とある遺跡の狭い通路を進む三人の人影。
先頭を行くはある王国の姫君である活発すぎる少女。手に持ったランタンを揺らして大層ご機嫌である。
暗がりを出て光の元に真っ先に出た彼女――ティアは驚きで言葉を失った。
「ふぁぁ……これは、これはすごいのじゃあぁーーッ!」
目の前に広がるのは家が何軒入るだろうかという程の大きな広間。
太い柱が中央で円形に立っており、天井を貫いている。柱の側面には幾何学模様と言えばいいのだろうか不可思議な紋様が所狭しと走っていた。
床はタイル張りのように規則正しく石が敷き詰められており、これまた一定の感覚で不可思議な紋様が走っている。
それらを床や壁面に散りばめられた輝く石が宝石の様に彩り……何とも言えない美しさを演出していた。
数秒遅れて暗い通路から出てきたお供の騎士であるジニアとキュイスも流石に目を丸くしてその光景を見ていた。
踏ん反り返る様にして、ふふんっと二人の前にティアが立つ。
「よいか、妾は城に帰ったら父上にここを王の許可なしには誰も立ち入りできないようにして欲しいと頼むつもりじゃ! そこ、ああーまた何か始まったーーみたいな顔をするでないっ!」
「……違うんですか。独り占めしたいとか、この光景は妾だけのものじゃ、とかてっきり言い出すものかと。だって、姫様ですし」
「なんじゃとっ! そうかそうか、妾に喧嘩を売っているという事か……ほうほう、いい度胸だのう、ジニアよ」
「いえ、そんなつもりは毛頭ありません。何の得にもなりませんし」
顔をひきつらせながら怒りをあらわにするティアの言葉を静かな顔でジニアは躱して見せる。
はたから見れば主君と臣下には到底見えないかもしれない。
しかしジニアに至ってはこれが普通なのである。王や側近達の前でもこの姿勢は崩さないのだ。
「だが先程の――――」
「それは勝手に姫様が悪口を言われていると勘違いし、これまた勝手に怒り狂っている……ということ以外事実はございませんね」
「な、く、この……ぐぬぬ…………! もうよい! しばらくここで待っておれ! ぐうの音も出ない様な発掘品を見つけてきてやるのじゃ!」
怒り狂ったティアはどすどすと階段を下って下へと降りていく。
慌てて付いていこうとしたキュイスを腕で遮り、ジニアは静かに黙っている。
「なんの真似ですか……わざと怒らせて、姫様だけ先に行かせるなんて……何かあったら――――」
「何もない。下見した時点では……ですが」
「下見……いったい、いつ――」
「それに、姫様がいてはできない話もありますから」
「………………」
ジニアは右ポケットに手を突っ込んだまま何かを弄っている。目線はキュイスを睨んだまま……外さない。
静寂が辺りを支配し……二人は時が止まったようにお互いから目を離さない。
最初に静寂を破ったのはジニアであった。
「単刀直入に言います。貴方は……どちら側ですか?」
その問いかけをするジニアの視線は、キュイスが胸から下げた大臣からの信頼の証であるペンダントを見つめていた。キュイスは俯いたまま何も答えない。
「そうですか……それが答えですか。致し方ありませんね」
ジニアが剣の柄に手をかけるよりも先に仕掛けたのはキュイスであった。
低い姿勢から踏み込んで放たれたキュイスの薙ぎ払いを後方に跳躍して躱し、ジニアは剣を逆袈裟切りに抜き放った。それをキュイスは紙一重で躱し、前傾姿勢から重い突きを放つ。
防御するも勢いに押されたのか吹き飛び、床に空いていた大穴にジニアは落下していった。
落下する際にポケットから玉状の何かを放ったようだが、それはキュイスに躱され彼の足元の地面へと落ちた。
「……この穴の高さなら、流石のジニアでも無事では済まないでしょう。彼に動かれる前に、私は私の成すべきことしなくては。全ては選ばれし貴族による、安寧の未来の為に」
そういうキュイスの背後で地面に転がる玉状の何かが細い足を生やし、筒状の目を伸ばす。
それは小型カメラを内蔵した機械の虫であった。
キュイスの後をそれは静かにつけていく。勿論、彼は気づいていない様であった。
◆
「全く……いっつもいっつも小言や嫌味ばっかりいうのは、なんとかならんのかっ!」
ティアは先程のジニアとの一件に憤慨しながらその辺の壁や床を注意深く探っていく。が、特にめぼしいものは見当たらない。
ふと、よろめきながら何者かがこちらに近づいてくるのに気づいた。
近づいてきたのはどうやらキュイスのようである。
「がふっ……ジニアが……ジニア、が……!」
「一体何がどう……これは、血じゃとっ!? キュイス! 何があったのじゃ!」
ふらつき倒れそうになった彼を支えたティアの手に血が付いたのである。それも少量ではない。
キュイスに肩を貸し、そのまま指し示される方向へと進む。
「ジニアが……突然、私を殺そうと。応戦したのですが、やはり……撃破は難しく……手傷を負わせ、追い払う事しか……」
「いいのじゃ、これ以上口を開けばいらぬ体力の消耗に繋がる。どこか落ち着ける場所で応急処置をしないとならんのう」
「姫様、あそこのレバーを倒して、くだ……さい……そうすれば、奥に……いけます」
キュイスの指示するままにレバーを倒すと音を立てて壁が開き、奥に続くであろう道が現れた。二人はその道に入り、奥を目指す。
「この先は未調査区域です、慎重に進みましょう。入ってきた時とは別の出口を探すためとはいえ、死んでしまったら元も子もないですからね」
そういうキュイスの言葉を聞きつつティアの脳裏に過ったのはジニアの事。
果たして、キュイスを傷つけたのは本当にジニアであったのだろうか。もし仮にそうだったとしても、いったい何のために。
殺すだけが目的であれば暗くて狭い入口の通路で音も無くやればいい。
教育係でありながら武術指南役も務めるジニアの技量ならば、不可能ではない。
それをしなかったのはなぜ……?
そもそも、ジニアがキュイスを殺そうとした理由が見当たらない。
キュイスに至っては、なぜ調査隊でもない『ただの騎士』がこの隠し通路を知っている?
しかも内部が未調査であることまで……。
あれは王宮の高官や大臣等でなければ知りえない情報のはず。
幾つもの疑問が浮かんでは消えていく。
(……妾のいない間に何があったというのじゃ……。のう、ジニア……キュイスよ)
お初の人もそうでない人もこんばんわ、ウケッキです。
お姫様っておてんばなイメージがついているのはなぜでしょうね。
なんかお淑やかなイメージはない今日この頃です。
さて、そろそろ本文の捕足をおこなっていきましょう。
寝ている時、けだるさと寝苦しさを感じて目を覚ますとそこは見知らぬ異世界。
あなたはこの世界に相応しい姿をしています。(装備についてくわしくは後述します)
そして、これから異世界に干渉することになります。自らの意思で考え、行動しましょう。
スタート地点は、遺跡周辺であれば自由です。
ただし「遺跡内部(後述)」からのスタートは認められません。
あなたはこの世界で目覚めると、これから説明するさまざまな状況や情報を知っています。
ガイド本文にある姫たちのやりとりも、直接見たわけではないけど、不思議と何があったのか知っています。
でも、部分的に、あるいは全く知らないという設定でのスタートも問題ありません。
キャラクターにあわせて、楽しみやすいように設定してアクションを書いてください。
今回の異世界での目標ですが『ティア』の生存及び遺跡からの脱出となります。
他二名に至っては最悪の場合死亡していようと、彼女が生き延びて遺跡から脱出さえすれば目標達成となり、元の世界へと強制送還となります。
もしもティアが死亡してしまった場合、歴史が改変されたとなってしまい目標は失敗となります。
■登場人物
ティア
:とある国のお姫様。活発であり、運動神経に優れる。表情のころころ変わる明るい子。
好奇心旺盛でいつも何か楽しい事はないか探している。
基本的に王宮内はつまらないと考えており、よく抜け出してはどこかへ出かけている。
また、特技でもあるダンスを応用した蹴り技は並みのモンスター程度であれば一撃で蹴り砕く程。剣も使えるが当人曰くしっくりこないらしく、ほぼ使わない。
キュイス
:若い騎士の一人。いつも笑っているような青年で、笑顔は絶やさない。
品行方正、出身は貴族であり騎士学校の成績は主席で卒業している。
基本は城内勤務ではあるが今回は大臣自らと本人の願いにより、姫の護衛として同行する事となった。
実力がないわけではないが、教本通りの戦法が多い傾向にある為、実戦では戦果を上げられていない。
ジニア
:ティアの国に仕えている騎士の青年。
真面目で堅物、融通が利かない事で有名ではあるが勉学優秀で戦闘技術も一級品である。
その能力を高く評価され、姫であるティアの教育係と剣術指南役を任されているが教え方はスパルタ式とも言われ恐れられている。
能力は高いが、騎士学校を卒業しているわけではない為に一部の貴族からはよく思われていない。
◆
それでは遺跡の内部説明にまいりましょう。
え? なぜわかるかって?
それは……事前にマスター専用広域スキャンを――という冗談はさておき、この情報が皆様のお役にたてればいいなと思います。
■遺跡内部について
ここはある王国領内の遺跡です。最近発掘が始まった比較的新しい遺跡なのですが、
王宮の調査隊によって地上の一階部分のお宝はすべて回収され、仕掛けも止まっています。
ですが、隠し通路となっている箇所から侵入する地下一階から地下四階までの遺跡の中心部はまだ未調査の為、侵入者を防ぐ仕掛けや魔物が存在します。
・地下一階
比較的弱いチビゴーレムが存在するエリアです。
仕掛けが何もない代わりに細い通路が幾重にも折り重なり、迷路状になっています。
天井は高く、辺りが暗い事も相まって上方からの奇襲に注意すべきエリアです。
道幅も人一人がやっと通れるほどですので、戦闘は避けて動いた方が無難かと思われます。
暗闇を移動する謎の集団がいるらしいので見つからぬようお気を付け下さい。
彼らは暗闇でも目が利きますので戦闘になれば苦しい戦いを強いられるでしょう。
・地下二階
チビゴーレムとマザーゴーレムによって守られた大小いくつかの部屋があるエリアです。
ここでは地下に続く扉が施錠されている為、カギを探す必要があります。
調査隊と思われる亡骸を幾つか確認しましたので、彼らなら何らかの情報を持っている可能性があります。
仕掛けにつきましては、踏むと発動するスイッチ式の物が仕掛けられているようです。
一見すれば分かりにくいですが、よく見れば他よりも窪んでいるようなので避けることは可能です。勿論、踏めば爆発します。
・地下三階
このエリアの天井は高く、真ん中に大きな円状の広間があります。そこに配置された四つの石像は口から高速の属性弾を射程距離に入った者目掛けて発射してきます。
この石像を突破しないと奥の地下に通じる階段へ到達できません。
また、石像の不可思議な力の影響かろっこんの使用がこの広間のみ、一切できません。
各石像の属性は風・炎・氷・地のようでどうやら広間の四方に位置する各部屋に対応した何かがあるようです。その部屋の天井が高い事からアラネアの潜伏に注意してください。
部屋内部にはチビゴーレムがいる事からどこかにマザーゴーレムもいるものと推測されます。
戦闘の際は複数の敵との戦闘に注意を払ってください。
・地下四階
ほぼなにもない大きな広間と地上まで続く大穴があるエリアです。
大穴にはエレベーター(NPC達にとっては不可思議な機械)が設置されておりますので脱出の際はこれを使用すればよいかと思われます。
敵性体の反応はありませんので、比較的安全なエリアと言えるでしょう。
ただ……もしかしたら――いえ、なんでもありません。きっと気のせいです。
大型ゴーレムが隠れていそうだなーなんてこれぽっちも思ってませんから。ええ、ほんとに。
もし遭遇した場合は倒すよりも時間を稼いで、エレベーターで逃げた方が得策ーーなんて、少しも考えていませんよ。ええ、まったく。
◆
丸腰で異世界にいくわけにはいかぬということで、いくつかの装備セットを用意しておきました。お好きな物を一つだけ選んで事に当たって下さい。
その職業の人物としてNPC達には見えてしまいますのでその点もご注意ください。
なお、装備だけ選んであの場所に偶然居合わせた別の人物になりきる事も可能です。
例えば遭難した調査隊の生き残りとか遺跡に潜伏している強盗だとか王宮から依頼を受けた傭兵とかです。ただし「私が本物の姫」などシナリオから逸脱したものの場合は、採用できませんのでご注意くださいませ。
■装備セット
・冒険者セット
一般的に知られている通り旅をしながら遺跡などを巡る者達のセット。
比較的軽装な皮の装備で、身のこなしは軽くなる。
持てるアイテムに余裕がある為か所持品が一番多い。
所持品:鉄の剣、ナイフ、皮の盾、鉤付きロープ、爆薬、回復薬三個
・戦士セット
闘いを生業とする者達のセット。
装備の固さを生かした攻撃力、防御力に優れる反面、動きが鈍い為に罠の回避などが難しくなってしまう。
所持品:鋼の剣、鋼の盾、投擲用手斧、回復薬一個
・魔法使いセット
魔法を扱いこの世の理を探求する者達のセット。
普段着と変わらない布装備の為か防御効果はないといってもいい程だが、魔法アイテムでそれを補う。
所持品:炎の杖、魔法障壁展開用腕輪
※炎の杖は精神力依存の火球を放つ杖。回数制限はありません。魔法障壁展開用腕輪は鋼の盾よりも固い魔法の盾を展開します。大きさは畳一畳分です。強力な防具ですが、あまりにも大きな力を受け止めつづけると壊れてしまいます。
・考古学者セット
考古学を志す者達のセットです。
布装備であり、戦闘用のアイテムを余り持っていませんが、豊富な探索アイテムが魅力です。
所持品:皮の鞭、探索用ルーペ、鍵開けツール、縄梯子、ペンライト、松明三本。
※探索用ルーペは覗くと妖しい所を光って知らせます。鍵開けツールはカギのかかった箱を開けられますが扉は開けられません。
◆
参考情報となりそうな異世界の文献もいくつか集めておきました。
必要に応じて閲覧してください。
あ、お菓子とかジュースをこぼしちゃだめですよ。これら文献は貴重品ですから。
■参考情報
~発掘隊記録文書より抜粋~
遺跡はまだ機能的には生きているが、防衛機構の死んでいる表層部分であれば戦闘力のない民間人でも調査は可能。
しかし、深部へと続く扉の先の調査は十分ではなく、未知の危険性が潜んでいる可能性あり。
度重なる調査により発覚した敵性体のデータをここに記す。
チビゴーレム
:でちゅ口調の人の足首程度のゴーレム。遺跡内に群生しており、その数は数えきれない程。
基本的に眠っており無害だが、眠りを妨げると襲って来る。
口調こそあれだが、その知能は人間並みであり侮って掛かればただでは済まない。
マザーゴーレム
:チビゴーレムの存在する部屋に安置されている中型のゴーレム。人と同じ程度の大きさ。
触れようがなにしようが全く動かないが、チビゴーレムが危害を受けるか破壊された場合に起動し敵性体が死滅するまで機能は停止しない。
両腕に大型ビームチェーンソー、腹部に機関砲が二門とかなりの重武装でありながら脚部に装備された浮遊装置により高機動で対象を襲う。
装甲には魔法金属が使用されており、並みの魔法であれば吸収し跳ね返してしまう。
アラネア
:天井でじっとしている円筒状のゴーレム。
下部が発光している為、パッと見は天井照明か何かに見間違えやすいがひとたび侵入者を検知すると蜘蛛型に変形し、襲って来る。
ゴーレムの中では気性が荒い部類であり、装甲が剥がれようが足がもげようがお構いなしに攻撃してくるので注意が必要。
センサー類が多く積まれており、暗闇でも的確に対象を補足できる。
謎の人物
:遺跡内にて時たま見かける黒い衣装に身を包んだ謎の人物。
動きがとても速く、壁や天井をまるで地面の様に走り、鎖による三次元移動を駆使して襲い掛かってくる。
持っている武器は様々で統一性はない。素手の者もいる。
完璧なまでの統率性を見せており、一人に見えても周囲に複数いると想定した方がよい。
「アンジャ」としか言葉を発さず意思疎通は恐らく不可能と思われる。
~王宮御前試合結果報告書より抜粋~
午後二時頃より開始された王の前で行う御前試合は今後の姫の教育係を決定する為の重要な試合である。
事前の皆の予測を裏切り、最有力候補であった貴族出身のキュイスを破ったのはジニア。
これにより、ティア姫の教育係はジニアが務める事となった。
騎士学校を卒業していない者による教育係は異例ではあったが、ジニアの戦闘経験の豊富さと実力を考えると問題はないだろうといえる。
~ティア女王の軌跡より抜粋~
彼女は若いころからおてんばとして知られ、女王になってからも話題に事欠かない人物であったことは皆の知る所だろう。
そんな彼女は女王に即位してからだけでなく、その以前からいくつもの危機に遭遇している。
その一つに『南方遺跡での遭難』がある。ここではそれについて語ろうと思う。
まだ彼女が王女であった頃、宮廷内は二つに割れていた。
正統な後継者である王位継承権第一位のティア王女は来る日も来る日も遊び呆けており、女王としての器が疑問視されていたのである。
宮廷内では比較的真面目なアーノルド王子を王位継承権第二位ではあるが次期国王として推そうという動きがあったのだ。
この遭難事件にはいくつか諸説があり主な説は、大臣の陰謀説、ティア王女の自作自演説、はたまた外国の誘拐未遂説などである。
しかし一見関係のない諸説だが、共通している事柄があった。
それはこの遭難事件を境に、ティア王女が人が変わったように王族としての自分を自覚し、国の事を真剣に考え出したという事である。
事実はどうであれ、この遺跡にて彼女になにか変わるきっかけの様な物があったのは確かであろう。