異世界『アルカニア』。
剣と魔法、そして魔術を用いた魔導機械が支配し、魔物も闊歩する世界。
その世界の北部にある大陸『レーニオ大陸』の端っこに存在する中規模の町『レルムティア』。
そこは貿易と商業で栄えた街であり、陸路での他の都市との交流だけに留まらず別大陸の都市との交流も船を用いて盛んである。
あらゆる『商品』がそこでは揃い、金で買えないものはないとまで言われた町であった。
そんな町の歓楽街に一軒のお店がある。店名は『モーニング・グローリー』。
そこはダストと呼ばれる淫魔に属した悪魔の女性が経営する店である。
「ふふふ、すっごくお似合いですよォ? お二人とも」
にこにこと笑顔を送るダストの視線の先には肌が透ける程に可愛らしい衣装を纏った
ティオレ・ユリウェイスと
新井 晶が立っていた。
もじもじしながら晶は赤面し、上目遣いでダストに問いかける。
「あうぅ、あの、私、男の子なのに、なんでこんな……っ!」
「性別なんて細かい事は関係ありませんよォ? 可愛いが全てですから」
「でもぉ……っ」
あわあわする晶の肩に手を置き、ティオレは落ち着いた口調で話す。
彼女も同じような服装を身に着けているがその振る舞いは堂々としたものであり、まるで経験者の様にも見える。薄手の衣装と対照的にきらりと光るピアスが両耳とへそについているようだった。
「腹くくったほうがいいわね。ここは私らに任された、あとはきっちり仕事をするだけよ」
「そうですよォ、難しい所はありません。このマニュアルにそって、訪れたお客様にご奉仕するだけですからねェ」
ダストは以前、寝子島民や星幽塔民を脅かしたサキュバス型淫魔に属する悪魔らしい。
幾度に渡って撃退し続けられた結果、彼女は学んだのだ。精気を奪うことに、わざわざ危害を加える必要はないと。
精気を持て余した者達から日常生活に不足が出ない程度、奪う。それが安全に食を得る為の彼女の策であった。
勿論、ただ奪うわけではない。次も来てもらえるように『最上級』のもてなしを行う。
その為の奉仕であれば彼女は何でもするのだ。時にはアブナイ事も。
敵対せずに精気を得る手段を用いる彼女はかつて敵対こそしたが、今はもう仕事の依頼主の一人である。
そんなダストから手渡されたマニュアルに目を落とした晶は眼を見開いて驚愕した。
「えっ、あのっ……マッサージってフクザツなんですね」
「勿論ですよォ? お客様には疲れを癒して帰っていただきたいですからねェ?」
「でもマッサージなら普通の服でも……」
「――――可愛い衣装は必須ですよ?」
「あ……はいっ!」
にっこり笑うダストの笑顔の裏に見える得体の知れない恐怖にかたかたと身を震わせ涙目になる晶をティオレはよしよしと慰めた。
その様子を見ていた黒髪の少女イザナは『流石にこのめんどくさいマニュアル通りやれってことはないでしょ』という言葉をぐっと飲みこんだ。
店主には逆らわない方がいいと思ったようである。
それから彼女はティオレと自身の胸を比べた。そこには天と地ほどの差があった。
肩を落とし溜息をつくイザナ。
彼女も決して美しくないわけではない。むしろスレンダー系の可愛らしい少女といった具合である。いつもの巨大な異形の腕は縮小させ、人の腕と変わらないサイズになってはいるが色だけは黒のままであった。
その手で自身の胸を何度かムニムニと触り、再びイザナは溜息をつく。
イザナの様子に気づいたダストは頷きながら彼女の肩を叩いた。
「大丈夫ですよォ、ちっさい方がいいというお客様もいますからね?」
「う、うるさいっ! ほっとけっての!」
膨れっ面のイザナは気にせず、ダストは胸元から小さなピンク色の石を取り出した。
それは魔石という魔力を含有する石である。
「最後に、この魔石をお客様の身体に密着させて精気を回収してくださいねェ? 私なら必要ないですが……普通は精気なんて奪えませんからねェ」
「最後につければいいのね? わかった、仕事は完遂してみせるわ」
「が……がんばりますぅ……っ」
「う、どうせちっさいわよぉ……」
三人の対照的な反応にダストはくすくすっと笑った。
◆
お店の外、入り組んだ路地裏の屋根の上に設置された小さなテント。
そこに
白石 妙子は座っていた。
テントには小さな机があり、周囲の状況をレーダーマップに映すモニターと周辺地図、地図上に状況を示す為のいくつかの駒の様な物が置かれていた。
彼女が耳につけた小さなイヤーカフから声が届く。
「あーあー、そっちは問題ないですかねぇ?」
「あ、はいっ今の所、問題ないですっ!」
「そうですかぁ、では引き続き警戒の方、お願いしますねぇー」
「はいっ任せてください」
妙子と通信していた声の主は金髪赤眼の女性、ツクヨだった。妙子と離れた位置にいるが、通信イヤーカフのおかげで連絡は取りあえるようである。
彼女達は他の協力者と共にダストの店が位置するこの路地裏を警備していた。
その理由は今、ダストの店にこの町の町長が訪れているからである。
彼は何かと素行に問題のある町長ではあるが、その手腕は誰の追随も許さない程に優秀。この町に無くてはならない存在であった。
「でも悪い人、なんだよね? それをどうして守らないといけないの」
不貞腐れた様な様子で不機嫌そうな、納得していないような表情を浮かべているのはナディスという者である。
彼女は若く、その顔立ちから中性的な印象を受けるがれっきとした少女であった。
本来は『アルカニア』という世界の勇者なのだが今はツクヨ達の元で立派な勇者になる為、こうして仕事を手伝いながら修行をしているのである。
最近は少し気にしているのか、ミニスカートの類を身につける様にしているらしい。
そんな彼女を諭す様に声を描けるのは
八神 修。
彼もまた、この作戦に協力を申し出た人物である。
「ああ、確かに悪い人かもしれない。だが彼はこの町にはなくてはならない存在……必要悪、といった所か」
「ヒツヨウアク? 難しい言葉だね……悪なのに必要? うう、わかんないよぉ」
「ははは、無理に理解しようと頑張らなくていいさ。ナディスにもそのうち、わかる時がくる」
八神はそういってナディスの頭をくしゃくしゃと撫でた。緑色の髪は柔らかく、くしゅくしゅと形を変える。
ナディスは少し抵抗はするものの、最終的にはされるがままである。少なくとも嫌そうには見えない。
「もうっ子供あつかいしないでよー」
「はは、すまない、ナディスは立派なレディーだったな」
「そうそう、レディーなんだよっ」
レディーと呼ばれた事に嬉しそうな表情を浮かべたナディスは金色の瞳をきらきらと輝かせていた。
◆
「おい、手はずはいいか」
「ああ、問題ない。既にいくつか手下を潜らせてある……作戦開始と同時に事を起こせるぞ」
暗いどこかの部屋の中、ろうそくの明かりだけで照らされた男達が会話をしている。
全員がナイフや重火器で武装しており、中には剣や魔法の杖で武装している者達も居るようだった。
「あの町長のゲオルギウスめ、俺達を邪魔者扱いしやがって……この町の設立、黎明期を誰が支えたと思っている! 必要な時だけ使い、いらなくなったら目障りだから出ていけだと!」
「そうだそうだっ! あのような者を町長と認めるわけにはいかん、我ら『憂国の道化師』達がこの町を変えなければならんのだっ!」
「移民保護政策とのたまってはいるが、その実、体のいい低賃金での労働者確保ではないか! 町の拡張整備など、我ら町民だけでも事足りるというのに」
口々に町長であるゲオルギウスへの不平や不満を漏らす男達。
だが一人の人物が口を開くと彼らは一斉に静かになった。
その男は切れ長の目で黒い髪に褐色の肌をもつ背の高い砂漠の民、名を『ディガード』といった。
均整の取れた身体は見眼麗しく、美男である彼は男ですら魅了してしまう程である。
「時は来た、我ら憂国の道化師が立ち上がり、民の手に町を取り戻す時が来たのだッ! 我らの自由は民の為に!!」
「自由は民の為に!」
「自由は民の為に!」
「自由は民の為に!」
ディガードの声に応じ、男達それぞれが声をあげる。
ある種の盲目的な熱気に包まれた室内は異常な空間ともいえた。
「さあ、道化師達よ! 笑顔の仮面で燃え滾る憤怒を隠した戦士達よ! 立ち上がる時だ! いざ、出陣せよッ!」
彼の掛け声で部屋から男達が一人、また一人と出ていく。
数分も経たずに部屋には一人の男とディガードだけとなった。
「よい演説でした、ディガード様」
「ふっ……心情を焚きつけるにはああいったことも必要、というだけにすぎん。して、例の仕込みはどうなっている?」
ディガードの問いかけに男は小型端末の画面を見せる。
そこには巨大なゴーレムのような物が映り込んでいた。
「現状、復旧率78%といった所です。80%さえ超えれば……実戦は可能かと」
「ふふふ、いいだろう。我が指示があればすぐにでも出せる様にしておけ。私はここから指示を飛ばす……レンギス、お前は前線に合流しろ。くれぐれも引き際を見誤るなよ?」
「御意に」
レンギスと呼ばれた男が掻き消えるように姿を消す。
残されたディガードはほくそ笑みながら、眼下の戦況を移すモニターに目を落とすのであった。
お初の人もそうでない人もこんにちわっウケッキです。
今回は異世界『アルカニア』にある町『レルムティア』が舞台となります。
みなさま、ガイド登場ありがとうございます。
あくまで一例ですので、ガイド登場時とは全く関係のないアクションでも問題ないです。
なお、これ以降の情報は事前に説明を受けているていでもよいですし、何も知らないという事でもOKです。
またこのシナリオではろっこん、星の光が強力に描写される場合があります。
◆作戦時間
:時刻は深夜です。
◆場所
貿易と商業の町『レルムティア』
:雰囲気は中世期ごろのヨーロッパの町並みで文化レベルもそれに近いです。
ただ機械兵器の類が貿易により輸入されており、現代兵器や機械の姿もちらほら。
多種多様な住居が乱立している為か、入り組んだ路地が多く、物陰も多いです。
◆勝利条件
:レルムティア町長『ゲオルギウス』がダストの店を退店し、無事に家につくこと。
またお付きの者達も無事であり、彼らに一人の犠牲者もいないこと。
◆敗北条件
:レルムティア町長『ゲオルギウス』の死亡、お付きの者達いずれかの死亡。
◆ルート説明
今回ルートは4つに分かれています。どこに行くかで登場する敵や起きる出来事も違うので慎重にお選びくださいませませ。
また、これらはあくまで一例ですのでこれ以外の行動も歓迎です。
●ルート1『ダストのお店で接客する』
:ゲオルギウスやお付きの者達を相手にお店の店員として接客します。
彼らにダスト考案の特殊なマッサージを行い、最終的に精気を魔石に吸収するのが目的です。
気持ちいい、心地が良いと感じる事であればどんなことでも許可されます。
なお、基本的には女性のみが店員になれますが見た目が可愛ければ『男の娘』でもOKです。
<登場予定NPC>
:イザナ、ゲオルギウス、お付きの者達
●ルート2『ダストのお店を防衛する』
:ダストのお店の周囲に展開し、襲い来る憂国の道化師達と戦うルートです。
一人一人はさほどでもありませんが、憂国の道化師達は数が多く、対集団戦闘となるでしょう。装備もばらばらの為に先述の予測が立て辛く、厳しい戦いになるかもしれません。
<登場予定NPC>
:ナディス
●ルート3『首謀者を特定し排除する』
:憂国の道化師にはリーダーがいる事が事前にゲオルギウスからもたらされた情報で判明しています。彼からの情報を元に突き止めた憂国の道化師のアジトへ潜入、首謀者の排除を狙います。 アジトには監視カメラをはじめ、有刺鉄線、ガンタレット、レーザー防壁など様々な防衛設備が用意されています。無策で突っ込めばたちまち発見され、首謀者を逃がすばかりか自身の身すら危ういでしょう。施設の内部MAPすら不明な為、厳しい戦いが予測されます。
<登場予定NPC>
:ツクヨ
●ルート4『ダストのお店へ客として訪れる』
:作戦を全く知らず、ダストのお店へお客として訪れます。
丁寧なダストのもてなしと最上級のマッサージによる彼女の『ご奉仕』は日頃の疲れを癒してくれるに違いありません。
※このルートに戦闘はありません。
<登場予定NPC>
:ダスト
◆ちーあの支給品
今回も異世界の管理者『ちーあ』による支給品があります。
お好きな物を二つ持つことができます。
・速射型ブラストバレル式アサルトライフル
:バレル自体に特殊な機構を施す事で発射速度を極限まで向上させたアサルトライフルです。
強力な反面、反動がでかく筋力がない方では扱うことは難しいと思われます。
なお『ちーあボタン』がバレル下部にあり、押す事で何かが起きるようです。
・名刀菊二文字
:一の太刀で深手を負わせ、二の太刀で止めを刺す事に主眼が置かれた刀。
鞘から抜く際の速度が魔術で向上されており、使い手によっては神速の一撃を放てる。
柄にあるグリップを回す事で刃の形状が変化、肉をより抉る様な形へと変貌する。
強力だが使い手の精気を削る為、長く鞘から抜いていると昏倒してしまう。
・ナックルオブフェザー
:名の如く、羽のように軽い手甲。肘から指先までをしっかりガードする。
加速の術式が込められており、殴れば殴る程その拳速は向上する。
『装甲展開』の掛け声で腕部側面に収納された小さな盾を展開できる。
なお例の如く、エネルギーゲージがありゼロになると数秒後に爆発四散する。
・インスタントマジックロッド
:簡単な魔術を行使できる杖。火の玉を飛ばす、氷の槍を放つ、風の盾を展開するなどの簡易魔法が使用可能。
詠唱アシスト機能があり魔法の心得がない者でも簡単に魔法が使える優れ物。
その反面、持続力にかけ長期的な運用は難しい。
・ダスト特製ぺたぺたローション
:マッサージに用いるぬるぬるした液体。この類のものは本来は水と混ぜて使うのだがこれはそのまま使用できる為、マッサージ経験が浅い者でも使用が容易である。
・ダスト特製エアクッションベッド
:二人分の人が余裕で寝転がる事ができる空気式のふわふわベッド。表面はつるつるしており、いくつかの溝が走っている。ローションと組み合わせる事で思わぬ動きができるかもしれない。
◆登場人物
ダスト
:レルムティアにてマッサージ店『モーニング・グローリー』を経営している女性。
その見た目はツクヨと瓜二つであり、違いは黒髪で触手が白、目が青色というぐらいである。
自由な形態変化能力があり、以前は違う姿をしていたが現在はこの姿に落ち着いている。
人の精気を糧とする悪魔である。
ツクヨ
:金髪赤眼のわがままボディをもつ女性。ダストと姿が瓜二つ。
極度の戦闘狂であり、楽しいことが大好き。
戦闘時は鎖による範囲攻撃や血を剣状にして扱う等距離を選ばないオールラウンダー。
ほぼどんな状況でも冷静な鋼のメンタルを持つが、最近アブナイ接触が唯一の弱点であると知られつつある。
ナディス
:緑髪で金色の瞳をした小柄な少女。中性的な顔立ちで少年に見られることも。
異世界の新米勇者なのだが力不足であり、修行の一環としてツクヨに連れ回されている。
戦闘時は長剣を用いた高速戦闘が得意で火や風などの簡単な攻撃魔法の心得もある。
町長『ゲオルギウス』
:レルムティアの町長を長年務める男。筋骨隆々としており、元々は戦士であった。
町長についてからはやり方にとらわれない斬新な政策を打ち出し、小さな村でしかなかったレルムティアを一大貿易拠点へとのし上げた凄腕の人物。
半面、主に夜の方面でいい噂がなく、連れ歩いてる女性が毎回違うとの話も。
お付きの者達
:4人構成で動くゲオルギウスの小間使い達。彼らの忠誠心は高く、いざというときは戦えるように全員が元凄腕冒険者という経歴の持ち主。
◆敵勢力
ディガード
:憂国の道化師のリーダーの男性。ゲオルギウスへの不満を持つ一部の民達を瞬く間にまとめ上げ、憂国の道化師として組織した。過去の経歴すら不明の謎の人物。
憂国の道化師達
:ディガードによって集められたならず者やゲオルギウスへの不満を持つ民達。
それぞれが重火器、剣や魔法の杖など装備はばらばらで一貫されておらず、統制はそこまで取れていない。だが打倒ゲオルギウスを志すその意志は固く、躊躇も恐れもない。ともすれば命すら喜んで投げ出す危険な者達。