6月ともなると雨がざぁざぁと降り続き、じめじめとしたイヤぁーな毎日が続いている。
空はコンクリートのように灰色。湿気を含んだ空気はねっとりと重たくて夏の到来を感じさせる暑さだ。
ただ、降っているのは雨だけじゃないのだ。
「え? え? 雪?」
バイトに向かう途中だったフリーターの
鹿嶋 洋美は空を見上げて驚いた。
雨に混じって
“何か”が降りてくる。春風に舞うタンポポの綿毛のようにふわふわとした
“何か”が。
掌で受け止めたそれは冷たくもなく温かくもない。雪とは違うし、どうもタンポポとも違う気がする。
「不思議……。幸運を呼ぶケサランパサランかな、なんて……」
のほほんと不思議現象を見つめる洋美……だったが、次に目に入ったものには流石に目を剥いた。
「ええっ!?」
桜台の方角、立ち並ぶ家の屋根よりもはーーーるかに高く、バカでっかい桜の木がそびえ立っている!
いやいやちょっと待て。6月に桜が花を咲かせるはずもないし、あんなに巨大な木があるはずもない。
落ち着いてよぉーく見ると、それは
“きのこ雲”だった。
薄く青みや紫みのかかった煙がもくもくと空に伸びているのだ。
「なんだ、きのこ雲か……。そうだよね、あんな桜の木ないもんねって、
何できのこ雲があんなところに!?」
その頃、きのこ雲の真下……
桜花寮では、寮生が慌ただしく駆け回っていた。
桜花寮は辺り一面綿に包まれて真っ白に。半年も早い冬景色に衣替えしてしまっている。
タオルで口元を覆った寮生の
志田 朝陽はゲッホゲホと咳き込みながら、不思議現象に呆然としていた。
「……ど、どうなってんだこりゃ!?」
同じ寮生の
浮舟 久雨は、落ちてくる綿を掌にとってまじまじと見た。
雪だとか綿だとか言って皆騒いでいるが、よぉーく見るとそれはそのどれでもない。
「どうやら“カビの胞子”のようだ……」
「カビぃ?」
根を下ろしたカビはあっという間に繁殖して地面を絨毯のように覆った。
それと同じくして、見たこともないキノコがポコポコとカビの上に生えてくる。
「うわあああああああっ!?」
朝陽は、自分の身体に生えてきたキノコを慌てて払い落とした。
「そ、そりゃカビの生えやすい季節だけどさぁ。幾らなんでもこんな無茶苦茶なカビがあるか?」
「あるんだろう、この夏は……」
久雨は顔を上げて、自転車置き場の屋根にいる
テオに目を向けた。
既に、この桜花寮を中心にして周辺の空間は切り分けられているようだ。
テオはこちらを一瞥すると、
「なんとかしろ。以上」
「雑っ!!」
朝陽が突っ込みを入れたその時、
ドドドドドと激しい地響きが襲った。
「あれを見ろ、志田!」
「!?」
男子寮のB棟、4階にある部屋の窓から、花火のように次々とカビの胞子が発射されていく。
上空で炸裂してきのこ雲を作った胞子は、そのままあちらこちらに広がって、雨と一緒に降ってくる。
「誰の部屋か、わかるか?」
「……うーん。あ。あそこ、確か4組の
野菜原の部屋じゃないか?」
「4組? 野菜原だと?」
1年4組、
野菜原 ユウ。前に
ろっこんを暴走させて騒動を起こした、久雨のクラスのお調子者だ。
「そう言えば、あいつの姿が見えないな……?」
「なるほど。どうやらあそこがこの異常なカビの苗床のようだな」
マスターの梅村象山です。
ガイドには鹿嶋 洋美さん、志田 朝陽さん、浮舟 久雨さんに登場して頂きました。
ありがとうございます。
ある平日の早朝、突然発生したカビによって桜花寮周辺が飲み込まれてしまいました。
幸いテオが世界を切り分けてくれたので、外に被害は広まっていないようです。
ただ、辺りを埋め尽くすカビを掃除して、発生源をどうにかしないことには元に戻せません。
桜花寮とその周辺が舞台となりますが、寮生以外の方の参加も大歓迎です。
友達を迎えに来て巻き込まれた、たまたま近くを通りかかった、等の理由が導入に使えるんじゃないでしょうか。
カビが繁殖しているため、この空間内の食べ物はカビにまみれている状態です。
食べられそうなのは謎のキノコぐらいですが、食べるかどうかは自分の胸に手を当てて確認してください。
生えているのはこの三種類です。
ウマイダケ 黄色と紫の毒毒しい見た目ですがただ美味いです。
ハラガイタイダケ 白いキノコです。命の危険はありませんが腹が痛くなります。味は美味いです。
アイガホシイダケ ピンク色のキノコです。誰彼構わず告白したくなります。味はフツウです。
キノコに詳しければ見分けられると思います。