「さて、どうしたものか。予算の都合上、これ以上修繕に時間は掛けられんし……警備の数を増やすにも……うーむ」
魔戒の君主……領主のようなものの一人、悪魔
【ヴァレフォール】は頭を抱えていた。
彼が悩むのは自分の領地内で起きているとある事件のことだ。
古い鉱山を活用しようと彼の部下が掘り返し坑道内を整備していた所、突如として巨大なゴーレムが現れた。
部下たちは魔戒の兵器として一般的な魔力で動く機械【魔導兵器】を用いて応戦したのだが……全く歯が立たなかったのだ。
蹴散らされ、散り散りとなってしまった部下たちは我先にと逃げ帰っていた。
なんとか戦おうと考える者もおらず、巨大なゴーレムに圧倒され闘争心よりも恐怖心が勝ったのだ。これで戦闘担当の兵士だというのだから驚きである。
だが、それも無理はない。
彼らは巨大な魔物との戦闘経験がなかったのだから。
あるとすれば犬や猫サイズの小さな魔獣狩り程度で、自分の力量以上の相手とは戦ったことがないのだ。
実は魔戒では最近まで大がかりな戦闘が起きていない状態であり、兵士は実戦経験のない者も増えていた。
実戦経験がある者も先程述べた小型の魔獣や魔物相手だけで強力な相手とは相対したことがないといった始末。
それ故に、魔法科学によって作成される魔導兵器の研究も“実戦データの不足”といった事態もあって遅々として進んでいないのだ。
結果、一向に更新されない魔導兵器の旧式化が問題となっていたのである。
昨今は理由が不明だが……それぞれの君主の領地で強力な魔物の動きが活発化し、戦闘に不慣れな部隊で対応せざるを得ない状況であった。
旧式の兵器に錬度の低い兵士。そんな状況では強力な魔物の出現に対応できるはずもない。
そんな状況でヴァレフォールは坑道に現れたゴーレム
【グレンデ・ゴレムス】への対処をどうするべきかと思案していたのだ。
現状、彼の手勢や運用している魔導兵器で対抗できる手段は無いといっていい。
「ぐぬぬ……無理を承知でバエルとかアモン辺りに任せるか? いや、奴らに任せるとかえって被害の方が大きくなる……ふむぅ、どうしたものか」
そんな彼の私室へ一人の少女が現れる。暗褐色の肌に明るい赤の髪色……彼女は
バアルーナ。自称、普通の悪魔。
「ふっふっふ……お困りのようですねー? このバアルーナちゃんがすぱぁっと解決してあげても、いいんですよー?」
「……おい、どういうつもりだ。お前はバアルーナなんかではなく、バア――むがっ!?」
そこまで言いかけたヴァレフォールの鳥頭がかち上がる。顎先をバアルーナの鋭い蹴りが撃ち抜いたのだ。
彼女はにっこりと笑い、ヴァレフォールの胸ぐらを掴むとぐいっと詰め寄った。
「いいですかー? 私は【バアルーナ】。それ以上でも、それ以下でもないんです。わかりますかー、鳥頭さん?」
「うぐっ……わ、わかった、もうそのことはいい。だが、解決といってもどうするつもりだ? 正直、今の魔戒に真面な戦力がいるとは思えんが……」
「安心してくださいよー。“魔戒には”いませんけど、私には心強い仲間たちがいますからねー。その方たちの力を頼ってみましょう。お仕事として依頼すれば、きっと力を貸してくれますよ、いい方たちですから」
バアルーナの言葉にピンとこないヴァレフォールは首を傾げる。はて、そんな当てがあったかと。
そんなヴァレフォールなど気にせず、バアルーナは自信たっぷりの表情で彼を見下ろすのであった。
◆
「それで、あたしたちに白羽の矢が立った、というわけなのね?」
寝子島の面々のおかげで設営された【探索者ギルド魔戒本部】の会議室にて作戦説明に参加していた
尾鎌 蛇那伊はバアルーナに問いかける。
蛇那伊の問い掛けににっこりと笑顔でバアルーナは答えた。手には差し棒を持ち、壁に掛けられた坑道内の地図を指している。
「そういうことになりますねー。今回のお相手は結構厄介な奴です。全身に魔法を防ぐバリアを持っている上に、力もものすごーく強いんです。身体の硬さなんかカッチカチですよ」
グランデ・ゴレムス。魔戒に生息するゴーレム種族の中でも硬さと強い力が特徴のゴーレムで魔法がほぼ効かない。
その上、硬さも並みの兵器や攻撃ではびくともしないのだからたちが悪かった。
「物理耐性が強く、魔法的な攻撃には頼れない……難しい相手ね」
地図を真剣に見ている
三条 神無は腕を組み、じっくりと考え込んでいる。
坑道の内部は狭く入り組んでいることから、迷わないようにすることも視野に入れるべきだと彼女は思ったようだ。
「弱点とかそういった類に物はないのかしら。正直、そういうのがない相手というのは生物である以上、考え難いのだけれど……」
足を組み替える蛇那伊は生物としての脆さや弱点となり得る部位がないかとグランデ・ゴレムスの写真画像を眺める。
巨大ではあるが人型である以上、どこかしらに構造上の脆い部分はあるはずなのだ。
「弱点ですか……そうですねー。雷のエネルギーで動いているゴーレムですから周囲からのエネルギーを受け取る器官を破壊すれば……ある程度は弱体化すると思いますね」
バアルーナが言うには、グランデ・ゴレムスは身体の各部位に周囲から魔力を吸収する器官を持っており、それによって魔力の膜で体を覆い、圧倒的な防御力を誇っているとのこと。
魔力の供給が断たれれば、ただのでかい石のゴーレムなのでそこまで高い防御は発揮しないとのことだった。
「ですが、破壊するのは難しいですよー? なんていっても現れた場所が悪くて……」
「場所が悪いって、どういうことよ?」
神無の言葉にバアルーナは頭を掻きながら説明する。片手には寝子島から持ってきたお菓子が握られていた。説明しながらさくさくと食べている。
「あむっ、むぐむぐ……いいですか、奴は魔力を餌にするんです。そして、この
坑道で取れるのは魔力を多量に内包した
“魔鉱石”なんですよ」
「……彼にとっては周りが全部、ごちそうの山って感じなのね? ふぅ、これは骨が折れそうな戦いになるわねぇ」
蛇那伊はそう言って溜め息をつく。
餌が豊富にあるということは、エネルギー供給が無尽蔵ということ。
それは相手が常に強化される絶好の場所であり、相対する側としては常に不利な状況となってしまう。
そんな状態で弱点を狙って戦い、弱体化を目指すというのは実に難しいと言えた。
だがこのままグランデ・ゴレムスを放置すれば、ヴァレフォールの領地の収入は減り、彼やその領民が窮地に立たされてしまうことだろう。
「さてと、それじゃあ皆で人助けと行きましょう。張り切って行くわよーっ!」
蛇那伊の掛け声にその場の全員は共に腕を振り上げて呼応する。
例え、強力な相手だろうとも。
不利な状況であろうとも。
困っている人々がいるならば、救いたい。
この場に集まった者たちはそう思うのだ。
バアルーナはその様子を見て静かに微笑む。
(そうです、そういう人々だからこそ私は……我はあなた方を頼るのです。魔戒の民もいつの日か、こうあってくれると良いのですが……)
魔戒の民を憂うバアルーナの表情はいつもの明るい少女の物とは少し違って見えた。
それは人々の行く末を心配し、それに心を砕く君主の物。いや、それ以上、もっと上から見ているというべきか。
だが今はそれを語るべきではないのだろう。
彼女の真実は彼女自身から語られるべきなのだから。
お初の人もそうでない人もこんにちわ、ウケッキです。
【Satan's Quest】(サタンズ・クエスト)二話目でございます。
このシナリオでは前回から配布されているアイテムを持ち込み、運用することが可能です。
また、バアルーナからの支給品も一つだけ選んで持っていくことが可能ですのでご活用くださいませ。
配布アイテムと支給品一つを持って挑むことも可能ですよ。
なお【Satan's Quest】は寝子島各地に出現する不思議な掲示板から依頼を受注することで参加することができます。
一般人には見えない特殊な掲示板ですが、迷い込んだという体で参加するのもありです。
前回から引き続きのご参加はもちろん、初めての方でも大歓迎です。
それでは皆様のご参加をお待ちしております!
※このシリーズではろっこんが強力に描写される場合があります。
アイテム配布について
今シリーズ【Satan's Quest】に関しましては、参加した方全員に、記念アイテム(イラスト付き)が配布されます。イラストの担当はあきのあです。
当シナリオでは、魔獣の素材を使った記念アイテムがもらえます。
なお、アイテムは「私のシナリオ以外には持ち込めない」のでご注意くださいませませ!
それらを用いたイラストの発注などは今シリーズのイラストを担当する【あきのあ】へ送っていただければ安心かと思われます。
デザインなどはあきのあの担当ですので!
アクション
◆敵の情報
グレンデ・ゴレムス
:全身に雷のエネルギーを纏った巨大なゴーレム。
非常に力が強く、その体も特殊な魔法の膜で覆われており、物理に高い耐性を誇る。
魔法の膜は魔法を遮断する為、膜で覆われている間は魔法が一切通用しない。
幸い動きは緩慢の為、素早い動きで翻弄することが推奨される。
身体に数か所ある魔力を吸収する器官を破壊すれば膜が消失し、大幅な防御力ダウンを起こして魔法も通用するようになる。
なお魔力を胸部にあるコアクリスタルに集め放つ【マナブラスト】や身体から生える棒状の器官を飛ばし
自立する魔法砲台として運用される【リフター】など、強力な攻撃を多数持つ為にとても注意が必要な相手。
坑道が自分にとって優位な場であることを理解しており、坑道からは出ようとしない。
坑道の亡霊
:過去に落盤事故や掘削事故で死亡した亡霊。
坑道内をさまよい、生者を見かけると命を奪おうと襲い掛かってくる。
幽霊ではあるが物理攻撃が通用する。
攻撃手段は浮遊しながら引っ掻く程度しかもっていない。
坑道の悪鬼
:坑道内をうろつく小さな小鬼。身体は子供程度と小さく、力も弱いが数が多い。
女性に目がなく、女性を見かけると集団で襲い掛かって来るので注意。
女性の生気を吸収する器官を持つ。
◆予想ルート
グレンデ・ゴレムスと対峙する 危険度:とても危ない
:坑道内を歩くグランデ・ゴレムスを相手するルート。
狭い坑道での戦いになるので仲間との同士討ちに注意が必要。
坑道の亡霊を片づける 危険度:まあ危ない 同行者:バアルーナ
:グレンデ・ゴレムスと戦うメンバーが亡霊に邪魔されないように周囲の亡霊を片付けるルート。
数が多く、壁や床などからも現れる為に囲まれないように注意。
あまり掃討できないとグランデ・ゴレムスと戦っているメンバーが邪魔されてしまう。
坑道の悪鬼を相手取る 危険度:アブナイ
:坑道をうろつく坑道の悪鬼を討伐するルート。
坑道の悪鬼は女性と見るなり、集団で襲い掛かってくるので非常にアブナイ。
囲まれれば“とても違った意味で危険な目”にあってしまうだろう。
◆バアルーナの支給品
スラッシュセイバー
:魔鉱石を製煉した金属からできている非常に軽い剣。
切れ味も素晴らしく、並みの魔物であるならば一刀両断にできる。
だがグレンデ・ゴレムス相手には刃こぼれしない武器といった効き目程度。
なお、一度だけ込められた風の魔法を解放し二倍の速度で動けるようになる。
その効果は20秒。しかし解放後は全身が筋肉痛状態になってしまう。
フレイムセプター
:火の鉱石が埋め込まれた機械杖。
手元にあるトリガーを引いて先端を相手に向けることで炎の魔弾を射出する。
下部にあるスロットを開き、チャージ状態にしてから放つと火炎放射のような魔法を放つことも可能。
充填されている魔力を使い果たすと、30秒のチャージが必要となる。
お手軽薬草キット
:魔戒の薬草の中でも人体に回復効果をもたらす薬草が詰まっているキット。
箱状の本体を開いて真ん中のボタンを押すことで数秒でカプセル状の回復薬が生成される。
回復薬は飲んでもいいし、対象にぶつけても弾けて回復効果をもたらす優れ物。
使用回数は5回。
◆報酬アイテム
:グランデ・ゴレムスの素材からバアルーナが【翼のようなもの】を作ってくれるようです。
登場人物
バアルーナ
:魔戒の悪魔の少女。普通乳。美乳。
どこかの組織の制服を纏っており自らを【探索者ギルド】所属と名乗る。
本名を隠しているようだがその正体は不明。どうやら敵ではないようだ。
なおテオと面識があり、彼の知っている姿とは異なっている模様。
馬鹿っぽく見えたり、急に聡明な事を言い出したりと捉えどころがない性格。
素材からアイテムを作る技能を有しているようで、魔物からアイテムを作るのはお手の物。
お菓子が好きなようで寝子島のお菓子が大変気に入ったようである。