しとしとと雨の降る夜だった。
旧市街地参道商店街近くの路地を少し入った所にある、お好み焼きの『うさぎ屋』では、店主の
宇佐見 満月が暖簾を仕舞おうとしていた。
「お客さんかい? ごめんよ、今日はもう店じまいなんさね…」
気配を感じた満月が振り向くと、白いカッパを着た人影が、路地の角を曲がって消える所だった。
「きゃ―――っ!」
直後に女性の悲鳴が聞こえ、満月は手近にあった箒の柄を握り締めて駆け出した。
最近、商店街では盗難や悪戯が相次いでいた。それも決まって雨の降る夜に。この上、痴漢まで現れたのかと満月は苦々しく思う。
「大丈夫かい!?」
駆けつけた満月に問われ、蒼ざめた女性は震えながら商店街の角を曲がって逃げる犯人を指差した。
「お待ちっ!」
雨の中、犯人に追いついた満月は、持っていた箒の柄を力いっぱい握りなおし、逃げる白い影に向かって思い切り振り下ろした。
「女の人を襲ったのはあんただね! 観念おしっ!!」
その時、満月のろっこん『BAD HABIT』が発動した。
――ガツン。
「……ちょっと、力が入りすぎちまったかねぇ」
満月は慌てて地面に倒れ込んだ人物を助け起こす。
「……て、てるてる坊主!?」
満月の腕の中では、泥に塗れたてるてる坊主がぐったりと横たわっていた。
最近、商店街では、空き店舗を利用して小さなイベントが行われていた。今は、郷土資料の展示中だ。その資料の中に、晴れ乞い祈願に使われたという、てるてる坊主があったのだが、それが盗まれたのが一週間前。
これは、その盗まれたてるてる坊主に違いないのだが、
「なんで、こんな所にあるんさね?」
とにかく、ここに置いておく訳にも行かないと、満月がてるてる坊主を抱え上げた瞬間、ぱらり、とてるてる坊主の首の紐が切れ、中に詰まっていた綿や藁が形を崩す。
「おっと!」
慌てる満月に降る雨がぴたりと止んだ。不審に思った満月が顔を上げると、
「……てるてる坊主」
巨大なてるてる坊主が4体、宙に浮かんで満月と壊れたてるてる坊主を見下ろしていた。
満月の喉がごくりと鳴る。
てるてる坊主達は、混乱したように満月の上をぐるぐると飛んだ後、4体それぞれがでたらめに商店街を飛び回り始めた。
てるてる坊主達の体についた泥が、商店の壁や屋根を汚して行く。
「最近、商店街に泥を撒き散らすイタズラを繰り返してたのは、あんた達だね!」
満月の一喝に、怯えたてるてる坊主達が逃げ惑う。
「待ちなっ!」
追おうとする満月の足元の土がぼこりと1メートルも盛り上がった。
突然出現した土柱に、慌てて足を止める。
同時に、手近にあった空の一斗缶をてるてる坊主に向かって投げつけたが、別のてるてる坊主が近くの鉄柱に頭を押し付けると、一斗缶は軌道を変え、その鉄柱にくっついてしまった。
「なんだってんだい!」
驚く満月に、ソフトボール大の水の塊が襲い掛かる。
満月は、それを近くに出されていたダンボールで防いだが、
――シュッ!
摩擦音に顔を上げれば、1体のてるてる坊主が、満月の持つダンボールに頭を擦り付けていた。
その直後、ダンボールが発火する。
「あちっ!」
満月は思わずダンボールを離し、すぐに火を消そうと試みる。
その間に、てるてる坊主達は商店街を泥まみれにしながら、満月から遠ざかって行った。
「逃がすもんかねっ!」
後を追おうとした満月は、今度はぽっかりと開いた穴に足をとられ落ちそうになる。
かろうじて踏み止まったが、てるてる坊主達の姿は完全に見失ってしまった。
まさか、商店街の人達がこのところ悩まされている、泥を撒き散らす悪戯の犯人が、盗まれたてるてる坊主だったとは。
商店街中に泥を塗りたくられては、毎回掃除するのも大変な労力だ。
犯人がわかった以上、このままにはしておけない。
しかし、
「こんな話、誰が信じてくれるさね…」
満月は、腕の中の壊れたてるてる坊主を見ながら、困った顔でため息をついた。
登場して頂きました、宇佐見 満月様に感謝申し上げます。
さて、梅雨が終わりそうですが、てるてる坊主です。
てるてる坊主達は、その昔、晴れ乞いの儀式の為に作られましたが、
晴らす事が出来ずに処分される所を免れた貴重なてるてる坊主です。
現在は神魂の影響で動けるようになったばかりで混乱し、逃げ回っているようですが、
晴れ乞いの儀式を執り行い、本来の使命を果たさせてやれば、
てるてる坊主達から神魂の影響は消えるでしょう。
てるてる坊主は、全長150センチ程度。
それぞれの首をくくっている紐が五色(緑・赤・黄・白・黒)になっていて、
今回、壊れてしまったのは緑首坊主です。
てるてる坊主達は、地上から通常30センチ、最高2メートルまで浮き上がれる浮遊能力と、
それぞれ別の能力を持っています。
・赤:発火能力。頭を可燃物にこすり付けるとそれが発火する。
・黄:地盤沈下。幅50センチ、深さ2メートル程度の穴を開ける。
代わりに直径5メートル以内のどこかが隆起する。
・白:磁力操作。金属製の物に磁力を付与する。
・黒:水操能力。雨を集めたり、水溜りの水を操る事が出来る。
一緒に展示されていた儀式の解説には、
「十尺の柱を中心に祭壇を造り、てるてる坊主五体を吊るすべし。
祭壇の回りに「光る物」か「光を呼ぶ物」を供えよ。
白い手拭いを被りて、祭壇の周りにて、晴れ乞いの歌を歌い皆で踊るべし」
※十尺=3メートル
※白い手拭い=白いフェイスタオル・バスタオル程度でよいと思われます。
祭壇と柱の資材ですが、寝子島大橋近く、寝子島街道沿い(J2)のあたりに廃材置き場があります。
管理人に学校の工作で使う…など、何かしらの理由をつけてお願いすれば、心良く分けてくれるでしょう。
儀式を行う場所ですが、寝子島神社石階段前の開けたスペースが使えそうです。
逃げ回る4色首紐のてるてる坊主を捕え、壊れたてるてる坊主を修復し、
祭壇を作って晴れ乞いの儀式をして、てるてる坊主達の心残りを昇華させてあげて下さい。
なお、てるてる坊主に精神攻撃は効きません。
ではでは、皆様のご参加、心よりお待ちしております。