湿った風は海の匂いを帯びている。
頬に触れては気まぐれに去ってゆく夜風を何気なく追いかけて、真っ暗な砂浜に至る防風林の半ばに揺れる光を見た。
曇天の真夜中に、今にも切れそうな電灯のような、風に揺れる蝋燭のような。
家を出たときから手にしている携帯電話の画面の時計が示すのは、夜も夜、真夜中も真夜中。
首を傾げれば、ちりん、と涼しい風鈴の音が耳に届いた。ひとつきりではなく、風に揺れては鳴る、たくさんの風鈴の音。ちりちり、ちりりん。
音は、光の方から聞こえてきている。
涼やかな音に誘われ、足を向ける。暗がりにざわざわと揺れる防風林の中の石畳の小路を進んだその先には、小さな海の家があった。
夏を待って閉ざされているはずの海の家は、けれど真夜中に光を灯して開かれている。海を臨む軒先には百にも及ぶ風鈴が吊り下げられている。
硝子の中に魚が泳ぐデザインのためか、鈴を鳴らす舌さえ煌めく玻璃であるためか、入口付近の小さな外灯の光を反射させるさまはまるで光の海の中に迷い込んだかのよう。
漣にも似る風鈴の音を聞きながら、海の家を覗き込む。
座布団と膝掛用ブランケットが並ぶ縁側の端には、
『ご自由にお休みください』
と達筆で書かれた半紙が一枚、猫のかたちの文鎮を重石に置かれている。
今のところ、縁側で休んでいるのは気まぐれに入り込んだ猫数匹。
思い思いの恰好でお気楽に転がる猫たちを眺めつつ、眠れない夜に一思案。
さて、どうしたものか。
こんにちは。
今回は、深夜から早朝にかけてのみなさまのお話を伺いに参りました。阿瀬 春と申します。
ずっと前に似たような題名のガイドがありますが、基本的に単発シナリオですので、どうぞお気軽にご参加ください。
さて。深夜です。眠れない夜です。
梅雨の晴れ間かもしれません、しとしとと雨の降る夜かもしれません。
肌寒いかもしれません、蒸し暑いかもしれません。
眠れないまま、ふらっとどこかへお散歩してみるのもいいかもですし、部屋の中で何かしてみるのもいいかもしれません。
深夜から早朝にかけてのお話であれば割となんでも、どなたでもオッケーです。
いくつか、深夜営業なお店や場所を記しておきます。
もちろん他の場所でも大歓迎ですので、よろしければあなたのお話、お聞かせください。
お散歩先色々
○猫又川
橋のあたりや河原に立てば、深夜にはもう飛んでいないはずの蛍がゆらゆらと飛んでいるのが見えるかもしれません。
蛍がひときわ集まっている場所には、小さな女の子がひとり。うずくまって膝を抱えて泣いています。
「帰り道がわからないの」
どうやら霊界への路を見失ってしまったあやかしのよう。
「波の音も聞こえなくなっちゃった……」
めそめそ泣く女の子の周りに蛍たちが集まります。害はなさそうですが、この明るさでは目立ってしまうかも?
……ではあるのですが、蛍は下流域にも飛んでいるので、女の子に気付かずに時間外れの蛍を楽しむこともできます。
○寝子島駅近くの海岸
夏になると海の家が開かれるらしい小屋に小さな明かりが灯っています。
覗いて見れば、軒先にはたくさんの風鈴が提げられ、ちりんちりんと海風に涼しい音を鳴らしています。
奥にひとがいる気配はありますが、基本的には自由に寛いで構わなさそうです。
声を掛ければ、奥から出てきて縁側に腰かけるのは、「こんばんは」と穏やかに笑う作務衣姿の空色の瞳に白銀の髪の老翁。頼りない外灯の光に目を凝らせば、一見ひとに見える老人の影に猫耳と尻尾が見えたりするかもしれません。
どうやら風鈴は売り物、何の変哲もない品ではあるようですが……
「お代は、……そうさの、あんたの生まれたときの話でも聞かせてもらおうか。なに、覚えている範囲で構わんよ」
○その他
雨の降る海岸通りを散歩してみたり、
深夜営業の温室cafeを覗いて見たり、
早朝で人気のない繁華街をふらついてみたり、
部屋の中で進まない作業進捗に頭を抱えてみたり、
朝日の色を探しにまだ暗い早朝の九夜山登山をしてみたり。
夜のお話であればなんでもどうぞー。
NPC・Xキャラについて
・他のマスターが担当していない登録NPCやXキャラ、阿瀬が担当している登録・未登録NPCであれば、不自然でなければ登場が可能です。
・Xキャラクターをご希望の場合は、口調やPCさんとの関係性などのキャラクター設定をアクションにお書きください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、URLを書いて頂けましたら参照させていただきます。
ひとももれいびも、星幽塔の住人もあやかしも! どうぞご自由にお気楽にご参加いただけましたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。