星幽塔第一階層、サジタリオ城下町の一角にその店はある。
──『マダム・マルトンの店』。食堂にバー、依頼紹介所に宿泊所とたくさんの顔を持つその店の主、従業員や常連に『おかみさん』と呼ばれ慕われる
ディアーナ・マルトンは、その日も開店準備に忙しかった。
「アイオ?」
料理の下準備をこなしながら、ディアーナはカウンター向こうのテーブル席を掃除して回っている住み込み従業員の少女、
アイオ・キャンドライトの名を呼ぶ。
いつもなら元気いっぱいの返事がすぐあるはずなのに、今日のアイオはどこかしらぼんやりとして見えた。
「……アイオ?」
「っ、はいですわ!」
猫の獣人であるアイオの白灰の耳と尻尾がぴんと立った。空色の瞳を瞬かせ、いつもとそう変わらぬ朗らかな笑みで振り返る養い子に、ディアーナは花のように鮮やかな黄色の瞳を向ける。
「何かあったか」
育て親の短い一言に、アイオはほんの少し頬を赤らめた。白灰の睫毛を一瞬だけちらりと伏せ、思い切ったようにカウンターに近づく。夫を亡くした後に三人の息子を育て上げ、更に幼かった自分をも引き取ってここまで育ててくれた女性の前に立つ。
「おかみさん」
「なんだ」
「演劇に興味はおありですか」
年若い女性に見えてその実齢七百を超える星幽塔の住人は首を捻る。
不思議そうな顔をするおかみさんに、アイオは数日前に寝子島で見かけた宣伝貼紙の話──寝子島で催される『マタタビック演劇フェスティバル』の話を持ち掛けた。
「誰でも舞台に立てるんですわ!」
「そうか」
興奮気味に目を輝かせる養い子を見、ディアーナは頷く。大切な親友から預かった可愛い養い子の夢を叶える手伝いになるのであれば、一肌脱いでやるのもやぶさかではない。
手を貸そう、と男前な笑みを浮かべるおかみさんに、アイオの瞳はますますきらきらと輝いた。
「ありがとうですわ、おかみさん!」
カウンター越しにも関わらず、おかみさんの首に抱きつこうとしたアイオの耳がぴくりと動いた。猫のかたちした敏い耳が捉えたのは、今しも開く店のドアの音。
「いらっしゃいませです、わあっ!?」
元気いっぱいの声が途中で驚きの声に代わる。
「あ、大丈夫だよー」
ドア向こうに立っていたのは、プレートアーマー姿の
万条 幸次。
寝子島でのアイオの知り合いでもある幸次の鎧の肩には屈強なライオンの前脚がガッシリ乗っている。頭を覆う分厚いヘルメットにはライオンの歯がガリガリと食い込んでいる。
「じゃれて甘噛みしてるだけだからねぇ」
星の力の一種である騎士の光を実体化させてみたところ、もとよりの猫好きが高じてネコ科のライオンに変化したのだとほわほわと笑う幸次をしばらく眺め、アイオはぱちんと両手を打ち合わせた。
「そうですわ、コージ!」
「なにかなぁ」
「マタタビック演劇フェスティバル、ご存知ですわよね?」
頷く幸次にも、アイオは協力を請う。寝子島でのお祭りであるのなら、寝子島の住人の力は得ておきたいところ。
「うん、いいよぉ」
さらりと頷いてくれた幸次とディアーナと、二人の協力者にアイオは輝くような笑顔を向ける。
「演目のあてはあるのか?」
おかみさんの問いかけに、アイオは大きく頷いた。空色の瞳が映すのは、カウンターに飾られたディアーナとその家族の肖像。
「ずばり、若き日のおかみさんと旦那さんの出会いと冒険のお話! ですわ!」
こんにちは、今日はマタタビック演劇フェスティバルのプライベートシナリオをお届けにあがりました! 『座・マルトン』さんを担当させていただきます、阿瀬 春と申します。
アイオ・キャンドライトさま、ディアーナ・マルトンさま、万条 幸次さま、このたびは演劇企画へのご参加と楽しいご発想、ありがとうございました。みなさまの素敵な情熱、ちからいっぱい描かせてください!
ガイドとサンプルアクションはあくまでも一例です、ご参加の際にはどうぞご自由にアクションをお書きください。
プライベートシナリオ、がんばらせていただきます! どうぞよろしくお願いいたしますー!
概要
このシナリオは、
アイオ・キャンドライトさん、
ディアーナ・マルトンさん、
万条 幸次さん、
のお三方と、それからXキャラクターの黒猫さんのみのご参加となります。
当日の演劇風景だけでなく、演劇の準備や練習風景、打ち上げの様子なども、アクションをいただけましたら描写いたします。
『とある少女の冒険記』あらすじと配役
・あらすじ
ここではない、どこか別の世界。
そこにもたくさんの誰かがいて、生活も毎日も続いてゆくのです。もちろん、冒険だって、小さな恋だって。
この物語の主人公は、ちょっぴり無鉄砲ではあるけれど元気いっぱいな女の子。名前は、ディディ。
ある日森で迷子になってしまった少女ディディは、同じく迷子になっていた少年と出逢います。おそろしいモンスターのうろつく森を、ふたりははたして無事に脱け出すことが出来るでしょうか──
・配役等
主演『ディディ』(少女):アイオ・キャンドライト
助演(演出補助、セリフ無し):万条 幸次
?:黒猫(Xキャラクター)
照明・音声:ディアーナ・マルトン
当日の演劇会場
会場は星ヶ丘にある『STARHILL Theater(スターヒル・シアター)』。
近代的な多目的劇場で大衆演劇はもちろん、オペラ、歌舞伎、コンサート、映画を上映することも可能です。
ステージには様々な舞台機構が備え付けられており、工夫次第でありとあらゆる演出を行うことができます。
ステージから競り上がったり、時にワイヤーアクションで宙を舞う。
映像と合わせた絢爛豪華な舞台を作り出す等、自由な発想で表現できます。
それではっ、みなさまの素敵なアクションを楽しみにお待ちしておりますー!