どこを見ても、レンゲ、レンゲ、レンゲ。
一面のレンゲ畑。
紫の霞のようなその風景があるのも、あと3日。
レンゲは土に鋤きこまれ、水が引かれて攪拌され、この場所はレンゲ畑から緑の揺れる水田となってゆく。
「てなわけで、明日1日、田んぼの持ち主の木戸さんがゲンゲ畑を開放してくれるそうなんや」
牛瀬 巧先生は、そう話を切り出した。
普段は土が荒れてしまわぬようにと立ち入りが禁止されているのだが、そのレンゲ畑があるのもあとわずか。
耕してしまう前に、生徒たちに自然観察を兼ねてレンゲ畑を楽しませてやりたいという牛瀬の頼みを受け入れて、持ち主がレンゲ畑に自由に立ち入って良いと許可を出してくれた。
「もちろん、荒らしたりするのは論外やで。未だに自然農法で育ててる大事な田んぼやさかいな。けど、花ぁ摘んだり寝転がったり、走り回ったりするくらいなら全然構わねぇそうだから、まあ、のんびり過ごすのも良いんじゃねえかと思ってな」
木戸が大切に育んでいるから、レンゲ畑の土はふんわり良質で、素足で入っても大丈夫なほどだ。
ミツバチが忙しく飛んでいるけれど、こちらが刺激しなければ刺されるようなことはないらしい。
「興味ある奴がいたらいってみたらどうや。ワシも気ぃ向いたら、昼寝でもしにいくで」
自然に囲まれ、ミツバチの羽音を聞きながらの昼寝はさぞ気持ち良いだろうと、牛瀬は目を細めた。
「弁当は持ち込んでもええけど、後片づけはしっかりせなあかんで。『来たときよりも美しく』って言葉があるやろ。あの精神で頼むわ」
興味のある奴はまた明日、と言い置いて、牛瀬はそそくさと家路についたのだった。
子供の頃、レンゲ畑は自然にレンゲが生えてるんだと思っていました。
勝手に入って花冠を作ったりして遊んでいましたけれど、あれは田んぼの為に種を蒔いて育てているレンゲだったのですね。
それを知ってからはレンゲ畑に入ることはなくなりましたが、一面に咲くレンゲ畑を見ると、いまも心が浮きたちます。
そんなレンゲ畑を楽しんで戴きたい、というのがこのシナリオです。
題名がレンゲ畑ではなくゲンゲ畑なのは、紫の雲という漢字が咲いている様子にぴったりで好き、というのもありますが、生物の牛瀬先生を引っ張り出したので、標準和名での表記も良いかなと思ったというのもあります。
題名通りに寝ころんでもいいですし、追いかけっこしたり、童心に返って花冠を作ったりと、レンゲ畑でのひとときをお楽しみくださればと思います。
レンゲ畑でくつろいでいるみなさんの為に音楽演奏、なんていうのもステキですね。
木戸さんの田んぼは何枚もありますので、他の人から離れて1人で静かに楽しみたい、というのも可能です。
春から初夏へ、レンゲ畑から水田へ。
ぜひ、季節を感じにお越し下さいませ。