寝子電、ラッピングコンテスト！｜リアクション

寝子電、ラッピングコンテスト！

●青のアイデア

　ある雨の午后、星ヶ丘寮の自室で、上穗木千鶴は青について考えていた。
　日本画家の家で育ち、自身も日本画を嗜む千鶴は、さまざまな青を知っていた。
　孤高に佇む山の青。
　朝靄にけぶる森の青。
　月光に打たれる滝の青。
　川岸に一輪、凛と立つ花の青。
　どの青もすばらしく、それでいて、ここでは相応しくないようにも思う。
　千鶴が思ったのは寝子島の空、寝子島の海。
　澄んだ、明るい、ヴィヴィッドな青。
　電車のアウトラインが描かれた紙に、ただ一色、その青だけを塗りたくる。

「もちろん日本画が一番好きだよ。でも、こういうのもおもしろいかと思ってね」

　いい青が塗れたような気がする。出来栄えを確認しようとすこし持ち上げ翳してみる。
　いつしか雨は止んでいた。流れの早い雲の切れ間から、夕陽が矢のように射しこんでいる。
　金色の光は波となり、打ち寄せ、絡み合い、音もなく部屋を満たしていた。
「ああ」
　千鶴は青く塗った電車の上に落ちる光の波を見つめ、ふいにやわらかく嘆息した。
　閃きが訪れたのだ。
　千鶴はパソコンを起動した。閃きをかたちにするために。

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