冬の日。新たな始まり｜リアクション

冬の日。新たな始まり

【夜・社会人】

　人間は夜行性ではない。夜に寝て、朝に起きるのが生物学的に１番リズムが取れる生き方だ。
　けれども夜行性に進化（？）した人間達がいるのもまた事実。
　そんな人間達が、今日も木天蓼市内の水着ガールズバー『ジュエル』に集う―――。

　真境名アリサは今日が仕事始めだった。『ジュエル』に響く音楽に少し頭を揺らしながら、客の求めに応じてカウンターでカクテルを作る。
　外では雪がちらついているのに、今彼女が着ているのは、トロピカルな柄のトライアングルビキニ。そう、彼女は『ジュエル』のキャストなのだ。
　
　アリサは正月は故郷の沖縄に２年ぶりに戻り、楽しい時を過ごした。
　親や友達に仕事の事を訊かれたが、『接客業』とだけしか答えなかった。
　嘘は言っていないとアリサは思う。勤め先が水着ガールズバーである事を言ってないだけだ。
　……尤も、店のサイトに載せてあるアリサのプロフィール欄には、際どい水着のセクシー写真が使われているので、もしかしたらバレているかもしれないが。

　今夜も店は、たくさんのお客で大賑わいだ。「ハッピ～ニュ～イヤ～！！」なんて、いつの話だよとツッコみたくなるバカ陽気な声が聞こえてくる。……まあ、真冬に水着を着る方が季節感ゼロだが。
　基本的にガールズバーはカウンターの中で仕事をするので、席について接客することはできない。そこがキャバクラとは違うところだ。
　そしたら水着が見えないじゃないか！　確かに胸もいいけれど、女の子の綺麗な足も人類の宝だ！　と思ったあなた、ご安心あれ。
　『ジュエル』のフロア中央にはポールダンスができるスペースがある。客のリクエストでキャストがダンスを披露することもできるのだ。

　そして、早速アリサにダンスのリクエストが入った。客の歓声に促され、アリサはフロアの中央に立つ。
　ユーロビートの激しいリズムに乗って、アリサのダンスが始まった。美しい肢体を惜しげもなく見せつけ、晒し、挑発し、その妖艶な仕草で観客の視線を釘付けにしていく。
　胸を反らし、脚を開く。その凄艶な肢体は汗でしっとりと濡れ、スポットライトはアリサの体を妖しく照らす。
　ダンスの演者と観客の壮絶な戦い。今日も軍配はアリサに上がったようだ。観客は度肝を抜かれ、ひたすらアリサのダンスに心を奪われていく。

　『ジュエル』の夜が更けていく。
　アリサは分かっていた。いつまでもやっていられる仕事ではないことを。
　けれども今アリサは踊っている。観客に求められて踊っている。
　それでいいではないか。今はそれで、いいではないか。
　刹那の感情に身を焦がしながら、アリサは挑戦的に踊り続けるのだった。

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