの描写となります。
誠に申し訳ございませんが、ご了承の程を戴ければ幸いでございます。
非常に久方ぶりとなります為、大変緊張しておりますが、それ以上に皆様の素敵なアクションを、心より楽しみにさせていただいております。
それでは、どうか宜しくお願い致します。