日没に陰る街並みの中、
呉井 陽太は家電量販店の店先に並ぶテレビの大画面を眺めておりました。
『いよいよ発射の時刻が迫ってまいりました! ここで、ユグドラシルSETI部門のアンソニー・コヤマ氏にお話をお伺いします。コヤマさん、なぜ日本のこの場所から、ロケットを打ち上げようと思われたんでしょう?』
『ええ、これは象徴的な事業という側面もありまして。我々はSETI、つまり地球外知的生命体の探査という人類の宿願たる難題の解明に従事しておりますが、この分野において日本の技術力の進歩やノウハウの蓄積は海外に比べ、遅々とした歩みであるのが現状です。そこで私としましては、私のルーツでもあるこの日本に地球外生命探査の礎を築くべく……』
(変わったことを考える人がいるもんだねぃ)
ユグドラシルといえば海外に本拠地を置く巨大企業で、実に手広く多方面へ事業を展開していることでも有名です。寝子島住人の一部、特に子どもたちにとっては、カプセルギアに関連したトラブルも記憶に新しいところでしょう。
そんな大企業が、多大な資金を投入して推し進めているのがエイリアン探しとは、やはり滑稽に見えてしまいます。
けれど……なんとはなしに足を止め、陽太は映像を見つめます。
(地球外生命……?)
陽太にはいくつか、
思い当たるふしもありました。
病院で頻発した怪現象。
夜空に輝く、円状に巡る光。
その後もたびたび見かけることとなった、
六本指の紋章も。
(……! あれは)
そして画面の中、陽太は見つけました。
この大仰な見せ物の責任者だという日系アメリカ人が背広の襟元に身に着けた、金色に輝く六本指の紋章を。
(なにか、関係があるのか?)
「イェーーーイ!! 『ヒロ&マサのオカルトパイレーツ』、さっそく配信始めていくぜー!」
「実はね、今日はスペシャルなゲストをお呼びしてるんだ。『ミッドナイト・フリーキー・リポート!』の胡乱路 秘子ちゃんでーす」
「んふふ、ごきげんよう。どうぞよろしくお願いいたします」
「よろしく頼むぜ秘子ちゃーん! それじゃヒロ、今日のテーマ発表しちゃってやっちゃって!」
「今日もマサは絶好調だね。さて今回は、重大なことをみんなに伝えなきゃいけないんだ。全人類に訪れる危機、地球滅亡はすぐそこまで来ている!」
「まあ、怖いですね。んふふ♪ ヒロさん、人類の危機とは一体なんなのでしょう?」
「よくぞ聞いてくれました、そう! 明日ユグドラシルが打ち上げる予定の、例のロケットだよ! 地球外生命の探査だなんて、実は全くの大ウソなのさ」
「なんだってェ! するってーとヒロ、あのロケットは一体なんなんだ!?」
「僕の調査によれば、あのロケットにはあらかじめ予定された規定重量を越える、使途不明の余剰物資が積みこまれているらしい。一体なんだと思う?」
「ん~~~。分かったぜ! 乗組員がコッソリ持ち込んだ、あおいきつねときいろいたぬき一年分だ! 宇宙じゃ娯楽が少ねえからな、食いモンぐらいしか楽しみがねえんだろ」
「あのロケットは無人だよ、マサ。ねえ胡乱路さん、『ブラックナイト衛星』って知ってるかい?」
「ぶらっく? いいえ、聞いたことがありませんね」
「人類の手によらない人工衛星、どの国も所有を主張しない謎の衛星を示す言葉さ。僕が掴んだ複数の情報では、余剰物資の重量が、ちょうど小型の人工衛星一基分と一致することを示している。そんな予定はないのにね」
「そいつは驚きだぜヒロ! でもよう、あのロケットは人間が打ち上げるもんじゃねえか?」
「ふっ。マサは甘いね、大甘だね! 人間の姿をしているからって、人間とは限らないじゃあないか?」
「な、なにいー!? するってーと……どういうこった!?」
「ユグドラシルSETI部門とやらの責任者を見たかい? 彼のスーツの襟元に、僕は見つけてしまったのさ。決定的な証拠を……そう、六本指の紋章をね」
「六本指ですか。はて? どこかで見かけたような」
「おおっ、秘子ちゃん知ってるのかよ!?」
「んふふ。思い出せません♪」
「ズコーッ」
「六本指。番組をいつも見てくれている視聴者ならお馴染みだよね。僕とマサが追いかけている、謎の組織さ。奴らはまさに、地球外生命体と何らかの繋がりがあるはずなんだ。そして彼らは、衛星を使ってなにかとんでもないことをしでかそうとしているのさ、人類の存亡に関わるようななにかをね! でなきゃ説明がつかないことを、僕もマサも体験してきたから……ね、マサ?」
「おう! っつーわけで今回の『オカパイ』は、大企業に巣くうエイリアンの影! ロケット発射現場に潜入大作戦! をお届けするぜー!」
「番組をご覧の皆さま。もしよろしければ、お手伝いにいらっしゃいませんか? わたくしとヒロさん、マサさんとごいっしょに、胡乱な現場へ和気あいあいと潜入いたしましょう♪ んふふっ」
「それにね、近頃このあたりでは、怪奇現象や怪異の目撃報告も多数寄せられているようだよ。ホラー・オカルト好きにはたまらないんじゃない? ほら、あそこにも……」
「……あれ?」
気が付くと陽太は、奇怪な光景の中に佇んでおりました。
道ばたで、テレビを眺めていたはずなのに。
「ここは……あのロケット発射現場?」
映像に見た、そびえ立つロケットの威容。複雑に組み立てられた発射台と、そこからいくつも伸びる巨大かつ長大なマニピュレータ。
「! なんだこれ……」
天に星空。雲ひとつなく、けれど蒼い月はぼんやりと陰っていて。
周囲にはばりばりと尾を引く
球電が漂い、青白く電弧の腕をイカかタコのように伸ばしていて。
徘徊するやけに
細長く長身な人影には顔がなく、のっぺらぼう。
宙に浮かぶ、直立しつつ微動だにせぬ、人の形をした何か。
生きているのか、死んでいるのか、そもそも生物であるのかどうか、そんなものが周辺にいくつも、いくつも。
細い目をひときわに細め、陽太は現実に出現した異界を見据えます。
「なんだか、厄介なことに巻き込まれちゃったみたいだねぃ」
この状況を整えた何者かには恐らく、遵法精神を期待することは難しいでしょう。
即ち、自分の持てる力で切り抜けるほかありません。
「さて、どうしようか?」
墨谷幽です。よろしくお願いいたします~。
不定期連作シナリオ、『彼女の曖昧な考察』の第四弾になります。
呉井 陽太さん、ガイドにご登場いただきましてありがとうございました!
ご参加いただける場合は、ガイドのイメージに関わらず、ご自由にアクションをおかけくださいませ~。
いろいろと情報が多く、固有名詞もいっぱいですが、
過去のシナリオや関連シナリオなどは読まれなくとも、問題なくご参加いただけます。
どなたでもお気軽にどうぞ!
このシナリオの概要
舞台は本土。某県某市の平野に築かれた、ロケット発射施設。
巨大企業『ユグドラシル』の主導で建設されたこの施設にて、民間ロケットの打ち上げ計画が進行中です。
今夜は雲もなく快晴で、明朝の打ち上げへの期待が高まっています。
そんな中あなたは、ヒロ・マサという二人組のMewtubeチャンネル『オカルトパイレーツ』や、
胡乱路 秘子の『ミッドナイト・フリーキー・リポート!』の視聴を通じて、
番組の助っ人として現地を訪れたり。あるいは気が付くといつの間にかこの場に立っていたりして、
事態に巻き込まれることになります。
ヒロとマサ、秘子が言うのには、今回の打ち上げはフェイクであり、
本当の目的は、ロケットに搭載された『謎の物体』を宇宙空間へと運ぶことなのだとか。
彼らは施設へ潜入し、ロケットの格納室へと向かい、その陰謀を暴くつもりのようですが……?
当然にして警備は厳重……かと思いきや、敷地内に人気はなく、なにやら異様な空気に包まれています。
あたりには奇怪な存在たちが跋扈し、明らかに尋常でない事態が進行中です。
幸いにして、敷地内への不法侵入を咎められたり通報される心配は無さそうですが、
潜入は一筋縄ではいきそうもありません。
仮に目的を果たしたとしても、無事に帰還できるとは限らないかもしれません。
皆さんはこの状況に際して、自由に行動して構いません。
・秘子、ヒロマサに協力し、隠された陰謀を暴く。
・はぐれたり、単独行動で、異形に追いかけられる恐怖体験。
・打ち上げを見たいので、潜入を阻止する。
・その他
などなど、思い思いにアクションをおかけください。
アクション
ロケット発射施設の広大な敷地には、打ち上げを総括する管理棟や、
多数の資材コンテナ、中央にロケットの発射台などがあります。
ロケットは明日の打ち上げを控え、既に準備が完了している状態です。
ヒロ・マサは、敷地外周の金属フェンスを破り、管理棟の脇を抜け、
発射台へと近づくルートを検討中です。
(別の提案や、別行動もOK)
ロケットは非常にコンパクトなタイプで、全長10メートル強。
低軌道に7~80kg程度の物資を打ち上げる能力を持っています。
先端のフェアリング部付近にペイロード(貨物)格納庫があり、
謎の余剰物資はここに格納されているようです。
ロケットの格納庫へ到達するためには、併設された発射台内部のエレベーターを利用するのが早そうですが、
現在は電源が稼働していない模様です。
螺旋階段もあり、徒歩で登ることは可能ですが、ペイロード格納庫のハッチは、
通電されている状態でなければ開かないため、何らかの手段で電源を稼働するか、
あるいは別の方法を考える必要がありそうです。
ただし、施設内には現在、奇怪な存在が多数徘徊しており、さながら異界の様相を呈しています。
目的を果たすにはこれらをかいくぐるか、撃退しなければなりません。
<怪現象・怪異>
・スレンダーメン
異様なまでの長身、針のごとく細い体躯を持ち、黒いスーツを着込んだ人型の異形。
顔は無く、まるでのっぺらぼう。背中から自在に動く触手が生えている個体もいるようです。
施設内を巡回するように、ゆっくりと歩いています。時折、瞬間移動することも。
発見されると捕捉され、トラウマを増幅させられたり、狂気や妄執に囚われてしまいます。
・球電現象
宙を漂う発光する球体。激しい電弧を纏っており、触腕のように周囲へ放っています。
まるで意思を持つかのように、低速でじわじわと近寄ってきます。
接触すれば、感電死は免れないでしょう。
・フライングヒューマノイド
施設の上空に浮かぶ、人型の何か。
位置や高度もさまざまに、ただそこに浮いています。中には逆さまに浮いているものも。
どうやら監視ドローンのような役割を担っているようで、
彼らの視界に入ると、目に当たる部分が不気味に発光し、対象を発狂状態に導きます。
発狂状態は、周囲の味方に伝染する可能性があります。
また周辺地域では、このところ、上記以外にも怪奇現象の目撃情報が寄せられているようです。
<目撃情報の一例>
・雲の上で明滅する、強烈な光。
・正体不明の発光体が宙を漂っていた。
・獣めいて俊敏な人影を見た。
・タールのようなヘドロのような液体が、生き物みたいに地を這っていた。
・ネット上の発言「狼の遠吠えを聞いたような。そんなもの、このへんにいやしないのに」
・ネット上の発言「フクロウのような大きな瞳が、こちらを覗いていた」
・ネット上の発言「月の光を、巨大ななにかが遮っていた」
NPC
○胡乱路 秘子
かつては謎の深夜番組で司会進行役を務めていましたが、今はフツウの学生です。
動画サイトにて、深夜のオカルト系生中継番組のリポーターとして活動中。
めったなことでは動じず常に笑顔を絶やしませんが、特になにかお役に立つわけでもなし。
どちらかというと撮影とリポートがメインで、解決は皆さん頼りです。
今回は、ヒロ・マサの番組のゲストとして呼ばれています。
○ヒロとマサ
Mewtubeにて『ヒロとマサのオカルトパイレーツ』を配信する二人組。
ヒロはぽっちゃり体型、情報通でクールなブレイン。
マサはがっしりした体格で格闘技有段者。現場の判断力に優れるタイプ。
長年怪奇現象や陰謀論を追いかけているオカルトマニアなコンビで、
チャンネルはなかなかの人気を誇ります。(番組を知っている、実はファン、などとしてもOK)
○アンソニー・コヤマ
ユグドラシルSETI(地球外知的生命体探査)部門の長。スタッフとともに来日中。
今回のロケット打ち上げの責任者です。今夜は管理棟に詰めている模様。
ちなみに彼を含む、今回の事業に携わっているユグドラシルのスタッフは、
カプギア関連部門とは特に関係ないようです。
『#彼女の曖昧な考察』とは
胡乱路 秘子が、動画サイトの生配信を通じて、不可解な現象や謎を追いかけていく、
単発シリーズです。
タイトルにあるように、この一連のお話で描かれる結末は、時に曖昧で、要領を得ないかもしれません。
真相は結局闇の中で、結果は判然としないかもしれません。
つまり、『信じるかどうかはアナタ次第』です。
以上になります。
それでは、皆さまのご参加をお待ちしておりますー!