サマー！部活動のお時間です！～文化部編～｜リアクション

サマー！部活動のお時間です！～文化部編～

○生物部合宿　

　生物部部員は電車とバスを乗り継いで、本州の太平洋に近い民宿旅館に合宿に来ていた。
「旅館の方のご好意で、格安で泊まれて部費からも補助が出るし。お風呂も温泉ですし、最高ですね！」
　部長の屋敷野梢は満足そうだ。
「そうね。２泊の合宿と聞いたときは予算が心配だったけど、良かったわ」
　会計の神野美野梨も頷く。
　かつては実家が裕福だった美野梨だが、今は猫鳴館住まい。いろいろと遣り繰りが必要だった。
　（来れて良かったわ。昔ならばお金の心配などする必要はなかったけれど……）
　と心の中でつぶやく。
「えっ格安なの？　僕テント持ってきたんだけど」　
　大荷物を背負っているのは合宿メンバーの中で唯一の男子、新井すばる。
　生物部は部員はそこそこいるのだが、合宿の参加者は残念ながらあまり多くなかった。
　すばるは合宿の企画に真っ先に飛びついたのだが、その時点では参加者は梢とすばるの二人きり。
「チクワ君（すばる）と二人になったら家族になんて説明したらいいんですか、助けてください」
「さー、みんな、アルナイル（梢）の大ピンチだよ〜」
　そんなことを言っていた梢とすばるに、参加を迷っていた美野梨は思ったものだ。
（ピンチなのはむしろ、夜手錠をかけられたり着ぐるみごと縛られそうな新井くんじゃないかしら……）
「使いたかったらテントに泊まって構いませんよー？」
　あえて冷たく言う梢である。
「ヴァン　ちくわ　テント　いいな　キャンプっぽい」
　元気なベトナム娘のシダ美穂戸も、大きなクーラーボックスを持参している。

　そして着いてみれば、宿の人が困っていた。
　宿泊客に急に一部屋増やしてほしいと言われ、上客なので無下に断れないらしい。
「それならこちらは一部屋空けますから大丈夫です。ね、チクワ君。どうせ寝る時だけですし」
　梢に言われ、すばるは嘆きつつ言う。
「えー？　やっぱりテント？　うん、そのつもりではいたけどね……」
「明日はまた部屋が空くそうよ。一晩だけ我慢してね」
　美野梨が慰める。

　
「ふー、雨じゃなくて良かったよ。夜は灯火採集をしない？」
　宿の敷地にテントを張り終えたすばるが提案する。
「トウカサイシュウって　なんだ　食べられるのか？」
　尋ねるのはシダ。
「灯火採集は光で虫などをあつめて捕らえる方法だよ。罠を仕掛けとくってこと」
　すばるが説明すると、
「思ったより山の近くだからけっこう寄ってくるかもしれないわね」
　美野梨も賛成し。
「二日目は海蛍採集と花火をしますから、昆虫採集するなら初日ですねー」
　梢が答えた。
「よし、海の生物の観察が終ったら仕掛けとくよー」

　旅館で海の幸に舌鼓を打って。
「そろそろ灯火採集の罠見にいってみようか？」
　すばると共に皆が向かう。　
　仕掛けた白いシートの上に虫がたくさん集まっていた。
「おー、けっこういろんな虫が来てる。カニまで来てるね。
　ハンディライト便利だよね。発電機だと重いしうるさいけど、これだと静かに手軽に虫が捕れるんだよ」
　すばるが虫を踏みそうになり、あわてて足を引っ込める。
「気をつけて、足元にもいるわ。中心から10ｍ位まで結構落ちてるのよ」
　美野梨が指摘する。
「光る罠　すごいな　虫　いっぱい　ちくわ　どれ　食べられる？」
　真顔で言うシダ。
「虫は食べちゃダメだよ……」
「カニは食べられないこともないですけど、小さいですし無理に食べることもないですよー」
　すばると梢が止める。
「食べちゃ　ダメか　わからんけど　わかった　がまんする　シダ」　
「今ご馳走食べたばかりでしょ……」
　レポートに載せるため写真を撮っている美野梨に、すばるは声をかける。
「ミヤマ、カブト、コクワ、アカアシ……えーと、神野さん、これなんだっけ学名？」
　緑色の綺麗な虫をすばるは指さす。
「カナブンね。Rhomborrhina japonicaだったかしら」
「そうそう面白い名前だったのは覚えてたんだけど、流石だね」

　