かってに応援ちゃんねる！｜リアクション

かってに応援ちゃんねる！

「私は熟議民主主義を支持します」さわやかに森蓮は言う。
「えージュクジョ？　熟女が？」ゴールドは首をかしげる。
「熟議民主主義」蓮が笑顔を向ける。「衆愚政治に陥らないためですね」

　熟議民主主義。対極に挙げられるのは『集計民主主義』である。
　民主主義という政体では、ともすれば選挙とは「票稼ぎ」のことになる。
　ネットが発達し、手軽に集計に参加できる現代において、徹底的な『熟議』『熟慮』は見直されつつある。

「生徒、教師、地域住民、他校生……関係者同士が、当事者意識をもって話し合う必要があると思います。
　考え方の異なる方々からも意見をうけ『問題はなにか』『どの解決策が適当か』考えるべきでしょう」
「熟慮……ってことかい？」
「性別、人種、宗教の違いも重要ですね。少数派の意見も尊重すべきです」

　寝子島には多様な文化を持つ人が集っている。
　候補者の中にも、留学生の姿がある。
　また、所謂マイノリティに属する候補者もいる。
　その壁を、話し合いで超えるべき……蓮はそういっているのだ。

　民主主義は、時に失望を巻き起こす。
　衆愚制、強権の台頭を許すこともある。
　だが、民主主義をして『堯瞬の世』と評した思想家もいるように、その可能性にかけようとする者は少なくない。
　蓮も、それに連なろうとする一人だった。

「選挙も、政治においては一つの過程にすぎません。話し合いは常に必要でしょう」
　ゴールドは苦笑する。蓮の舌鋒は、ともすると選挙をショウアップしようとする彼への揶揄ともなる。
　むろん彼には、そんな意図はないだろうが。
「……具体的に名前を挙げるなら、演説では武道さん、一馬さんが、とくに生徒の意見に耳を傾けようとしているように感じました」

「それじゃ、蓮は」ゴールドが尋ねた。「彼らを応援するのかい？」
「候補者が公約を実現できるか、技能や実績を見極める必要があるでしょう」
　そうした意味では、望月や圭花の応援は価値のあるものであったといえる。
「選挙は単なる人気投票ではありません。より適切な候補者を選ぶことは、有権者の義務です」
「厳しいな、こりゃ……」ゴールドが苦笑する。
　己に厳しい蓮。政治においては、他にもそれを要求する。

　選挙について言うなら、と前置きする。「熟議の上で、公平に投票が行われたら、結果を受け入れる方が望ましでしょう。
　次に自分の支持者が当選したとき、他の方との協力がほしいですからね」
　
　熟議、熟慮に重きを置く蓮。それは、多様性や相違から生まれる力を信じているからだ。
　善意、信念を信じ、だから彼は熟議を要求する。
　彼の意見は、ある部分で真央の意見と親近することになった。
「よりよい生徒会の運営は、異なる意見を持つ方々との『信頼関係』で、成り立ってると思います」
　彼はそういって、発言を締めくくった。