新たな季節を迎える前に、寝子島の人々の前に訪れたのはどんな変化だろうか——。
* * * * *
少し遡って3月某日。旧市街のレトロなカフェ『ミルクホール』での変化だ。
アルバイト従業員の
佐藤 英二がバックルームへ入ると、ロッカー前にバイト仲間の姿を見つけた。
「おはようございます、志波先輩。今日も風強いですね」
「英二君オッハヨー☆ もうすっかり春ってカンジだね!」
志波 武道は同じ寝子島高校に通う、英二にとって頼り甲斐のある先輩だ。今日の仕事も盛り上げてくれるだろうな、と朗らかな気分で英二はロッカーを開く。
その目を離した一瞬の隙に、武道は「あとはクロスタイを結ぶダケ!」な従業員制服姿になっていた。この先輩、脱ぐのも早ければ着るのも早いのか。
武道の高速着替えを信じられない心地で観察する英二。ふと背中に視線を感じた。
店長の甥のジュラヴリョフ三兄弟が、頭を団子状にくっつけて、こちらを凝視していたのだ。
「うわっ何してるんですか!」
英二が後退りしつつ、いつもイタズラの首謀者である双子の
エリセイと
レナートを嗜めると、末弟の
イリヤが「僕ですよ」とにっこり微笑んだ。
「着替えを覗きにきたに決まってるじゃないですか。競泳選手の広背筋って堪らないですよね」
「はい!?」
「なんちゃって。ふふっ。
今日は僕たち兄弟からお知らせがあってきたんです」
イリヤがくるっと振り向くと兄たちと視線を交わし、兄弟三人横並びになる。そして一斉に口を開いた。
「ジュラヴリョフ兄弟は、海外進出します!」
「ジュラヴリョフ兄弟、全米デビュー!」
「僕、婿入りのためにアメリカへいきます!」
「え!? すみませんもう一度」「ちょっ、聞き取れないってば!」
絶妙に混ざり合った音から何個かワードを拾った武道と英二が聞き返そうとするが、このタイミングで店長の
寺島 康子に呼ばれてしまった。
*
店の前の狭い道を突風が通り過ぎ、窓をガタガタと揺らしている。ホールでは従業員の朝礼が始まっていた。
「はーい、朝礼を始めます。皆さんおはようございます」
整列する従業員の前には、康子の傍にもう数人。店長代理のチームと、老齢の男性はミルクホールのオーナーである。
(今日って店長たち会議の日だっけ? それとも複数予約とかイベント?)
逡巡する武道は英二と目配せし合う。英二も同じことを考えていたのであろう顔だ。
「——4月からこのミルクホールの店長が、田崎さんになります」
田崎と呼ばれた店長代理の一人が、前に出て「これから宜しくお願いします」と頭を下げた。驚く武道や英二へ、店の近所に住む情報通な主婦パートタイマーが少し自慢げに教えてくれた。
「康子ちゃん結婚したのよ。ホラ、お正月休みに旅行に行ったカ・レ! その旦那さんの出向任期が終わってアメリカに帰るから、一緒に引っ越すんですって」
「おめでとうございます!」と田崎が拍手を扇動し、開店前の店にぱちぱちとめでたい音が響いた。
皆の拍手と祝いの言葉が落ち着いてくると、オーナーがのんびり口を開いた。
「今月末の定休日辺りで康子ちゃんとエリちゃんたちの送別会やるからね。
従業員のほかにも、お世話になった方もご招待する予定だから。みんなもお友達さん呼んでいいんだよ」
「あはは有難うございますオーナー。それじゃ私の話は一旦置いといて。本日の——」
その後。朝礼が終わると同時、一瞬の沈黙のあとに堰を切ったように従業員たちの会話が始まった。
英二と武道は慌ててバックルームへ戻ったが、三兄弟はすでに何処かへ行ってしまった後だった。
「突然だなあ……」
静まり返った部屋に響く英二の声を聞きながら、武道は後頭部をかいている。
まるで花嵐のような勢いで、彼らの働く店に変化が訪れようとしていた。
皆さんこんにちは、東安曇です。
こちらのシナリオは『4月を前にPCやその周囲に起こった変化を描く』シナリオです。
場所・日時・天気などすべてご自由にアクションをして頂けますが、描写されるのは3月末ですのでご注意ください。
特定の場所でのアクションやNPCへのアクションについては以下をご覧下さい。
特定の場所でのアクション
以下の場所でアクションをかける場合の補足情報です。
▼ミルクホール
旧市街の商店街にあるレトロなカフェ。春から青年男性が新店長になります。
康子とエリセイとレナートは従業員を辞め、2・3階は空室になりますが、ミルクホールは今後も旧市街の商店街近くで営業を続けるので、従業員のPCさんは今まで通りアルバイトを続けて頂けます。
▽康子らの送別会
オーナーの提案でミルクホールの定休日に、康子の結婚祝いと送別を兼ねた会が行われます。
従業員だけでなく近所の方なども自由にご参加頂けます。(以下に名前があがっている)NPCは全員何らかの形で登場します。
▼シーサイドタウンレンタルスタジオ
シーサイドタウンにあるステージ付きレンタルスタジオ。
こちらでアクションを掛けられるNPCはバンド・状態異常のメンバーと、イリヤ・ジュラヴリョフのみです。
▼その他の場所へのNPCの呼び出し
常識的に無理のない範囲でしたらリアクション反映が可能です。場合によっては場所のみ変更して描写される場合もありますのでご注意ください。
NPC
以下のNPCにアクションをかけられます。詳しくは各キャラクターのプロフィール設定をご覧ください
▼ミルクホール
康子の結婚により家族揃ってアメリカへ移住が決まった。
エリセイ・ジュラヴリョフ
康子の甥・長男。「自由の女神の持っているのはソフトクリーム」と主張して双子の弟と喧嘩になった。
レナート・ジュラヴリョフ
康子の甥・次男。「自由の女神の持っているのは松明」と真面目に答えて双子の兄と喧嘩になった。
イリヤ・ジュラヴリョフa.k.a.イリアちゃん
康子の甥・三男。進学試験に合格した寝子島高校の寮に行かず、家族と共に移住することを選択した。
自由の女神について「ソフトクリームのコーンが燃えているんだよ」として喧嘩をおさめた。
寺島 康子
ミルクホール店長。甥たちの後押しもあり結婚。店長を退き、海外へ移住することになった。
ポンチク
看板犬。家族と共に引越し予定。もちろん何も分かっていないが、周囲の空気を感じ取ってそわそわしている。
▼状態異常
リーダーの不在でぬるっと解散予定。しかし全員で相談した結果「音楽性の不一致とかにしね? ミュージシャンぽくてかっこいいよね」というところで保留になっている。
▽高知 竹高
寝子島中学校所属。ミュージシャン(ギター・ヴォーカリスト)を目指す少年。
ステージを経験したことで自分のレベルを痛感し、より真剣に打ち込み始めた。
▽日本橋 泉
進学休みから日本に戻ってきたと思いきや、「悪い。しばらくチェルシー戻る」とのこと。詳細は本人のみぞしる。
幌平 馬桐の分析によると「高飛びですね」。
▽幌平 馬桐
寝子島中学校所属。プロのキーボードプレイヤーを目指す少年。
音楽留学を視野に勉学に勤しんでいる。近々短期留学予定。
▽水海道 音春
寝子島中学校所属。ドラマー。
迷走時期を終えて真面目な(練習室)引きこもりと化す。メガネは「どっかやった」。
▼桜花寮
大道寺 紅緒
寝子島高校所属。アニメ化される自著『魔法軍学校の落第王子(マホラク)』が放映直前で、多忙な日々を送る。
常に崖っぷちなのが「最近楽しくなってきましたわ」らしい。やばい。
伊橋 陽毬
寝子島高校所属。プロコスプレイヤー。
所属事務所に新設された声優アーティスト・ナレーター部門に異動が決まり、高校とボーカル・ボイストレーニングや現場を行き来している。
彼女の夢と淡い片思いについて、相棒マスコット・ほろたんこと幌平 馬桐からは「全部叶ったら炎上コース」と言われたらしい。
▼その他
水海道 奏
寝子島小学校所属、ドラマー。水海道 音春の妹。
出演オファーは増えているものの、本人は特に変わらず。反抗期は落ち着いてきた模様。
御幸 若葉(美希)
木天蓼大学に通う陽毬の事務所仲間。近頃はテレビ出演など活動が増えてきている。
鬼ちゃん
自称鬼ごっこの妖精。超常の存在で、出てくるのも消えるのも彼女の気まぐれ。