【バレンタイン】学生達のValentine's Day!｜リアクション

【バレンタイン】学生達のValentine's Day!

●チョコでござる！

「ご～ざる、ござ～るよ、チョコでご～ざる～♪」
　謎の歌を陽気に歌いながら（聞く人が聞けば、白馬に乗ったちょんまげの王子様が海辺を走っていく姿が浮かんだだろうが）、日々野結衣香はたくさんの包みを紙袋に入れて、授業の合間や昼休みとのんびり廊下を旅していた。
　旅の目的はチョコの配布。一週間ほど練習をして作った、結衣香お手製の手裏剣形のチョコ。頑張ったおかげでやっと食べられる味になったので、たくさん作ってお世話になった人達にチョコを渡そうと、本日持って来たのであった。

　廊下では自習で一緒になった桜庭円に出会い、チョコを渡した。
「へぇ、手裏剣チョコなんて結衣香ちゃんらしいね。ありがとう」
　円は笑顔で結衣香からチョコを受け取る。
　教室では新聞部でも一緒な八神修に。
「有難うな。感謝して頂きます」
　ちょっとおどけて両手で印を結びながら、修はペコリとチョコを受け取った。

　昼休みにはクラスメイトの野々ののこにも。
「ののこさん、どうぞ」
　結衣香は教室でののこに手作りチョコを差し出した。中が手裏剣形のチョコだと聞き、ののこの目がキラキラと輝く。
「手裏剣？　忍者？　結衣香ちゃんすっごーい！　これ、投げたら刺さる？」
「多分刺さらないで壊れちゃいます……出来れば食べて欲しいです」
　ののこの言動に結衣香は噴いてしまう。「うわー、食べるの楽しみ！」とののこは高々と結衣香のチョコを掲げ、あ、そうだとおもむろに自分のカバンを漁った。
「私もね－、チョコ作ったんだよ……ハイ、結衣香ちゃん！」
　ずいっとののこが結衣香にチョコを差し出した。それは透明な可愛らしい袋にラッピングされたもので、中のチョコはお世辞にも綺麗な形とは言えなかったが、ののこの一生懸命な気持ちはとても伝わってくる。
（ののこさんも、頑張ったんだろうな……）
　自分も手作りしたからこそ、その大変さはよく分かる。奮闘しているののこの姿を思うと結衣香の胸はほんわりと温かくなった。

「ありがとうございます。頂きます」
　ペコリと礼儀正しくお辞儀をし、結衣香はありがたくののこからチョコを受け取った。

　放課後は新聞部と文芸部の人達にもチョコを渡そうと、結衣香は部室棟に向かっていた。
　手には手裏剣チョコの入った紙袋。朝と少し違うのは、重さはそれほど変わらないのに、その中身が自分の作った物だけでなく、様々な包装の物も加わっている事だ。
　それは結衣香が貰ったチョコ。その１つ１つに大事な人達の顔が浮かび、結衣香は何だか嬉しくなってくる。そして思わず朝に歌った時代劇の主題歌を口笛で吹き始めた。
　途端に結衣香のろっこん＜武士召喚＞が発動し、戦国時代の名もなき武士―――結衣香は”ござる”さんと呼んでいるが―――が現れた。
「何か用でござるか？」
　きょろりと辺りを見回し、”ござる”さんが言った。結衣香は持っていた紙袋から包みを取りだすと、笑顔で”ござる”さんに差し出した。
「いつもありがとうございます。これをどうぞ」
　”ござる”さんは手裏剣形のチョコを取り出し、目をぱちくり。恐る恐る手裏剣の端っこを囓ると、目をこぼれんばかりに見開いた。
「この手裏剣、甘いでござるな！」
　ガツガツとチョコを食べる”ござる”さんを見ながら、結衣香は幸せそうに微笑んだ。

　頑張ってチョコを作って良かった。大事な人達の笑顔をたくさん見る事が出来て、本当に良かった。
　それだけでこんなに優しい、満ち足りた気持ちになるのだから。
　―――例えチョコ作りでちょっぴり体重が増えたとしても！