TOP！～Men's Valentine's Day～｜リアクション

TOP！～Men's Valentine's Day～

　黒滝竜也と入れ違いで、酒浸朱蘭は別の下着を購入して、そして二人は帰路についた。
「荷物、持つよ」
「お、サンキュ」
　プレゼントされたものを、すぐに相手に返すのはなんだか奇妙な感じがしたが、朱蘭は竜也の言葉に甘えることにした。
　ついでに、プレゼントされたものとは別の、もう一つの下着も竜也は持ってくれようとする。
「ああ、それはいいよ」
「なんでだ？」
　朱蘭はにっこりと笑顔を作り、歩みを止めて竜也と向かい合う。
「竜也！」
「ああ」
「はい！　これあたしからのプレゼントだぜ！」
　そして、持ってもらうのではなく、下着をプレゼントした。
「俺に？」
「ああ！　中、見てみろよ」
　朱蘭に促されて、竜也は恐る恐る中身を確認する。
「……朱蘭」
「ん？」
「お前のセンスもナカナカだな」
　と、ひどく呆れた顔をして、言った。
「ドーイタシマシテ」
　贈ったのは股間の部分が天狗プリントのブリーフ。竜也がレジへ行っている間に、わざわざ別の店で購入してきたものだった。
（なかなかヨロコンデもらえたみたいだな！）
　予想通りの反応で、朱蘭は満足する。
　だがここからは予想が外れてしまった。
「じゃあ、改めて。これは俺から、だ」
　竜也は朱蘭をまっすぐに見つめ、プレゼントを握らせてくる。
　大きな、豆だらけの手の感触は、なんだか落ち着かない。
「お、おう、ありがとよ」
　朱蘭はろっこんの力で、酔っていた。
　でも、この動悸は酔いとは違う。
「知り合ってそんなに経ってないけどお互い仲良くなれたし、」
　その違和感を誤魔化そうと朱蘭は中身の無い言葉を重ねていくが。
「今後ともよろし――」
「……ハッキリ言うよ」
　竜也は、朱蘭の手を握ったまま、朱蘭の言葉を遮った。
　駄目、それ以上言わないで。耳元で理性が囁いている。
　ああそうだ、竜也を黙らせないと。本能が判断を下す。
「俺、朱蘭のことが好きだ」
　だが、竜也は言い切った。
「お前といると楽しいし、何かこう……」
　そして、好きの細かい部分を説明しようと、懸命に言葉を紡いでいく。
　その真面目な竜也に当てられて、
（あれ？　なにこの雰囲気……）
　朱蘭の酔いはすっかり醒めてしまう。
「何か、こう、胸が……」
「ご……ごめんなさい！」
　今度は朱蘭が竜也の言葉を遮った。
「急用思い出して、ま、またね！」
「って、おい！」
　竜也の困惑を置き去りにして、朱蘭はその場を後にした。
　風を切った耳は、痛いくらいに熱い。

「困らせちゃった、かな」
　一人残された竜也は、途方に暮れていた。
（でも、きっと）
　彼女のことだから、いつか、ちゃんと答えてくれる。
　そう信じて、竜也はゆっくりと朱蘭が走り去った道を辿り始めた。
（その時に『ＹＥＳ』って言ってもらえるように、俺も朱蘭と同じように夢を叶えないとな）
　大相撲力士を目指す道も、竜也は懸命に辿っていた。

（あたし馬鹿だ……）
　朱蘭は走り、走り、
（酔って、竜也の気持ちにも気づかないなんて）
　肺がねじ切れそうなほど走って、何かに躓いて転んでしまう。
「痛……」
　擦りむいた膝小僧が痛い。
　躓いたのは、紙袋だった。
「なんでこんなところに」
　躓いてしまったせいで破れた紙袋からは、チラシと……下着が覗いていた。
（これってもしかして……）
　メンズバレンタインデーの、下着。
　そうと気がついて浮かぶのは竜也の顔と、耳と、手だった。
「……竜也の事嫌いじゃないけど」
（まだ将来の夢に対して何もつかめてない時にそんな……）
　こんな中途半端な状態で、返事なんてできない。
（明日からどんな顔して会えばいいんだろう？）
　わからない、悲しい、恥ずかしい。
　色んな感情が渦巻くが――きっとまた酔いに逃げてしまうのだろう。
　朱蘭は自嘲し、力なく立ち上がる。