年末を迎えた旧市街。レトロなカフェ『ミルクホール』のカウンターキッチンで、グラスを洗っていたアルバイト店員の
佐藤 英二は、店長の甥
イリヤ・ジュラヴリョフから意外な質問を受けた。
「英二さん、
ネコミケって知ってますか?」
異国的な灰色の目にじっと見つめられ、思わず咳き込んでしまう。オタク寄り少年英二としては、逆に「あなたはどこでそれを覚えてきたの?」と聞き返したくなる質問だったが、仕事中だと意識して気を取り直した。
「シーサイドタウンの寝子電スタジアムでやる、同人誌即売会のイベントだよ。テレビか何かで見たの?」
すると返ってきたのは、少々込み入ったこんな話だった——。
ミルクホールの常連客に、
大道寺 紅緒と言う寝子島高校の女生徒がいる。彼女は高校生ながらにライトノベルの作家をしており、現在も続刊発売中の作品『魔法軍学校の落第王子』通称マホラクは、アニメ化も予定されていた。
そしてマホラクは、今度のネコミケにも出展予定だった。
問題はここからである。
「
今回イベントステージで、コスプレコンテストが行われるんですの
そこでマホラクの公式コスプレイヤーが司会者として、お披露目予定なのだけれど——」
紅緒は神妙な顔つきでそう言っていた。彼女の説明によると、公式コスプレイヤーとは、作品のPR活動を行う制作会社公認のプロのコスプレイヤーモデルだそうだ。
今回のネコミケでは、ステージイベントへの登壇や、企業ブースでの限定無料グッズ配り、フォトセッションと言ったイベントコンパニオン業務が彼女たちの仕事内容になる予定だった。
「そしてその公式コスプレイヤーの一人が……」
紅緒が一瞬躊躇し、それから意を決して出したのは、彼女の親友で同じく寝子島高校の女生徒
伊橋 陽毬の名前だった。
話し途中の英二が「意外」と相槌をうったように、あの控えめな少女がモデルとは驚きだ。紅緒によると陽毬の趣味はアニメや漫画のキャラクターコスプレで、少し前にスカウトにあってから、プロとして活動しているようだ。
知名度こそ局地的ではあるが、ファンも少なからず存在しているらしい。同じコスプレイヤーの他に、カメコと呼ばれる写真撮影愛好者の人々が主な層だ。
「そのカメコさんの一部が、今度のイベントでの懸念なんですの」紅緒は眉を寄せた。
なんでもローアングルから下半身を狙った
迷惑な撮影を行う者たちの『PPM』と名乗る悪質なサークルがあるそうだ。
「陽毬だけでなく、陽毬のコスプレモデル友達の美希さんたち、それに一般のコスプレイヤーも被害に遭っていると聞きましたわ。
イベントの主催などに注意を受けていも、現場や証拠を押さえられないのを良いことに、その場では反省して見せて、また別のイベントで迷惑行為を繰り返し行っているんだそうですの」
カメラを構えると風が吹いたり、主催者が注意しようとすると姿が消えたりと、彼らに都合のよい不可思議な現象が起こるのだそうだ。
英二はそのサークル
メンバーがもれいびであると察する。
「その
迷惑行為を行うサークルが、今回のネコミケに行くのだとSNSで宣言していますわ。
陽毬は大丈夫と言っているし、主催側や制作会社も対策する予定だと聞いてますけれど、私自身はステージで審査員の仕事があるから動けない。
でも
陽毬や他の女性達が被害に遭うかもしれないと思うと怖くて——」
「——と言う訳で、紅緒さんは当日に
陽毬さんたちを助けて欲しいと、友人や知り合いをあたっているそうなんです」
「ははぁ」成る程ね。「それでイリヤ君にもお鉢が回ったのか」英二が頷くと、イリヤは事態をさっぱり理解していない無邪気な笑顔で答える。
「はい。なんだか良く分からないんですが、陽毬さんの近くで紅緒さんが用意した服を着て、何かあったら助けて欲しいって言われました」
何も起こらないといいですね。と言って仕事に戻ったイリヤの端正な——モデルでもコスプレイヤーでも通用しそうな横顔を見て、英二は一人唸ってしまう。
「もれいびの悪質カメコサークルかぁ……」
オタクの一大イベントネコミケに、波乱の予感がした。
皆様こんにちは、東安曇です。
今回のシナリオは『同人誌即売会・ネコミケで事件が起こり、それを阻止したり解決に動いたり……』と言うストーリーです。
シナリオガイドにあるようにネコミケの会場に、女性コスプレイヤーの下半身などを狙って撮影を行う迷惑なカメラ小僧のサークルが現れます。
しかしサークルメンバーはもれいびで、ろっこんの能力を駆使している為、なかなか主催側から対応することが出来ません。
PCは紅緒に頼まれて陽毬ら女性コスプレイヤーを助けたり、はたまたコスプレイヤーとして事件に巻き込まれてしまったりと、ハプニングに対して行動をとって頂きます。
今回のシナリオで出てくる用語
『コスプレイヤー』
アニメや漫画などの衣装を纏ってキャラクターに扮する人のこと。略称「レイヤー」
『カメラ小僧』
写真撮影を行う者。今回のシナリオでは、コスプレイヤーやイベントコンパニオンを主に撮影することが趣味の人。略称「カメコ」「カメコさん」
『公式(コスプ)レイヤー』
アニメやゲームなどの宣伝をするプロのコスプレイヤーモデル。
『ネコミケ』
夏と冬の年2回、シーサイドタウンの寝子電スタジアムで2日間開催される同人誌即売会。
さまざまなサークル、企業などによる同人誌やグッズなどの販売がメインだが、コスプレ広場、飲食店の出店(店員がメイドなどの衣装を着る慣例あり)も楽しい。
島外からアイドルや声優を招いてライヴ、トークショー、握手会なども行われる。
国内外の観光客も毎年数万人が来場する、ネコフェスに並ぶ夏のビッグイベント。
『魔法軍学校の落第王子』
寝子島高校一年の大道寺紅緒が『いとぐち 紅(こう)』と言うPNで執筆しているライトノベルシリーズ。
通称「マホラク」。現在4巻まで発売されており、3万部を突破、続刊発売中。
ストーリーはタイトルそのまんま、魔法世界の軍学校を舞台に、少年少女がバトルを繰り広げる少年漫画系。
(陽毬はこの作品の主人公の妹のヒロイン1に、美希はヒロイン2に、イリヤは主人公に扮しています。)
*PCは以下の場所に登場アクションをかけることが出来ます。
しかし複数の場所を選択すると、リアクション反映の際に内容が薄まってしまう可能性もございますのでご注意下さい。
コスプレ広場
・PPMが登場し、迷惑行為を行います。
こちらのパートに陽毬、美希、イリヤは登場しません。
企業ブース
・マホラクの出展スペースにて陽毬と美希とイリヤがイベント限定無料グッズ配りをし、写真撮影に応じています。
イベントステージ
・コスプレコンテストが行われます。
こちらの司会者として陽毬と美希が、審査員の一人で紅緒が登壇します。(イリヤはステージの脇に待機しています)
PCは観客席に入場する他、コンテスト参加者として登録し、登壇することができます。
また、開始前(中)に近くにいると、出場を打診される場合もあります。
コンテスト参加者は、簡単な自己紹介(*基本はコスプレネームです)、パフォーマンスなどを行う人もいます。
その他
・紅緒、陽毬と美希とイリヤは、待機時は楽屋に居ます。
彼女たちの友人やアルバイト仲間でしたら、電話やメールで連絡をとることで、接触可能です。
PCの状況などについて
・PCはネコミケに参加していたところを巻き込まれる、紅緒に頼まれて参加する、たまたま会場で事情を知り協力するなどで行動します。
・マホラクのコスプレも可能です。
マホラクのコスプレの場合、自分で衣装を用意することもできますが、ご希望の場合は紅緒側でも手配するので、(おたく趣味でないけれど協力してあげたいPCさんの方便などで)ご利用ください。
こちらの描写は、「かわいい衣装」「カッコイイキャラ」などある程度の指定があれば、リアクション反映の際に、GM側でアドリブ描写致します。
・シナリオ内ではろっこんを使用することが出来ます。
一般のお客様も多くいるので、危険な行為は避けましょう。人混みでごまかしたり、演出のようにして上手く使ってみてください。
NPCについて
『敵対NPC』
PPMと名乗るろっこんの力を使って下半身や胸などを無許可で撮影する悪質な迷惑行動を繰り返しているカメラ小僧のサークル。コスプレ広場でも同様の行動を行います。
陽毬や美希は顔を覚えていますが、コスプレイヤーらの中でも(悪い意味で)有名になってきている為、周囲に聞き込みをすることでどの人物か分かるかもしれません。
特に一般のカメコたちは彼らを煙たがっているので、事情が分かれば快く協力してくれるでしょう。
「もれいび1」
そよ風を起こすろっこんを持ったもれいび。主な使用方法はスカートめくり。
発動条件:対象へカメラのレンズを向け、ふーっと息を吹く。
「もれいび2」
身体と衣服を透明にするろっこんを持ったもれいび。主な使用方法は逃走用。
発動条件:カメラのストラップを首から外す。
「もれいび3」
強い光を起こすろっこんを持ったもれいび。主な使用方法は迷惑撮影時のごまかしと逃走用。
発動条件:カメラのフラッシュをたく。
「もれいび4」
撮影した画像データを、スマホに移動させる(カメラ側のデータは消える)。主な使用方法は証拠隠滅。
発動条件:撮影データをカメラの画面にひらき、掌で覆い隠す。
「その他」
もれいびでないメンバーも複数います。
『仲間NPC』
「伊橋陽毬(CN:マリ)」
寝子高1年1組所属。
マホラク公式コスプレイヤーとして、ステージ登壇、イベント限定グッズ配り、写真撮影を行います。
コスプレイヤーだったことは学校では話していなかった為、PCに気づくと驚いたり、照れてしまうでしょう。
「美希(みき)」
年齢非公開(成人済み)のモデル。
マホラク公式コスプレイヤーその2。スタイル抜群のセクシーな美女です。
「イリヤ・ジュラヴリョフ」
いとぐち紅が直々に連れてきた謎のモデルとして、主人公のコスプレをさせられています。
何でこうなったのかも分からないし、自分が今何をしているのかも分かっていません。混乱していますが、PCとの協力には積極的です。
「大道寺紅緒(PN:いとぐち紅)」
寝子高1年1組所属。親友を心配して、PCたちに助けを求めました。マホラクの作者としてイベントステージに登壇し、その他の時間は企業ブースか控え室などにいます。
他の場所に呼び出すのは難しいでしょう。
「エリセイ・ジュラヴリョフ、レナート・ジュラヴリョフ」
話を聞いて心配し、会場へやってきています。紅緒と協力関係にありますが、必ずしも紅緒と一緒に行動はせず、PCの要請があれば(本人たちが同意すれば)どの場所でも行くことが出来ます。
ちなみにオタク的な知識はなく、ネコミケにも疎いです。