いつの時代も、人々を魅了してやまないもの。
　それは、アイドルです。
　寝子暦1369年を迎えた今も、あちこちで「あの子を推してる」「握手会に行った」なんて会話が。
　当然、この寝子島高校でも。

「なあなあ、DOGの新曲、熱くない？」
「あ、俺もそれハマってる！」
　授業を終え、帰り支度をする男子たちが話しているのは、最近世間を賑わせているアイドル、
　DOG110（でぃーおーじー・わんわんお）のことでした。
　犬の首輪がトレードマークという一風変わった彼女たちは、総勢110人の超大所帯なのです。
　さらに彼らの話は、膨らんでいきました。
「そういえばさ、なんか今日、元DOGのメンバーがウチに来てるって噂があるんだってよ！」
「マジで！？　誰？」
「えーとなんだっけ、俺もあんま詳しくないけど、大沢ゆずかって言ったかな……」
「へー。俺も知らないや。無名メンバーかな。ていうか、その子はなんでウチに？」
「わかんない。俺も噂で聞いただけだし」
　そんな会話をしながら、彼らは帰路につきました。

　その頃、寝子島高校の校門前では。
「ここに戻ってくるのも、久しぶりだなあ」
　ぽつりと呟くひとりの女性。
　彼女は校舎を見据えると、ひとつ溜め息を吐いて言いました。
「はあ、不安だなあ……うまくいくといいけど……」
　そうです、この女性こそが、元DOGの一員であった大沢ゆずか、その人なのです。
　彼女は、マネージャーからある指令を下され、ここにやって来ていました。
　ゆずかの脳裏に、ここに来る前マネージャーと交わした会話が浮かびます。

「まだアイドルやりたいとか、舐めてんだろ……あ、てかお前、どっかの田舎くさい島出身だったよな」
「え？　ま、まあ田舎くさいっていうかアレですけど……」
「そこでローカルアイドルとして再デビューしたらいいじゃん。故郷でリスタートって王道だし」
「そ、それって……」
「そうだよ。出身校行って、自分でメンバー集めてこいってことだよ」

　ということでなんと、ゆずかはグループ結成から始めることを指示されていたのでした。
　校舎からは、ちらほらと生徒が出てくるのが見えます。
　どうやら時間的に、放課後になったばかりの様子。
「ええいっ、うだうだしてたって仕方ないよね！　こうなったらゆずかのクソ力で頑張るっ！」
　言うと、ゆずかはバッグから犬の首輪を取り出し、自らの首に装着しました。
　そして、「アイドルになりたい人募集中！」と書かれたビラを手に、校門をくぐるのでした。
　グラウンドで部活をしている人、教室で遊んでいる人、廊下を走っている人……。
　ゆずかは、目についた女の子に片っ端から声をかけていきます。
「あっ、あなたアイドルに興味ありそうな顔してる！　ちょっと話だけでも聞いてって！」
　若干血走った目で強引な勧誘をし始めるゆずか。
　と、そこに偶然、生徒会長の海原 茂が通りかかりました。
　あまりに必至なその様子を見た茂が「どうしたんだ」と声をかけると、
　あろうことかゆずかは、彼にこんなことを言いました。
「ねえ、このビラまくの手伝ってほしいの！　お金は払えないけど、お礼は必ずするから！」
　首輪をはめた女性に、上目遣いで懇願された茂は、戸惑いをごまかすように質問します。
「そ、そもそも一体何を」
「詳しいことは後で話すから、お願い、手伝って！　クソ力で！」
　半ば強引にビラを渡された茂は、走り去っていく彼女の後ろ姿をただ呆然と見つめていました。
　そうこうしている間にも、首輪をはめて校内をうろつく彼女の目撃情報はあちこちで増えている様子。
　きっと、まだ校内に残っているあなたの近くにも彼女はやってくるでしょう。
「そこのあなたも、いかにもアイドルに興味ありそうな顔っ！」

担当ゲームマスター

萩栄一

マスターコメント

サンプルアクション（1）

プレイヤーの目的・意図

自分のPCに芸能活動をさせてみたい

キャラクターの目的・理由

アイドルになる

キャラクターの行動・手段

友達が掃除当番だから、廊下で終わるの待ってたら、
なんか知らない子に声かけられた。

「アイドルに興味ありそう！」って。
興味なくはないけど……え、何これ怪しくない？
とりあえずちょっと話を聞いてみようっと。

名前とか、なんでこんなことしてるのかとか。
で、一応不信感が拭えたら、「興味はあるよ」って答える。
でも、今すぐにアイドルになるかって言ったら話は別だけどね！
別だけど、どうしてもっていうならなってやろうじゃない、
アイドルってヤツに！
私が、芸能界に嵐を巻き起こす時が来たのよねきっと！
寝子島高校の熱帯低気圧とは、私のことよ！
私の強さは、定規やスカウターなんかじゃ、測れない！
そう、ヘクトパスカルでしか測れない！

みたいな感じで、固い握手を交わして連絡先を交換。
ちょっとテンション高くなって、スキップで帰宅。
あれ、なんか忘れてるような……？
やっばーい！友達置き去りにしちゃった！
謝ろう！台風の如き激しさと素早さで！

でも、芸能人になるってことは、交友関係も時には断ち切らなきゃってことなのカナ……？
うーん、私の涙、もう暴風域突入5秒前！
あれっ、これ使える……！？

サンプルアクション（2）

プレイヤーの目的・意図

お節介なPCが見たい

キャラクターの目的・理由

友達をアイドルに推薦する

キャラクターの行動・手段

なんだか、アイドルを募集しているって話を聞いたのです。
それなら、うってつけの子がいるのです。
私のお友達、トルティエちゃんです。

トルちゃんは、100メートルを10秒台で走れるのです。
陸上部期待のホープなのです。ホープっていうか既にエースなのです。
なので、走れるアイドルとしてデビューさせたら、
すごいことになると思うのです。

ということで、トルちゃんを携帯で呼び出して、一緒に行動するのです。
運良くゆずかさんという方に会えたら、
トルちゃんを全力で推薦するのです。

「トルちゃんは、とにかく速いんです！
　はやきこと風のごとしなのです！
　トルちゃんのスピードは、きっとこれから先役立つのです！
　えっとたとえばほら、パシリの時とか。
　すいません嘘なのです！　その脚力で蹴らないでほしいのです！」

サンプルアクション（3）

プレイヤーの目的・意図

気持ち悪いPCが見てみたい

キャラクターの目的・理由

アイドルのファンになる

キャラクターの行動・手段

なんでも、この学校に今、アイドルが来てるっていうじゃねぇか。
しかも、名前もろくに知られてない、ドマイナーアイドル。
これはつまり、青田買い的なアレじゃねぇか。

今のうちから目をつけといて、仲良くなっといて、
いつか売れたりした時に、
「俺実はメンバー集めの時からのファンだったんだよね」
って言えるチャンスじゃねぇか。

人には言ってねぇが、
アイドルオタクを自負する俺にとってこれは紛れもないチャンス。
そうと決まりゃあ早速会いに行くぜ。

でも実際目の前にアイドルがいると、
ちょっぴり緊張しちゃうぜ。
緊張のあまり、
握手しようと伸ばした手がボディに行っちゃうかもしれないぜ。
ついでに緊張のあまり転んで、うっかり胸元にダイブするかもしれないぜ。
あと、なんか息とかもはぁはぁいってるかもしれないぜ。緊張で。
そう、すべては緊張のせい、緊張のせいなんだぜ。
いやちょっと待て、待ってくれ、痛いんだぜ。
緊張のせいだって言ってるんだぜ？

サンプルアクション（4）

プレイヤーの目的・意図

お手伝いするPCが見たい

キャラクターの目的・理由

ビラを配る

キャラクターの行動・手段

なんか一生懸命ビラ配りしてる子を見つけて、
思わず助けたくなっちゃったからビラ配りを手伝うよ。

でも、途中でゆずかちゃんって子のビラの配り方が甘いなって思って、
アドバイスをし始めるよ。

アドバイスは熱く新入社員を叱るようにしないと意味がないから、
とにかくボロクソに叩くよ。

「なんだそのビラの配り方は！お前ビラ配り舐めてんのか！」
「ビラを差し出すタイミングが遅いんだよ！カメか！お前はカメか！」
「一丁前に首輪なんかしやがってよお。その首輪は何のためにあるんだ？」
「こうだろ？こうやって俺に引っ張られるためにあるんじゃねえのか？」
「ほらさっさと歩くんだよ！私は犬です、ビラを配る小汚い犬です！って言いながらな！」

最終的には食べ物とか与えて、飴と鞭的な感じにしたいんですけど、
途中どこかではっ倒されそうな気がします。
それは甘んじて受け入れます。
ドSには、ドMであることも時に必要だからです。