夏の暑さを予感させる太陽の日差しに、少し汗ばむ五月の下旬。
参道商店街は、早朝からいつもとは何かが違う騒々しさに賑わっていた。
商店街の中にある小さな軽食屋、その店のマスターが髭を撫でながら眉根を寄せている。
近隣の飲食店に勤めている従業員の多くが、マスターを中心に立ち、話をしていた。
「おたくもかい?」
「えぇ、今日の仕込みを始めようとしたら……もう、困っちゃうわ。どうしましょう」
「しかし、普通に話しても信じえもらえるかどうか……なぁ」
軽食屋のマスターは、エプロンのポケットに手を突っ込みながら、髭を撫でた。
ポケットから手を抜きしな、タバコを取り出し、火を付ける。軽く吸い込んで、細く煙を吐き出す。
そして、店の前に置かれた灰皿に煙草を置きながら、その上のガラスに貼られているポスターの文面に視線を移した。
『チーズが逃げました』
本日早朝、当店の冷蔵庫よりチーズが逃走しました。
床の上を走り、裏口へ逃げていきました。
当店以外にも、同様の被害が出ています。
チーズ以外の被害は、特に無いようです。
見かけた方は、ご連絡下さい。
特徴:箱に入ったチーズや、ホール状の物に足が生えています。
「寝子島神社方面へ逃走していった」との声もあり。
「アニメとかなら、小さなネズミが抱えていった……なんてシーンなんでしょうけど」サンドイッチ屋の店員が、冗談めかして笑う。「さすがにそんなに小さい人間なんて、いないものね」
「だな……しっかし、こんな事、誰も信じねぇだろうなぁ……っと」
腕を組みながら苦笑いを浮かべるマスターが、はたと気付いて腕時計を見る。
置きっぱなしだった煙草を口へ運び、頬をかいた。
「とりあえず、出来る分だけでも仕込むか」
マスターのその言葉に、周囲の人間も軽く頷きながら、それぞれ自分の店へと戻っていった。
【ゲームマスターコメント】
はじめまして、もしくは、お久しぶりです。
歌留多と申します。チーズが逃げました。助けてください。ヘルプチーズ。
と……言うわけで、要点を纏めさせて頂きます。
●逃走したチーズ
カマンベールチーズ、モッツァレラチーズ、ゴーダチーズ、割けるやつ、溶けるやつ……などなど。
飲食店などに常備されていた様々な種類のチーズが逃げ出したようです。
●目撃証言
マスターだけではなく、その現場を目撃した人々はみんな「チーズが逃げた」と言っています。
そして、一部に共通するのが『チーズに足が生えていた』という部分です。
しかし、呆気に取られて、よく見ていなかったかもしれません。
もしかしたら、チーズから足が生えていたわけではないのかもしれませんね。
よく話を聞いてみる必要がありそうです。
●というわけで
このままではチーズバーガーやイタリアンハンバーグのチーズ乗せやピザやチーズフォンデュが食べられなくなってしまいます。
それは確かです。大変です。由々しき事態です。
チーズが嫌いな人にとっては万々歳でしょうが……この際それは忘れましょう。
●アクション!
チーズを探したり。
マスターに話を聞いてみたり。
何となく、何が起こっているのか推理してみたり。
色々とやってみましょう。