「やあ学生さん、奇遇だな」
男はそう言って軽く手を挙げた。
ちょっとした休日の昼下がり。
ヨレっとした黒いスーツの片手には似つかわしくないエコバッグ。
「ああ……コレか?」
バッグの中には新鮮な野菜が数個、トマトにキュウリ、どちらも瑞々しくて美味しそうだ。
「ちょっとそこの直売所まで行ってきてな……ああそう、近所のおばちゃんに教えてもらったんだが、スーパーで買うより安くて美味いのさ」
その男は旧市街に住む私立探偵、
天利 二十(あまり にとお)だ。
そもそもこの男が料理などするのだろうかというほど不健康な生活を送る彼だが、わざわざ直売所で野菜とは、いかなる心境の変化だろうか。
「バカにしちゃいけねぇな。こう見えても酒のツマミくらいは自分で作ることもあるのさ……それに、知ってるか?」
天利は、いかにもそれが重大な情報であるかのように声を潜めながら囁いた。
「トマトもキュウリも、生で食えるんだぜ」
そんなことは子供でも知っている。ところで会話だけ見ると何気ない世間話のようだが、それで片付けるにはひとつだけ問題があった。
「……何だよ?
そりゃあ確かに俺が居る場所は路地裏のゴミ箱の裏だよ? だから何だって言うんだ?」
会話しながらも、チラチラと表通りの様子を気にしている。
「いや何でもねぇよ? ああそうだ、学生さん」
ようやく立ち上がった天利は通りを見渡してから、慎重に歩き出した。
「……もし俺のことを探している子供に出会ったら、知らねぇって言ってくれ。
……そうだな、この島には居ないとか、死んだとか、どう言ってもいいから追い返してくれ。
何ならしばらくどこかに俺を匿ってくれるとありがたいんだが……いやまあいい、しばらくしたらアイツも諦めるだろ」
返事も聞かずに天利は歩き出した。時折、周囲を気にしてか怪しげな足取り。その様子を見て、あなたは思った。
かえって目立つんじゃないかな、と。
☆
それと時を同じくして、本土から来た電車から寝子島駅に降り立ったひとりの少女がいた。
年のころは6~8歳くらいだろうか、この島ではさほど珍しくもないが、白い肌に長い黒髪、白いワンピースを着た小柄な少女。大きなつばの麦わら帽子を被っている。まるで金色のような、琥珀色の瞳が印象的だ。
「わぁ……すごい、ホントウにネコがイッパイデス……!!」
島の様子に興味津々といったその様子から、寝子島を訪れたのが初めてであろうことを想像させる。
その少女は、さっそく仕事にとりかかるか、と言わんばかりに周囲の人に聞き込みを開始した。
「あのスミマセーン、ちょっとオタズネしたいことが。ええ、ヒトを探してるんデス……いえ、たぶんアナタが知っていると思いマシた」
どのような人か、名前などは分かるのかと問うと、少女は答える。
「ハイ、私のパパのハズのヒトなんです……今回ジカンがなくって72時間しか居られません……名前はエーット」
肩に斜めにかけたピンクのポーチから使い古されたメモ帳を取り出して、彼女は言った。
「
アマリモノのニート、って言うらしいです」
少女の満面の笑みが、青空と白いワンピースによく似合っていた。
みなさんこんにちは、まるよしと申します。
今回は日常系シナリオです。私立探偵の天利 二十の娘と名乗る人物が寝子島を訪れました。
寝子島の皆さんの生活を交えながら、特別な事件なども起こらない(たぶん)、道案内をするようなシナリオになると思います。
無理に天利に関わらずとも、初めて寝子島にやってきた少女の、楽しい思い出を作るような気持ちでご参加いただければ幸いです。
何気ない休日の一幕、屈託のない少女と寝子島観光を楽しんでみませんか。
『もれいび』『ひと』『ほしびと』関係なくお楽しみいただけます。
◆少女を案内する?
もしあなたがこの少女に偶然出会ったなら、『アマリモノのニート』という人物の居場所について訊ねられます。
その人物は『シリツタンテイ』であり、その少女の『パパのはずのヒト』らしいということです。
あなたが『天利 二十』と面識があったり、名前に聞き覚えがあるならピンと来るでしょう(天利自身はそこそこ有名な変人なので、過去シナリオで出会ったことがなくとも、知り合いであることにして構いません)。
少女と一緒に天利を探してあげても良いでしょう。
また彼女は、同時に寝子島の観光を楽しむつもりのようですので、寝子島でのあなたのお気に入りのスポットがあるなら、教えてあげるととても喜びます。
ですが、この少女は大変に気まぐれですぐにどこかに行ってしまうため、72時間ずっと一緒にいることは難しいです。
また、少女を案内する人が複数いた場合、少女に出会う場所やタイミングも、必ずしもガイドの通りにはなりませんので、アクションに盛り込んでみてください。
◆天利を匿う?
もしあなたが天利と先に出会ったなら、天利は誰かに追われているようなそぶりで、どこかに隠れる場所はないか聞いてきます。
あなたは事情を尋ねるかも知れませんが、歯切れ悪く誤魔化そうとします。
あなたがこっそり知っている隠れ家的な場所や、しばらく居られる場所を教えたり案内したりしてあげると、喜ばれます。
ですが何らかの事情により、ずっとひとつの場所にとどまり続けることは困難なようです。
長くても数時間すると、昼夜を問わず場所を変えたがるでしょう。
◆少女について
寝子島に初めてやって来た少女。名前を聞くと『フィリア』と答えます。年齢はどう見ても10歳より下ですが、あえて聞くと『18歳』とか『43歳』など分からないことを言い出すこともあります。
基本的には日本語を喋りますが、多少発音が怪しいです。理解もできますが、難しい単語は分からないようです。
性格は素直で明るい子供のように見えます。会話してみると多少常識のズレを感じるかもしれません。
妙に勘のいい子で、あなたとの会話の中であなた自身の悩みや迷いのようなものがある場合、言い当ててしまうかも知れません。
『ダイジョウブです、おカネならアリマス! たぶん3オクぐらい!!』
『ニート! カッコイイと思います! サンマ、オイシイですね!! 食べたことナイですケド大好物です!!』
『アッチ、アッチから来マシタ! コッチに来るとイイと思ったのデス!!』
『トニカク72時間デス……そうしたら、また電車に乗らなくてはなりマセン!!』
とにかくパパであるハズのところのアマリモノのニートを探しているようです。
寝子島にいられる時間は72時間とのことです。寝子島のステキな思い出を作ってあげてください。
◆NPCについて
私立探偵 天利 二十(あまり にとお)については、マスターページをご参照ください。
そのほかのNPCは今回リアクションに登場できません、ご了承ください。
◆アクションについての目安
アクションをかける際、PCの台詞や心情を交えて下さると、キャラクターの雰囲気を掴みやすいです。
そのPCが何をしたいのか、そのために何をするのか、という目的と手段をはっきりさせるとGMとしても行動を取らせやすく、その目的を叶えやすくなります(あくまでも目安、ですが)。
それでは、皆様の楽しいアクションをお待ちしています。よろしくお願いいたします。