春休ワンデイズ｜リアクション

春休ワンデイズ

■八神修の一段上の春休み
　春休みという言葉にかける想いは人によって違う。
　出会い。
　別れ。
　うららかな日差し。
　桜の花。
　花粉症なんて人もいるだろう。
　だがそんななかで燦然と輝き、誰もをつかんでやまないあるイメージがある。
　それが。
「受験日は間近です！」
　ホールに集められた学生たちは、血気盛んなウォーリアーみたいな講師にあてられるようにしてそれぞれに熱意を高めていた。
　大学受験。
　それは十代という若さにして最大の社会的イベントである。
　そりゃあ受験勉強より大事なことは（個人差はあれど）沢山あるだろうが。
　そりゃあ大学に行く行かないで人生が左右されないという考えもあるだろうけれども。
「望んだ大学に挑み！　そして限られた門を潜り合格するということは！　この先の長い人生において常にふりかかる困難をどう乗り切るかに直結すると言っていいでしょう！　皆さんは戦士です！　人生で最も大事な――少なくとも大事だと思ったことに全力で取り組み、突破する力をつけるのです！　この合宿は、そんな皆さんの同志が集った場所だと思ってください！」
　圧の強い人だ……と、聞いていた修は思った。
　修はいま、塾の強化合宿としてとあるホテルにきていた。
　集められた生徒はあまり多くはないが、対応する講師は雇うのに相当なコストのかかる高ランクな講師たちで、生徒もまたその授業料に見合うだけの学力と家柄をもつ者たちだった。
　ある意味、この段階から社会における戦場が決まったようなものだ。

「……君、Ｎｅｉｎだろう？」
　休憩時間。考え事をしていたら急に声をかけられた。修が顔を上げると、身なりのいい少年が握手を求めて手を出してきた。
「模試やネットテストの常連だ。解き方を見たが、そうじゃないかと思ってね」
「そういう君はＷＡＮＣＯだな。歴史系の問題に対して考察が深い。段違いだ」
　達人は達人を知る。
　修たちのような『テストで点をとるのは当たり前』というレベルで生きている者たちは、その先を見据えて勉強をしている。
　たとえば高校受験をひかえた中学生が既に高校課程の勉強を終えているようなものだ。
　寝子島もなかなか優れた人々が集まっているが、やはり来るべき所にくると違うらしい。
　修は旧知の友に出会ったような気持ちで握手に応えた。
「僕は新宿から来たんだが、君はどこの区からだい？」
「都内じゃないよ、寝子島だ。空気がいいよ。ネコも可愛い」
　笑ってみせる修に、相手もまた笑った。
「君とは楽しく話せそうだ。歴史書に興味は？」
「そちらほどじゃあないよ。けど、勉強は好きかな」
　修は、いつもと違う春休みが遅れそうだと、人知れず胸を高鳴らせた。

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