ふわりと。
名前の思い出せない花の香が、柔らかに頬を撫でる気配がした。
「あれ……?」
結城 日和は、風と呼ぶには、まるで溶けるように消えてしまった空気の名残を追うように、不思議そうに辺りを見渡した。
今日は寝子島での小さな夏祭り。七月初めの心地良い風に浴衣を揺らし、軽やかに鳴る下駄の音を供にお祭りの広場へ向かっていた矢先の出来事──
「ここ、どこかな?」
届いた香りに気を取られた一瞬。
ふと我に返ると、そこは全く記憶にない場所だった。
夜なのは変わらないが、正面にあるのは会場への道ではなく、緑の植物がアーチを描く大きなトンネル。
ぱっと見る限り、他に道は見当たらない。
「行くしかない、よね」
躊躇いが無いと言えば嘘になる。
しかし、じっと入り口を見つめれば、まるで誘われているような気もして。日和は、勇気を出してその一歩を踏み出した。
*----------*
緑の垣根で出来た道を進んでいく。
「わ……っ」
すると中には、木製の柵で仕切られた道の左右に、不思議なことに、一斉に四季折々の様々な花々や草木の自然が広がっていた。
そして、日和が歩きながら鑑賞していけば、手を伸ばせるかたわらに見覚えのある花が目に映った。
「あ、これ知ってる。ノウゼンカズラだね。
うん、可愛いかも」
日和が、近くに咲いていた朱色のノウゼンカズラの花びらに微笑みかけて、手を伸ばして優しく触れる。
──すると。
ふわりと、ノウゼンカズラの蔓花が、そっと日和の浴衣に移し込まれるかのように形を消した。
「えっ?」
見れば、何とそのノウゼンカズラは、消えた立体感の代わりに、その姿をとても鮮やかな浴衣の模様に変えたではないか。
そしてそれはしかと、浴衣を纏う日和の存在をしっかりと引き立てている。
「……すごい綺麗……」
日和は、片手を上げて袖を見たり、自分の胸元を確認したり。
見れば見るほど、着物に写し取られている、先程まで確かに現実に咲いていたはずのノウゼンカズラにため息が出た。
こんな不思議が起こる、この先には一体何があるのだろう。
僅かな楽しみが胸をよぎる中、通路を抜ければ、
そこには、一つの広場があった。
*----------*
遮るもののない、咲き誇る満天の星のきらめき。
最初に頬を撫でた、柔らかな花の香り。
大きな花で出来ている、不思議なベンチやテーブル。
ほのかに灯る光でライトアップされた、小さなステージ。
そして、上空で花開く打ち上げ花火。
そこには、金属の存在がまるで忘れ去られたかのように。
その広場は、自然だけで構築され、少し不思議な花と緑であふれかえっていた。
「お嬢ちゃん、初めてかい? これは『ささやかな花と緑の祭』だよ。
こっちで花の蜜で作ったドリンク配ってるんだ! 見物がてらに飲んで行きな!
今なら、少し不思議な手持ち花火と火種も一緒に貸し出し中だ。
せっかくそんな可愛い着物を着てるんだから、楽しんで行かなきゃ損だよ! 詳しいコトはこっちに聞いておくれ!」
驚きに言葉を無くしてその光景を見ていた日和に、少し離れたところからお祭への誘いの声が掛けられた。
瞬間、ほぼ頭上で大きな花火が上がって、それと同時に日和の上から、満開の桜を思わせる色とりどりの花びらが降ってくる──
「お祭りなんだ……
うん、人もいるみたいだし、少し見て回るくらいならいいかな」
日和は辺りを見渡すと、その花びらたちに背中を押されるように、花をまとった浴衣姿で、会場自体も花であふれる『ささやかな花の祭』へと一歩足を踏み出した──
こんにちは、冬眠と申します。
この度は『勝手に応援シリーズ 第3弾 花浴衣キャンペーン』のプレゼントシナリオに当選なさいました結城 日和様にご登場頂きました。誠に有り難うございます。
もしご機会がございました際には、是非ご自由にアクションを頂けましたら幸いでございます。
それでは、以下より軽く状況からお伝えさせていただきます。
状況
ある夏祭りの夜。
浴衣に着替え、お祭りに向かう途中。ふとした瞬間から、不思議な植物園に辿り着きました。
中に入ると、通路左右にある通りざまに見掛けた四季折々の植物が、不思議なことに、まるで自然に溶け込むようにPC様の浴衣の着物模様へと変化致します。
そして、そのまま道を抜けると、空の星が美しい広場の中で、丁度『ささやかな花と緑の祭』という名の、花や緑の植物に囲まれた、小さな納涼祭が開かれていたのです。
※既に『現象が起こる前から花模様の浴衣を着ていた』という方は、実際の植物が浴衣の柄になるかたわらで、
【最初に着ていた浴衣の柄が、実際に触れられる植物として出現する】事もございます。
こちらにつきましては、ご自由な形でアクションにてご記載をいただけましたら幸いです。
※この際、形になった現実の植物を持ち運べる、片手持ちのバスケットを無料で配布しています。
この広場について
この広場では、ただ今、浴衣を着ていた人達を対象にして、ふわりと花の香のようにこの『ささやかな花と緑の祭』という、少し不思議な空間に案内しているようです。
ここが何故、このような催しをしているのか等を含めた原因は、この場の誰も知りません。ただ何となく、この場所に存在しています。
広場にはいくつかの寛ぎスポットが用意されており、遊びに来た方が自由に過ごせるようになっているようです。
※以下の場所利用は、全て無料となっております。
○『ジューススタンド【MI・TSU】』
バラエティあふれる、花の蜜シロップを使ったジューススタンドです。
・氷水割り
・炭酸割り
・お湯割り
・お任せジュース割り
など、花の蜜シロップが使われていれば、よほどマニアックなものでもない限り出てきます。
リクエストがあれば、大人向けにカクテルなども振る舞われているようです。
他にも、手持ち花火や、ろうそくマッチに始まり、
その他、必要なものがあれば『よほどの無茶ではない範囲、かつ手渡しで渡せるもの』に限り、貸し出してもらう事が可能となっております。
○『イートインスペース』
一息つける、硬質で巨大な一輪の花でできたテーブルと、茎の弾力がある葉っぱの椅子が並ぶスペース。
ジューススタンドでの飲み物はもちろん、食べ物や飲み物の持ち込みも可能です。
○『あちこちに花があつらえられたステージ』
広場のイートインスペースから見やすい、多目的ステージです。
大きさとしては、三名でぎりぎり、四名は上がれない程度の小さなスペースとなります。
今は特にイベントなどは行われておらず、訪れた人が飛び入りでコントをしたり、歌って自慢の喉を披露したりしては他のお客さんから掛け声や拍手をもらっています。
『サプライズ愛の告白』を行う猛者もおり、PC様もご自由にご利用頂けます。
電気はありませんが、不思議な力であちこちにある花々から、柔らかな光が灯っています。
○『おみくじ付きの手持ち花火』
無料で小さな花火とマッチ、ろうそくを配布しています。
火をつけると火花がパチパチした後に、最後にポンッと仄かな光をまとった花が咲きます。
最後に咲いた花を軸から取ると、そこから「明日は晴れるでしょう」から「水難に注意!」などの、短い様々なおみくじが出てきます。
(※アドリブですが、的中率はあてになりません)
○『打ち上げ花火』
会場にいると時折、そしてお祭り終了間際の時間帯に〆として真上に近い位置に大きめの打ち上げ花火が上がります。
花火が上がると、火花の代わりに空から花びらが降ってきます。
花びらは色とりどり、地面に付く前に一枚でも拾えれば幸せになれると言われています。
○『人』
不思議な場所ですが、他にもお客さんがいて、それなりに賑やかです。
アクションでできること
上記の場所の範囲でしたら、ご自由に行動していただけます。
この現象はいつ終わるのか?
不思議な空間ではありますが、携帯電話・時計は正常に動いています。
お祭りの時間は、寝子島時刻の19:00~22:30です。終了時間になると、気が付いた時には迷い込む前の場所に戻っています。
注意事項
※ここで手に入れた花や花びらはお持ち帰り頂けますが、祭が終わると普通の花に戻ります。
※着物の柄は『変化したまま』か『元に戻る』かをご自由に選べます。
それでは、長くなってしまいましたが、皆様の魅力的な花浴衣姿にて『ささやかな花と緑の祭』ご自由にお楽しみいただけましたら、この上ない幸いでございます。
皆様の素敵なアクションを心よりお待ち申し上げております。