猫鳴館、自治会長の
邪衣 士は、自治会室の奥に腰掛けた。
目の前には、山のように積み重なった始末書や報告書。
そのとき、どーん。
どこかの部屋で誰かが転んだのだろう。どこかの音が館中によく響く。よくあることだ。
そして、その揺れがめぐりめぐってこの部屋に届くこともある。よくあることだ。
ずざざざ~。
書類の山が崩壊して、辺り一面を埋めてしまった。よくあることだ。
「まったく余計なトラブルが多すぎるぜ……」
床に散らばった書類を、はいつくばって拾い集める邪衣。
屋根が壊れた、壁に穴があいた、ゴキブリが大量発生した……ひとつ拾うたびに寮生の姿が思い浮かぶ。
(楽しいことも多すぎるけどな)
と静かに微笑んだそのとき、床の近くの壁に小さな貼り紙があることに気がついた。
『自治会長、要確認。あかずの間の取扱説明書。重要!』
お、おい~。今頃なんだこれ! なんでこんな足下に貼ってあるんだ! 前会長は何で黙ってたんだ!
そのとき、みんなが集まる大部屋の方から誰かの叫び声が聞こえてきた。
「た、大変だ~~~! この世のオシマイだ~~~!」
貼り紙をサッとはがして大部屋に急ぐと、空っぽになった大鍋がドンと置かれていた。
どうしたのかと問えば、みんなでなけなしの金を集めて材料を買った、作ったばかりのカレーが消えていたらしい。
うん、この世のオシマイでは、ない。
しかし彼らにとっては死活問題。
そのまま緊急会議が始まり、目撃者が数人ほど証言をはじめた。
大部屋でうたた寝していた者によると、飲み物のように鍋を一気飲みする奴がいたらしい。
廊下で着替えていた者によると、黄色い体でふわふわ浮いてる奴がいたらしい。
屋根裏で読書していた者によると、“あかずの間”にスーッと入っていく奴がいたらしい。
「カレー好きで黄色……?」
首をかしげる現自治会長の邪衣に、前自治会長の
海原 茂が話しかける。
「邪衣、あかずの間の管理、ちゃんとやってきたのか?」
「管理? 鍵ならきちんと預かってるが――」
「おい、まさか、ユウレイジャーのこと聞いてないのか? 普通は前会長からきちんと話が……あ!」
「……前会長はアンタだぜ?」
呆れ顔の邪衣、ポケットに突っ込んだ貼り紙のことを思い出した。
「これのことか?」
「うむ……」
「前会長、アンタまさか、大事な引き継ぎを忘れてたんじゃないだろうな!」
「うむ……」
猫鳴館のあかずの間の取扱説明書によると……
毎月鍵をあけて中に入って、お供え物をしなくてはいけなかったらしい。
そのお供え物は、赤、青、黄色、緑、ピンクの5色の食べものが必要だという。
その特徴から、歴代自治会長は彼らを亡霊戦隊ユウレイジャーと呼んでいたらしい。
「もしかして、お供え物をサボってたから出てきてしまったということか? 出てくると、どうなるんだ?」
海原は自分の伝達ミスを棚に上げて、重々しく語る。
「昔から言われていることがある。ユウレイジャーが好き勝手動き回るとき……猫鳴館は廃寮となる!」
「ま、マジかよ……」
海原はしばらく思案すると、困惑する邪衣の肩をポンと叩いた。
「邪衣、皆をまとめて事件の解決に努めてくれ。猫鳴館を頼むぞ!」
毎度お世話になっております。小西秀昭でございますっ。
さて、今回は“あかずの間”から何者かが出てきたようですが、
目撃情報を整理すると、1体ではなさそうです。
共通の特徴:半透明でふわふわ浮いていて実体がないが、誰にでも見える。
壁や物に接触できないが、たまに接触できるかも。
ポルターガイスト現象で、寮内のものを動かすことができる。
1.黄色いやつは、もっとカレーが食べたいと言ってたそうで、
カレー臭がすると寄ってくるようです。
2.赤いやつは、とにかく目立ちたいようで、
写真撮影してたら真ん中に割り込んできてポーズをとってたそうです。
3.青いやつは、俺より強い奴に会いたいが口癖らしいです。
クールに遠くを見ている様子をあちこちで目撃されています。
決闘を挑むと、ポルターガイスト現象で手近な物を操り相手をしてくれるようです。
4.緑のやつは、影が薄いのが悩みらしく、
誰にも見つけてもらえないのでどこかで拗ねています。
5.桃色のやつは、玄関の前の木のあたりにセクシーな感じで縄で縛られています。
自分で抜け出せるはずですが、「いや~ん、たすけて~」とか言ってます。
ユウレイジャーは十分に願いが叶うと“あかずの間”に戻る、かもしれません。
あるいは、倒したり他の方法で戻ることもあるでしょう。
全員が“あかずの間”に戻ったときを見計らって、
自治会長が持っている鍵でドアを閉めれば、また封じることができそうです。
基本的には、1PCさんにつき1ユウレイジャーに絞って対応してください。
あっちもこっちも自分で倒す!というのは、採用されません。
邪衣さんが参加していない場合、どこかで迷子になったのかもしれません。
鍵はきちんと誰かに預けているものとして、その方にアドリブで鍵を閉めていただきます。
猫鳴館のみなさん、ご友人のみなさん、廃寮の危機を救うため、
ユウレイジャーをなんとかして“あかずの間”に戻しましょう!