かりかり。かりかり。
静まり返った夜の監獄。とっくに就寝の時間を迎えたはずの監房で、囚人は、かりかり。ちっぽけな曲がったスプーンの先端で、一心に壁を引っかいています。
毎夜、気の遠くなるようなその作業を続けた後に、見事穴を掘り抜いたなら。彼に待っているご褒美は、そう。
自由です。
ひどく暗く、狭苦しい部屋。威圧的なコンクリートの壁に囲まれた、そこは監視室。
壁一面に埋め込まれた、無数の小さなモニタ。画面の中には、ボーダー柄の簡素な服を着せられた、幾人もの囚人たち。
ぱちり、暗がりに明滅するモニタの一つ、切り替わったチャンネルの中で。番組は唐突に、始まりを告げるのです。
『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』
歪んだ古いレコードが奏でる、調子っぱずれのジャズミュージック。意味も無い不毛な労働を強いられる、囚人たちのモノクロ映像。暗闇に浮かび上がるネオンサインのような、極彩色のタイトルバック。
後ろ暗い影を背負った人々が、押し潰されそうな後悔に泣き咽びながら眠る夜に見る、甘く儚い夢のように。番組は、幕を開けるのです。
「…………んふふっ」
くるり。回転椅子が回ると、鷹揚に腰掛けているのは、一人の少女。モニタたちが照らす光を背に浴びて、暗く影の落ちた顔は良く見えないながら、きらりと光る瞳だけが、やけに眩しく見えました。
高校生くらいの年頃に見える女の子は、黒い皮手袋をはめた手で、かぶったいかめしい看守帽を脱ぎ去り、それをぽいと放り投げ。目を細めてにんまり、笑みを浮かべると、にちゃりと粘着質な音と共に口を開き、語り始めます。
「こんばんは。窓の向こう、しとしとと降りしきる夜の雨。その陰鬱なリズムに苛立つあなたをそっと癒したい、お節介焼きな番組。『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』へようこそ。わたくし、これより皆様を不可思議な世界へとご案内させていただく、ストーリーテラーの
胡乱路 秘子です。今宵もどうぞ、よろしくお付き合いのほどを……んふふ!」
秘子は、よいしょ、と小さく呟きながら、きいっと椅子を軋ませて勢い良く飛び降りると。壁一面に埋め込まれた無数の小さなモニタたち、その中の一つへ、ぐいと身を乗り出して顔を近づけ、舐めるようにそれを見つめます。
画面の中には、ごつん、ごつんと独房の壁へ額を打ちつけ続ける、虚ろな瞳の囚人の姿。
「さて。
皆さんは、罪を犯したことがありますか? 罪悪感という楔の疼きに心を苛まれることが唯一の罰であるような、軽い罪。法に触れ法を犯し、時に他者の人生を根こそぎ奪い取ってしまうような、重い罪。人は生きていく上で、否応無く、大小様々な罪を犯してしまうものです」
モニタへ鼻先を近づけながら、ちらり。秘子はこちらへ視線を寄越します。
ごつん。ごつん。ごつん。額が真っ赤に膨れ上がろうと、囚人はその行為を止めようとはしません。
「どんなに生真面目、聖人君子のような人がいたとしても、心の中では、秘めた罪の意識が渦巻いているのかもしれません。例えばそれは、友人に借りた本を返さないまま、いつしか疎遠になってしまったこととか。小さい頃、好きな子に思わずしてしまった、子供じみてつまらない悪戯とか。信号無視、スピード違反で切符を切られた経験とか。あるいは……んふふ。ちょっとした諍いの末に、死なせてしまった誰かの死体を、今でもどこかに隠していることとか。人は見かけによりませんから、案外、そんなこと。あるかも知れませんよ?」
ごつん。ごつん。ごつん。ごつん。ごつん。
ごづんっ。
「今宵、塀の中へと囚われてしまった人々。彼らが一体、過去にどんな罪を犯したか。何の罪で囚われてしまったのか。答えがあるとするならば……それはきっと、彼らの心の中だけです」
んふふっ! くるりと軽快に振り返り、微笑む秘子の後ろ。モニタの中で、額から赤い花を咲かせた囚人が、仰向けに横たわっています。
「あなたは、罪を犯したことがありますか? その罪はどれほどの重さとなって、あなたを苛んでいますか?」
真夜中の暗い監房に染み込む、しんと冷たい空気。
味気ない壁をささやかに彩る、他愛の無いグラビアポスターの向こうに覗く、穴。
「何、この方法じゃ、脱獄までに600年はかかるって?
あっしにかかれば、19日で開通さぁ!」
その先へ続いているのは、希望? それとも……?
墨谷幽です、よろしくお願いいたします!
今回は、骨削 瓢さんにガイドへご登場いただきました。ありがとうございました!
さてさて、寝子島を彩る都市伝説の一つとして、少しは浸透してきたかな……? MFS! の第四夜をお送りいたします~。
今回は若干毛色を変えまして、ちょっとした攻略要素のようなものを設定しておりますので、マスターコメント、サンプルアクションなども一通りご覧になった上で、ご参加をいただけますと幸いです。
『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』とは?
深夜、テレビ局の放送が終わった後に始まる、謎の番組。不可思議で不条理な出来事と、それに関わった人々の行動や、その顛末などが紹介されます。
いつも決まった時間に始まるわけではなく、また誰でも見られるわけでもなく、たまたま波長の合った人にだけ見ることができるようです。
※このシナリオ内で描写された出来事は、現実に起こったことかも知れませんし、あくまで番組内でのことであり、現実には起きなかったことかも知れません。
プレイヤーさんは、ご自身のPCが体験した出来事について、実際に起きたこととして設定に組み込んでいただいても構いませんし、番組上の架空の出来事だったとしても構いません。
今回のシナリオの概要
ある朝あなたが目覚めると、監獄の中。
暗く冷たい監房。横暴で理不尽、物言わぬ不気味な看守たち。過酷で無益な労働に、鼻が曲がりそうなほど臭いメシ。
ここは悪名高い、『ニャルカトラズ監獄』!
何の罪を犯したか、その説明も無いままに囚われてしまったあなたは、この監獄で、否応無く囚人としての生活を送るハメになります。
胸に秘めた、あなただけが知る、あなたの罪。これはその罰なのだと自分に思い聞かせながら、粛々と日々を過ごすも良し。
絶対の反骨心をもって、看守たちや定められたルールに反抗し、時に痛い目を見ながら、密かに脱獄の手はずを整えるも良し。
今回は架空の監獄を舞台に、PCさんに囚人生活を送らせて、過去の罪を懺悔したり理不尽なメに会ったりしてもらおう! または、そこから華麗に脱獄する様を描こう! といったシナリオになります。
状況が状況だけに、場合によっては、PCさんにとってかなり物理的、精神的に痛い思い、不快な思いをしてしまうという可能性もありますので、あらかじめご承知おきいただければと思います。
監獄について
今回の舞台となる監獄と、囚人生活に関する基本情報です。
情報量が多いですので、必要に応じて参照してください。
【構造】
10メートル程の塀に囲まれた敷地内に、幾つかの建造物、刑務作業場。
要所に監視カメラあり。囚人が自由に敷地内を移動することは禁じられている。
なお、塀の外の状況は不明。
○監房棟
長い廊下を挟み、幾つもの監房が並ぶ。
各監房の定員は4名。広さは数メートル四方。
壁、天井、床は全てコンクリート。前面には堅牢な鉄格子。
簡素な二段ベッドと机がある他は、備品などの類は無し。
棟内には独房もあり、特に手のかかる囚人が収監される。
○食堂棟
トレイを持って並び、カウンターで受け取る形式。席は自由。
厨房は立ち入り禁止。
○看守棟
監視室のモニタには、敷地内の監視カメラからの映像が集約されており、必ず数人の看守がチェックを行っている。
仮眠室や娯楽室などがあり、そこそこの頻度で利用されている模様。
○作業場
囚人たちが刑務作業を行うための屋外作業場。
○倉庫
刑務作業に使用する器具、その他の備品等が保管されている。
作業時を除き立ち入り禁止。
【生活スケジュール】
囚人たちは以下のタイムスケジュールに沿って生活している。
時間厳守。遅れは懲罰の対象となる。
起床・点呼 6:30
朝食 7:00~7:30
刑務作業開始 7:40
昼食 12:00~12:30
余暇 13:00~13:30
刑務作業開始 13:40
夕食 18:30~19:00
余暇 19:00~20:30
還房・点呼 20:45
消灯・就寝 21:00
【刑務作業】
囚人たちは例外なく、以下の刑務作業に従事することが義務付けられる。
これらは罰であり、作業の内容に意味は無い。
○穴掘り
深い穴を掘り、出た土を再び埋め戻す作業を繰り返す。
スコップ、ツルハシの使用が許可されるが、これらは凶器ともなり得るため、少しでも怪しい動きを見せれば懲罰の対象となる。
○ドラム缶押し
砂の詰まったドラム缶を押し、再び元の位置に戻す作業を繰り返す。
ドラム缶を倒したり、傾けて転がしたりする行為は懲罰の対象となる。
○レンガ積み
レンガを積み上げ、ある程度の高さになるとそれを看守が崩し、再び積み上げる作業を繰り返す。
看守が崩す前にレンガが崩れると、懲罰の対象となる。
【食事】
以下のメニューのローテーション。どれも各々の好みや嗜好などを通り越して非常に不味く、栄養価もいまひとつ。
なお、少しでも残すと懲罰の対象となる。
○監獄カレー
固くて臭みのある肉が入ったカレー。何の肉かは不明。
○監獄そば
何のダシか分からない臭いつゆのそば。ぼそぼそとしたかきあげは、何を揚げたものか不明。
○監獄定食
水っぽい麦飯。謎の魚のフライ。べたついた煮物。ほとんど味の無い汁。
【看守たち】
威圧的な制服を着込み、囚人の管理、敷地内の巡回、刑務作業の指揮などの業務に従事している。
目深にかぶった帽子の下に落ちる影で、顔は良く見えない。また、囚人に対して言葉を発することも無い。
何らかの手段でコミュニケーションを取ることは可能な模様。
ワンサイズ大きな帽子をかぶった看守長が、監獄内を統括している。
警棒、手錠、ワイヤーを射出するスタンガンなどを所持。
彼らは屈強かつ数が多く、生半可な抵抗を試みたところで、即座に鎮圧されてしまうだろう。
アクションに書いていただきたいこと
今回のシナリオは主に、二つの要素によって成り立ちます。
アクションには、以下の二つを同時に書いていただいても構いませんし、どちらか一つに絞っていただいても構いません。
【1】囚人生活パート
囚人となったPCさんたちは、それぞれ監房へと収監されていますが、この際、
・GA(グループアクション)を組んだメンバー同士は、同房として割り振られます。(最大4名まで)
・お一人で参加された場合は、3~4人程度で、ランダムに割り振られて収監されます。
アクションには、
・GAを組む場合、【GA名】の記述。
・タイムスケジュールの中から、リアクションで描写してほしいシーンを1~2つ選ぶ。
(刑務作業を強いられている、不味い食事に閉口している、など。選択したシーンが全て描写されるとは限りませんので、あらかじめご了承くださいませ)
・過酷な囚人生活を送るに当たっての心構え。
(秘めた罪の意識に苛まれながら、反抗心を剥き出しに、貴重な体験と開き直って楽しむ、など)
等をお書きいただくと良いと思います。
その他、何か思いつかれた行動などありましたら、ご自由にお書きください。
【2】脱獄パート
個性溢れる寝子島住人の皆様のこと、恐らく、看守たちの横暴に黙って耐えるままでは無いでしょう。
そう。監獄といえば、脱獄です!
<ロール(役割分担)について>
単独での脱獄を試みるのはもちろん、各人が様々なロール、つまり得意分野における役割を分担して行うことで、一人では難しいような大規模な手段を講じることもできます。
ロールは自由に名乗って構いませんが、以下にいくつかの例を挙げておきますので、参考にしてみてください。
○情報屋
監獄内のあらゆる情報を収集し、仲間へと伝えます。
情報は貴重かつ重要であり、あらゆる行動の基盤ともなり、その成功率をも左右するでしょう。
○調達屋
脱獄のために必要な道具、器具などの類を調達してくる役です。
どこへ行けば何が手に入るのか、実際にどのような手段で手に入れるのか、などの推理や思考が必要でしょう。
○警備屋
仲間たちが作業を行う間、看守たちの動向を監視し、危険を感知すれば即座にその伝達を行う役です。
注意力や鋭敏な感覚、ハプニングに直面した際にはアドリブ力なども必要でしょう。
その他にも、変装が必要なら仕立屋、看守たちの気を引き時間を稼ぐなら陽動屋、何らかの書類が必要なら偽造屋、トンネルを掘るなら掻き出した土を処分する土処理屋、などなど……ご自分に合ったロールを考えてみてください。
アクションには、
・一人で脱獄に挑戦する、または参加者同士で役割分担する?
・担当する【ロール名】
・どのような手段を用いるか、その具体的な手順は?
などをお書きいただけましたら。
※ただし!
今回のシナリオ、ことに脱獄パートにおけるアクションは、必ず成功するとは限りません。
方法や状況などに照らし合わせた判定によっては、失敗し、懲罰の憂き目に会ってしまう可能性もあります。
誰が見ても簡単だと思えるような行動なら、特別な手順を踏まなくとも失敗する確率は低いでしょう。
逆に、困難に思える行動であっても、これなら必ず成功する! と思わせるだけの説得力がアクション(+ろっこんを使用するならそのパラメータ)にあれば、その行動は成功するでしょう。
その他
●参加条件
特にありません。寝子高生の方でも社会人の方でも、小中学生の方でもOKです!
●舞台
上記の監獄内が舞台となります。
●NPC
○胡乱路 秘子(うろんじ ひめこ)
謎のテレビ番組『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』のストーリーテラー役を自称する少女。
んふふっと怪しく笑います。
●備考や注意点など
※胡乱路 秘子を含むNPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用できかねますので、申し訳ありませんが、あらかじめご了承くださいませ。
※過去の罪はどんなものでも構いませんが、あくまでもMFS内の設定として扱われます。また内容によっては描写できないこともありますので、ご了承くださいませ。
以上になります。
今回は、少々ガイドが複雑になってしまいましたが……皆さんには、MFS! ならではの変わったシチュエーションを楽しんでいただければと思います。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております~。