乙女のプロパガンダ｜リアクション

乙女のプロパガンダ

【刃を交わすだけが戦争ではないということ】

「へぇ、そんなことが。災難でしたね、先輩」
「私、もう心臓が止まるかと思ったわ。まさかうちの学校にあんな危ない人達がいるなんて……」

　それをお前が言うか！
　……なんてツッコミを信彦がするわけはない。
　笑顔のままゆっくりと相槌を打ちながら、紳士的に浮月の話に耳を傾けてした。
　信彦の目的は浮月の暴走を止める、ことではなく、美人な彼女とお近づきになってディナーに誘えたらいいなぁというものだ。
　
（腐敗と発酵は紙一重だっていうし、少々腐っていた方が、寧ろオイシイのかもしれないよね？）

　八十八旗信彦はどこまでも自分に正直で前向きな男だった。
　しかし、例え自分と異なる趣味、自分の理解が及ばない範疇の話題も笑って受け止められないと紳士ではないというその心意気は間違いなく男前である。
　失敗も多かれど、今まで幾度となくナンパを繰り返して来た信彦は女性の扱いに自信がある。故に話し相手に良くも悪くも安心感を抱かせやすい。
　今日に関して言えば、浮月は魔の大三角に襲われて傷心なわけで、信彦が与える安心感がプラスに働いた。
　とぼとぼと歩く浮月の姿を目ざとく見つけた信彦が声をかけた時、先ほどのこともあって浮月は警戒していた。信彦のことを無視してそのまま歩みを進める程度に。
　しかし信彦のトークが上手かった為、今こうして二人ベンチに腰かけて話が出来ている。
　
「ニャンダムのオマージュ？だったのかもしれないけど、斬新過ぎたわ……あれがテオル君とかクローム大佐のコスプレだったのなら良かったのだけれど」
「先輩……ああ、綾世ちゃんって呼んでも？」
「ええ、構わないわ。言葉も崩していいのよ？」
「ありがとう。それで綾世ちゃんはコスプレとか興味ある？俺、コスプレ部に所属してて……」
「コスプレ部！？うちの学校にそんな部活あったなんて知らなかったわ」

　コスプレ部は今年入学した1年生が中心になって設立された同好会だ。
　公認部ではないし、2年の浮月がその存在を知らないのも無理は無い。
　しかし浮月は強く興味を惹かれたようだった。

「良かったら綾世ちゃんも見学に来てみてよ。皆色んな衣装を着て楽しんでいるからね、君の好きなニャンダムのキャラクターのコスプレだってし放題さ！なんたってコスプレ部には可愛い子や俺みたいなイケメンが揃っているからね」

　やや冗談めかしてウインク一つ、信彦は軽快な語り口で浮月を自分のペースに乗せる。
　信彦の上手かった所は話題の切り替え方だった。
　無理に浮月の興味のない話題や今までの流れをすっ飛ばすような方法ではなく、あくまでも浮月の話や趣味を下敷きにした上で自分の話しやすい話題に繋げる。

「可愛い子やイケメンがニャンダムのコスプレ……」
「写真撮影もご自由に！だよ。あ、そうだ。これ俺の携帯の番号とメアドなんだけど、もし見学とか遊びにきたいときは連絡くれると嬉しいな」

　満更でもなさそうな浮月の様子に、好機とばかりに信彦はスマホを取り出して互いの連絡先を交換する流れに持ち込んだ。
　これでいつでも浮月をディナーに誘えるという魂胆だ。
　警戒心も解け、コスプレ部への興味もあってか信彦に気を許していた浮月も快くそれに応じる。

　
　八十八旗信彦、ミッションコンプリート！