寝子島はあらゆる世界と繋がって来た。
魔界、星幽塔……細かな所まであげればキリがない。
しかし、まだ知られていない世界があった。
魔戒。そこは魔界とは異なる別世界。
大魔王【バアル】を頂点とした72人の【世界柱】と呼ばれる悪魔達が統べるその場所は魔法文明が発達し、機械と魔法が融合した魔科学とも言える技術によって繁栄していたのである。
そして……ここ寝子島に
【魔戒】との扉が静かに開こうとしていた。
そこは九夜山の頂上付近、ばちばちと雷が鳴り、地面から一筋の光が伸びる。
それは一瞬で見えなくなり、次の瞬間には九夜山の頂上には小さな小屋ができていた。
小屋には大きな看板が付けられておりそこには
【探索者ギルド・寝子島支店】と描かれている。
「よいしょっと、へへ、こんな感じでいいですかねー」
その小屋から出てきたのは一人の少女である。
暗褐色の肌に赤い髪、帽子のサイドからにょきりと伸びる蒼と黒を混ぜたような色の角。腰には悪魔の羽がある。
どうみても人間ではないその少女は額の汗を拭うと緑色の制服をちょいちょいと身綺麗に直す。
「さてさて、ではそろそろ来る頃ですかねー……あ、来た来た。おーい、ここですよーっと」
手を振る少女が見る方向には小さな猫がいる。そう、テオだ。
テオは溜息をつくと彼女の方を面倒そうな表情で見る。
「はぁ……お前か。魔戒の連中が何の用だよ? こっちは魔界の方をなんとかして面倒ごとはもうごめんなんだが?」
「そこを何とか! いやー私達だけじゃどうにもならなくって。で、この島の人達のお力を貸してもらおうかと!」
仰々しくお願いするようなポージングを取る少女を見てテオは再び大きな溜め息をついた。
「わかった、それじゃ場は設けてやるから……その動きはやめろ。なんか、こう、うん……」
「ええぇー? 何が駄目なんですかぁ?」
「だってお前は本来……バア――」
「――しー、それ言っちゃ駄目なやつですからね」
ぶりっこしているような少女の動きは移動中も続き、テオをひたすらに疲労させたのであった。
◆
「――と、いうことでだ。俺は場は設けてやれるが力は貸せない。それだけヤバイ場所なんだよ魔戒ってのは。いつもながらで悪いが、後は任せたぞ」
それだけ言うと部屋からさっとテオは出て行ってしまう。
その場に残された
八神 修と
常闇 月は少女の話を聞くことにした。
「えっと、こほん。それでは自己紹介しますねっ、私は魔戒の悪魔の一人……バア……あ、げふんげふんっ!」
むせ返るようにわざとらしい咳をした少女は自身を
バアルーナと名乗った。明らかに偽名っぽいがそこは突っ込むべきではないのだろう。
「それでそのバアルーナさんが寝子島まで何をしに来たんだ? 見た所、侵略とか物騒なことが目的じゃないみたいだけど……」
「よくぞ、聞いてくれましたっ! 実は……魔戒では現在、様々な困りごとが起きてまして……それの対応に各悪魔の長達だけじゃ手が回らない状況でして」
お茶を飲みながらそう話すバアルーナを見ながら常闇は尋ねてみる。悪魔の長がどうにかできない問題とはなんだろうかと。
「悪魔の長でも手が回らないのであれば、私達のような人間では難しいのでは?」
「いえいえっ! 皆様は様々なやっかいごと、困りごとを解決するプロだと! わた、げふえふっ、お、長達が申しておりました故! で、何とかして頂こうとギルド支店を作ったんですよ、九夜山の頂上に」
バアルーナはお菓子の袋を開け、はむはむと食べている。
これは他世界の民と会うとテオに聞いた八神が急遽、用意したものだった。
「いやーこっちのお菓子は美味しいですね! 正直、あっちじゃこういうのないですからねぇ……いや、作るのもありかな」
「口に合ったようでよかったよ。それで具体的に俺達は何をすればいいんだ?」
「あ、はい。えっとまずはギルドから魔戒に繋がる拠点を作成する必要があるんですよ、あっちは人が通れるような物がほぼないですから。で、拠点を作ったら周辺の依頼を片づけていくって感じですね」
お菓子をかじりながらバアルーナは懐から羊皮紙を出しそれを机に広げる。
そこには魔戒での活動拠点制作のお願いと記されており、最後には依頼者【バアル】と記名されていた。
「おい、待ってくれ。これ依頼主がゴエティアの序列1位バアルじゃないか。そんな大物が絡んでいるのか?」
「えっ、ああーはい、あの方もえふんえふん、忙しい方なので。人が役に立つなら手を貸して欲しいと、もぐっ、おおへなのへふ、ひゃい」
美味しそうにお菓子を頬張りながらバアルーナは満面の笑みで答えた。それは勿論、お菓子の味に対しての笑みだろうが。
彼女が広げた羊皮紙には
『拠点建設地点にうろつく大型魔獣の討伐』と依頼文があった。
八神はそれを見るとふむ、と顎に自らの手を持っていく。その顔はどう対処すべきか、考えている顔だった。
ある程度お菓子を平らげ満足したのか、バアルーナは羊皮紙に書かれた依頼の説明を始める。
「えっと、こほん。依頼を受けてくださった場合は
私と共に魔戒へと赴いてもらいます。武器やアイテムに関してはある程度支給されますが不足な分はご自分で用意してくださいね。現地採取もありっちゃありです」
「現地採取、ですか? 魔戒には人でも食べられる草とか使えそうな武器とかがあったりするのでしょうか」
常闇の素朴な疑問にバアルーナはにこっと笑って答えた。笑った際に口の端に牙が見える辺りは流石悪魔と言った所か。
「ええ、まあ。食べて死ぬことはないですが、どうなるかの保証はしません。武器に関しては場合によっては何か落ちてる可能性もありますねー。そちらも使っての命の保証はできませんが」
笑顔で物騒なことを言い出すバアルーナだが、そこは悪魔と言った所。
どうやらテオの言う通り、魔戒は優しい世界ではないらしい。
「それでは、このご依頼……一般人には見えない掲示板に張り出して島中に置いてきますので! 良かったら受けてくださいね!」
それだけ言うとバアルーナは、すっと立ち上がり部屋から足早に出ていった。
その背中を見送った常闇は空になったお菓子の皿を見る。
「……しっかり残りも全部持っていきましたね。ふふ、よっぽど気に入ったんでしょうか」
「かも知れない。まぁ、今回は友好的な人達のようで良かったよ。毎度、侵略者だってのじゃ困るからな」
八神はすっかり冷めてしまったお茶を口に流しながらそう呟いた。
寝子島は他世界からの侵攻が多い場所だ。理由は定かではない。
そんな場所で数多の者達と渡り合ってきた彼らだからこそ、できることもあるのだ。
お初の人もそうでない方もこんにちわ、ウケッキです。
異世界マシナリア編とは違ったメンバーでお送りする別シリーズ【Satan's Quest】(サタンズ・クエスト)。
魔界とは異なる世界、魔戒を探索し、各地の悪魔達からの依頼を受けて進んでいくのが今シリーズの特徴です。
依頼には面白い依頼から、シリアスな依頼、悲恋、色恋など様々を予定していますので今後をお楽しみに!
並行して異世界マシナリア編も進めていきますのでそちらも良かったらどうぞ!
アイテム配布について
今シリーズ【Satan's Quest】に関しましては、参加した方全員に、記念アイテム(イラスト付き)が配布されます。
当シナリオでは、魔獣の素材を使ったアイテムがもらえます。
なお、アイテムは「私のシナリオ以外には持ち込めないか、効果が発揮されない可能性がある」のでご注意くださいませませ!
それらを用いたイラストの発注などは今シリーズのイラストを担当するあきのあへ送っていただければ安心かと思われます。
アクション
※これらのシリーズではろっこんが強力に描写される場合があります。
※一般人には見えないとありますが、迷い込んだという体で参加するのもありです。
◆勝利条件
魔獣【リヒト・グレンデル】の討伐
◆敗北条件
バアルーナの死亡
拠点設営地点の簡易キャンプの崩壊
◆場所
魔戒・冒険者拠点設営地点
:魔戒の僻地にあるキャンプ設営に適した開けた丘。
ここに簡易キャンプが現在設営されており、拠点設営の為の資材が保管されている。
簡易キャンプ故にその防御は薄く、攻撃されればたちまちに崩壊してしまうだろう。
なお、バアルーナはこのキャンプにいる為、キャンプを守ること=バアルーナの防衛に繋がる。
◆敵の情報
魔獣【リヒト・グレンデル】
:頭のない巨人型の魔物。筋骨隆々とした見た目であり、力任せの打撃が得意。
魔法の膜で覆われている為に魔法、ろっこんが効き辛く、物理も硬い筋肉の鎧によって効き辛い凶悪な相手。
知能が低い為、簡単な罠でもかかる傾向にある。
キャンプを中心に円状にうろついている。
魔獣【ガルナド】
:オオカミを思わせる人型の獣人であり、彼らは群れで行動している。
手には鋼の剣、もう一方の手には鋼の盾を装備した戦士型の魔獣。
手堅い防御と相手の隙をついたカウンターが得意技。
現在、グレンデルを警戒しているのか彼を避けながらキャンプを狙っている模様。
魔獣【ガルナドーア】
:ガルナドの亜種であり、全身が薄灰色の毛に覆われている。
多種族の“女性”から生気を奪うことが無類の喜びであり、彼らは女性見かけると執拗に追跡する習性がある。
反面、武器を持たず戦闘能力はガルナドに及ばないので脅威度は低い。
◆予測されるルート
・グレンデルと戦う 脅威度:とっても危ない
:魔獣リヒト・グレンデルと戦うルート。
グレンデルの一撃は脅威の一言に尽きる為、彼の攻撃は回避推奨。
罠を上手く活用すると……?
・拠点を守りガルナドを相手取る 脅威度:まあ危ない
:魔獣ガルナドを相手にするルート。
手堅いガードとカウンターをメインとしたガルナドの群れをどう相手するかが重要。
寒さに弱いようなので……?
・ガルナドーアを狙う 脅威度:別の意味でアブナイ
:魔獣ガルナドーアを相手にするルート。
一体、一体は弱く倒すのに苦労しないが群れで行動している上に隠れるのが得意な種族なので注意。
もしも捕まった場合は生気を吸いつくされてしまうと思われる。
◆支給されるギルド装備
・疾風の槍
:風を纏う鉱石で作られた風属性のヤリ。振るえば風の刃を巻き起こすことができる。
非常に軽い素材でできており、力のない人も安心。
・マナショットガン
:魔戒の大気に満ちる魔力を弾丸として打ち出すショットガン。
集弾性は悪いがその拡散力は中々のもの。密着して撃てば殺傷力も高い。
マガジンは5発装填。打ち切った後はリロードすれば再装填される。リロードは5秒かかる。
・炎の壺
:5個セットの炎の壺。纏めて投げるもよし、1個ずつ使うもよし。
可燃性のどろっとした液体が入っており、投げつけると割れた衝撃で炎をばら撒く。
持続性があり1分程度は燃えたままとなる。
・電磁ネット バアルーナ・エディション
ギルド支給装備の電磁ネットにバアルーナが改良を加えた物。
通常の物よりも出力が高く、大型の魔獣でも数秒は動きを完全に停止させられる。
しかし使用者の事は考えておらず、使用すれば発動までに逃げきれず一緒に痺れてしまう。
◆報酬アイテム
グレンデル素材の何か。バアルーナ製作。
:バアルーナがグレンデルの素材をベースに【マントっぽい何か】を作ってくれるようです。
登場キャラ
バアルーナ
:魔戒からやってきた悪魔の少女。普通乳。美乳。
どこかの組織の制服を纏っており自らを【探索者ギルド・寝子島支部】所属と名乗る。
本名を隠しているようだがその正体は不明。どうやら敵ではないようだが。
なおテオと面識があり、彼の知っている姿とは異なっている模様。
馬鹿っぽく見えたり、急に聡明な事を言い出したりと捉えどころがない性格。
素材からアイテムを作る技能を有しているようで、魔物からアイテムを作るのはお手の物。
お菓子が好きなようでこの世界のお菓子が大変気に入ったようである。