上下のスーツを着た若々しい男性が家々のチャイムを押して回る。出てきた不機嫌そうな主婦に顔色を変えず、柔らかい物腰で鞄から自社のパンフレットを取り出す。
「お忙しいところ、申し訳ありません。弊社が独自に開発した塗装剤の宣伝に参りました」
「結構です」
説明を始める前に打ち切られた。引き留める声はドアの音と重なった。
男性の笑みが軋み始める。数十件の家から同じ対応を受けていた。
消え入りそうな溜息を吐いた。
男性はとぼとぼと歩き出す。顔を上に向けた。
「……腹減ったな」
青い空に弱々しく呟く。取り敢えず、目に付いた自動販売機で缶コーヒーを買った。
目は飲食店を探すが見つからない。横手の公園では子供達がサッカーを楽しんでいた。
陽気な声に誘われるように男性は公園へと立ち寄る。隅の方のベンチを見た瞬間、訝しげな表情を浮かべた。
子供達の方を見ると、気にした様子は見られない。夢中になってボールを追い掛けていた。
男性はベンチの方に歩いてゆく。その手前で足を止めた。見下ろす先には木製の丸いちゃぶ台が置かれていた。その上には大きな皿があった。細かく刻んだキャベツに大きなトンカツが切り身となって添えられていた。こんがりと狐色に揚げられた表面にはとろりとしたソースが掛けられていて、男性の喉仏が大きく上下した。
大振りの茶碗には艶々としたご飯が盛られ、白い湯気が微かに見て取れる。味噌汁の入ったお椀も同じ状態であった。
「こんなところに、どうして……」
疑問を口にしながらも逆らい難い不思議な力の影響で座布団に腰を下ろす。ネクタイを少し緩めた。手にした箸で茶碗のご飯を摘まみ、口に含む。
「温かい!?」
トンカツの切り身を一口にした。猛烈な勢いで咀嚼して飲み込んだ。
「めちゃくちゃ美味いぞ!」
子供達は依然、ボールを追い掛けていた。男性の声が聞こえていないようだった。
十数分の食事を堪能した。男性は締めに缶コーヒーを飲んだ。ゆっくりと立ち上がり、空になった缶を近くの屑籠に入れた。
振り返るとちゃぶ台は消えていた。驚いた表情で腹部を撫でる。ぽっこりと腹が出て満腹を示していた。
「よくわからないが、ごちそうさま」
何もない空間に向かって手を合わせた。
男性は取り戻した笑顔で午後の飛び込み営業を再開した。
今回のシナリオは食べることがメインの話になります。
誰かの好意なのでしょうか、それとも神魂の影響でしょうか。場所を選ばないでちゃぶ台が現れます。
PCさんの好みに合わせてメニューは変わります(アクション次第)。
和食、洋食、中華、少し変わったところでジビエ料理もいいですよね!
では、詳しい説明に入ります。下記をご覧になってアクションの参考にしてください。
○今回の舞台○
某日の寝子島、清々しい程の晴天。
○ちゃぶ台○
神出鬼没の木製の丸いちゃぶ台は時間帯を問わず、空腹を訴えるPCのところに好みの料理を乗せた状態で現れる。
目にしたPCは異常を認識しながらも誘惑に屈し、座布団(人数に合わせて増える)に座って料理を食べ始める。
食べ終わって座布団を離れると、ちゃぶ台は勝手に消える。食器や料理を持ち出すと、それらも跡形なく消失する。
※PL情報として、ちゃぶ台は関係するPCにしか見えない(複数でも同じ)。
座布団に座ると、関係者以外の者にはPCを認識できなくなる。食べ終えて座布団を離れると見えるようになる。
説明は以上になります。
一人で食事を味わうのでしょうか。複数でワイワイ言いながらちゃぶ台を囲むのも良いですよね。
サンプルのようにしみじみと食べる、それもまた印象に残る食事になるのではないでしょうか。
では、皆さん、ちゃぶ台が提供する食事を御堪能ください。