旧市街の往来を、三兄弟が歩いていた——。
高校生の双子の兄と中学生の弟、実は昨日までロシアに住んでいた弟とは久々の再会で、積もる話から互いに矢継ぎ早に言葉を掛けては、笑顔を絶やさない。
彼らが向かうのは、双子の下宿先で有り弟が今日から住むことになる伯母の経営するミルクホールである。
「伯母様は元気?」
「ああ、変わりないよ。いつも通りパワフルでとても——」
弟に喋りかけながら長男が開いた扉へくるりと向き直った次男は、入り口から真っ直ぐ見えたカウンターに両肘を付いて項垂れている伯母が纏うこの世の終わりの如き雰囲気を目に留め、開いたままの口から次に出すべき言葉を迷っている。
「とても…………その……」
「過労気味だな。おばさん、帰った。……康子おばさん!」
二度声を掛けられて漸く兄弟の帰宅に気づいた伯母の康子は、両手を挙げて彼らへ駆け寄った。そして記憶の中の姿と比べすっかり背の伸びた三男を抱きしめる。
「まあまあ、着たのねイリヤ! 疲れてなぁい? 日本は楽しめそう?」
「ははは、疲れてるのは多分伯母様の方じゃないですか。僕は元気、とっても。
……潰れなけりゃ」
ハグと言うより伸し掛かるような力に、段々と床に沈みながら、三男——イリヤは伯母の背中をトントンと宥めるように叩く。
「一体どうしたんです伯母様、随分と顔が肌荒……顔色が悪いみたいだけれど——」
「そーうなのー疲れてるのそれなのにこの上——アルバイトが辞めるって! 三人も!!」
「イビッた?」
長男は、歯に衣を着せぬと言うよりわざと意地悪な言い方で、伯母の揚げ足を取っている。
「違うわよエリセイ!! なんと痴情の縺れ!」
「ああ……仲が良すぎたみたいだね」
次男に耳打ちされて、イリヤは顔を真っ赤に染めて黙りこくる。初心な反応を楽しむ人の悪い笑顔を見て、康子は「あのねぇ」とため息を吐いた。
「あのね、言っとくけど先月辞めた女の子はレーナに振られたのが原因よ。
信じられる!? 先々月も、その前の月の子も理由はそれ! 全く——、言葉を選ば無いんだから!」
指をさされ、レーナと呼ばれた次男——レナートは口を閉じつつも、肩を竦めて戯けて見せた。そんな具合でいまいち反省の様子の無い双子の弟の腰を、エリセイが肘で突く。
暫くツンツンと突きあい、弟と一緒に吹き出しかけていた双子だったが、康子のシャウトがそれを遮った。
「バイトが辞めてホールが回らなくなって客足が遠のいてやがてこの店は閉店……私は路頭に迷うの!
あーもう終わりよ! この世の終わりなんだわ!!」
再びカウンターに突っ伏しておいおいと嘆く伯母を見て、兄弟は視線を通わせる。
イリヤがおずおずと前に出た。
「あのね伯母さん、いざとなれば兄さん達が居るし、
僕も……いきなりで戦力になるか分からないけど、出来るだけ手伝うつもりだよ。でも——」
弟が申し出たのをきっかけに、双子の声が揃って店内に響いた。
「バイト、募集すればいいんじゃないの?」
皆さんこんにちは、東安曇です。
今回お届けするシナリオの舞台は、旧市街のとあるミルクホール。
60席ほどのレトロな雰囲気の店で、中年女性が経営をし、ティーンエイジャーの三兄弟が手伝っています。
PCはこちらの店でアルバイトとして働いたり、店を訪れたとしてアクションを掛けて下さい。
中学生以下のキャラクターが働くロールを掛ける場合、1日職業体験という形でご参加下さい。
リアクションに描写されるのは、この『休日のミルクホールの1日』で、その他のシーンは描かれません。
【ミルクホール】
コーヒーや紅茶、ケーキなどをメインに、洋食が提供されるレトロなカフェです。
値段もそこそこ手頃なことから近所の住人や学生など、幅広い層が訪れています。
【登場NPC】
『康子』
店を経営し、切り盛りしている中年女性。三兄弟の伯母にあたる。なお、独身の模様。
カウンター(オープンキッチン)で料理を担当する事もありますが、基本的にホールには出ません。
『エリセイ』
三兄弟の長男。次男のレナートとは双子。寝子島高校に通う2年生(3組)です。
主にカウンター(オープンキッチン)で料理を担当しています。
『レナート』
三兄弟の次男。長男のエリセイとは双子。寝子島高校に通う2年生(2組)です。
主にホールを担当しています。
『イリヤ』
三兄弟の三男。寝子島中学には数日後に編入予定の3年生です。
日本語は得意で流暢に話せるが、過去一度しか訪れたことがなく、その際(寝子島では)まともに観光していない。
右も左も分からないので、色々と興味津々の様子です。島のことや学校のことを教えてあげると良いでしょう。
【追記】
マスターページにキャラクター紹介の画像があります。見ていなくても問題ありません。