紅葉が秋の空に舞い上がってゆく。
吹き寄せる冷たい風に空色の瞳を細めて、
ペルラ・サナーレは冷えた頬を小さな掌で撫でた。
星幽塔からふわりと迷い込んだ少女は、大きな橋の向こうに蒼い影となって遠く見える大陸を──寝子島の人々が『本土』と呼ぶ陸を眺めながら、寝子島街道をひとり、歩く。
鉄で編み上げた巨大な橋の向こうから、線路を駆けて来る車輪の音が響いている。かたん、かたん、かたん、ともすれば眠気さえ誘いそうな音に顔を上げ、音と共にやってくる鉄の塊を眺めやる。
(確か、……ねこでん)
電車、という乗り物なのだと誰かに聞いた気がする。
以前に眺めたことのある『電車』は、四角い箱の中にたくさんのひとを乗せていたけれど、今、寝子島大橋を渡って来るのは紅い機関車に牽引された貨物列車。たくさんの箱をたくさんたくさん牽いて、やけにゆっくりとした速度で貨物列車が島にやって来る──
ごとんごとん、車輪の音が重く近づいてくる。ペルラの立つ寝子島街道の脇に敷かれた線路の上を、紅い貨物列車が走り抜けて行く。
「なあ、乗ってかへん?」
見慣れぬ乗り物をのんびり眺めていたペルラに、貨物列車の屋根から声が掛けられた。丸い瞳をますます丸くして、ペルラはコンテナの屋根に立つ黒髪の男を見上げる。
「一緒に列車の旅とかどうやろ? あれやったらお給金出るで。次の駅まで二日ほどかかるけど、簡単な食事とかも出るし。目的の駅に着いて改札潜ったらそこの寝子島駅の改札にぽーい、て放り出されるし。こっち帰ってったら時間も半日くらいしか経ってへんはずやし」
「ねこでん、ですよね?」
「うん、ねこ電」
きょとんと訊ねるペルラに、日暮と名乗った男は大きく頷いて見せた。
立ち止まったままのペルラと並ぶために列車の屋根の上を足早に歩きつつ、同じく屋根の上にちょこんと座る制帽を被った黒猫に話しかける。
「ええやろ、車掌さん。わしだけやったら白骨ヶ原で荷ィ全部奪われてしまうで」
『車掌さん』と呼ばれた黒猫は、無言でこくりと頷いた。乗れ、とばかり蒼の瞳で見つめられ、ペルラは小首を傾げる。何やら剣呑な言葉を聞いたような気もするけれど、
(ねこでんの旅、……ですか)
ふわふわと風や他人に流されるまま、旅から旅に生きて来た少女は薄紅の髪を列車の風に揺らしながら少し考える。
こんにちは。今回は、貨物列車の旅のお誘いに参りました。
少し剣呑なことがあったり客車がないため屋根の上で過ごしたりな不思議な貨物列車の旅、いかがですか。
気が付いたら乗っていた、でも、列車の上から日暮に声を掛けられて乗ってみた、でも乗車理由はお気軽な感じでオッケーです。寝子島の方も本土の方も、星幽塔の方も、どなたでもどうぞー!
アクションでできること
貨物列車が通るのは、以下の場所です。
一ヵ所に焦点を絞ってのアクションでも、満遍なくなアクションでも大丈夫です。ただ、満遍なく登場の場合は薄味なリアクションとなる可能性があります。
■白骨ヶ原
黄昏時に通りがかる湿地帯です。
緑の濃い、一見美しい場所ではありますが、沼地には色んな『ケモノ』が沈んでいるようです。白骨化した色んなかたちの『ケモノ』たちは列車に満載された貨物を狙って襲い掛かってきます。
砕いて戦闘不能にすることは種類によっては可能ですが、数が多いので列車を守ることが出来れば上々、とは『車掌さん』の言。
『ケモノ』
・武者
武装した人型の骨です。
カカカと顎を鳴らしながら、列車に飛び乗り錆びたや刀で斬りかかってきたりします。
飛び乗れなかった場合は遠くから弓を射かけて来ます。
無数に居ます。コンテナ内の荷を奪うことが目的の様子。
・狼
狼のかたちした骨です。
武者を背中に乗せ、列車に飛び乗ろうとしたり並走したり、単独で襲い掛かってきたりします。
骨となっても牙も爪も鋭利なまま、力も強いので注意が必要です。こちらも無数に居ます。
・鯨
列車三両分ほどの巨大な鯨の骨です。
後ろから追い縋ってきてはばくりばくりと大きな顎を開いたり閉じたり。列車を丸ごと齧ろうとします。
斃すのは至難の業、動きを鈍らせつつ逃げ切るのが最善手かもしれません。
出現するのは一体のみです。
■花畑の夜
月夜に通りがかる花の丘です。
三日月と満天の星に照らし出されるばかりの静かな花畑の中、列車は進みます。線路の音が響くばかりの静かな静かな、平穏な夜です。
『車掌さん』に言えば、防寒用の毛布を貸してくれます。カイロ代わりに抱っこもさせてくれます。
周りにひとの気配がなければ、どこかのコンテナで密航中らしい仔猫がやってきてくっついてきたりもするようです。
貨物列車の屋根の上で、あなたはどう過ごすでしょうか。何を思うでしょうか。
■『猫又さん』の寝ているところ
昼下がりのぽかぽかな草原です。
のんびり進んでいた列車が不意に止まりました。
線路上に『猫又さん』と呼ばれるデッカイ老白猫が居座ってうたた寝しています。うつらうつらしたりあくびしたり、動く様子がありません。
強引に動かすと怖い『障り』があるとかで、車掌さんは猫又さんが動くまで列車を動かす気はなさそうです。
ここを過ぎれば駅に到着するので、猫又さんや車掌さん、どこからか集まって来たたくさんの猫たちとのんびりしましょう。満足するまでみんなでのんびりしたら、猫又さんはふらりと線路上から退いてくれます。
貨物列車
百八両編成のながーい(全長ニ㎞超あります)列車です。積まれているのは基本的に赤錆色のコンテナ。数両ごとの背面または横面に梯子や外部デッキが設置されており、そこから列車への乗り降りや屋根部分への上り下りができます。
コンテナによっては天井から入ることも可能なようですが、ほとんどのものは走行中の侵入は不可となっています。
コンテナの中には、たとえば大量のふかふか羽毛布団や新品畳や箪笥等の調度品、袋入りのまたたびに野菜に果物、冷蔵コンテナには魚介類、ドラム缶入りの灯油や炭など、さまざまのものが積載されています。とあるコンテナ内には冒険中な密航子猫が数匹紛れ込んでいたりも。
登場NPC
・『車掌さん』
制帽とインバネスコート姿の黒猫。ひとの言葉を解し、ひとの頭の中に言葉を伝えて来たりもしますが、無口です。
・日暮
別世界から来て寝子島に住み着いた男。今は島で色んなバイトをして暮らしています。
今回も誰かの伝手で『ねこでん』の貨物列車の用心棒のバイトを請け負ったようです。が、役に立ちません。
白骨ヶ原では自分の身を守るので精一杯、あとは基本的にぼうっとしています。
どなたさまも、どうぞお気軽にご参加ください。
それではっ、貨物コンテナの中のまたたびや羽毛布団に埋もれながらみなさまをお待ちしておりますー!