にこにこ、にっこり。
海原 茂は、いつになくご機嫌な様子で、夜の街を歩いています。
両腕でしっかりと胸に抱きかかえているのは、緑色の、何やらもこもこふさふさとしたぬいぐるみ……かと思えば、時折手足がぴょこんと動くのを見れば、それは生き物のようにも見えました。
茂は満面の笑顔を浮かべたまま、今にも踊り出しそうな軽い足取りで、街中を通り過ぎていきました。
そんな様子を、怪訝そうな顔で眺めていた通行人たち。彼らが一様に手に持っているのは、携帯電話にスマートフォンに。
液晶へ映し出された、幾つものテレビ画面の中で。番組は、唐突に、始まりを告げるのです。
『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』
無数のスピーカーから流れ出す、落ち着かない不規則な曲調。浮かび上がっては滲むように消えていく、誰とも分からない、モノクロの顔写真たち。暗闇に浮かび上がるネオンサインのような、極彩色のタイトルバック。
人々の心に開いた隙間あらば、潜り込まずにはいられないとでも言うかのように。暗闇に怪しくきらめく誘蛾灯のごとく、番組は、幕を開けるのです。
「…………んふふっ」
ぬるり、と。暗がりから染み出すように現れた、一人の少女。
高校生らしき制服を着た女の子は、黒い皮手袋をはめた手で、つい、とスカートの裾を持ち上げ、芝居がかった仕草でふかぶかと一礼すると、目を細めて、にんまりと微笑み。口を開く粘着質な音と共に、語り始めます。
「こんばんは。寝苦しい夏の夜、悪夢にうなされ飛び起きたあなたを、そっと優しく包み込む番組、『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』へようこそ。わたくし、これより皆様を不可思議な世界へとご案内させていただく、ストーリーテラーの
胡乱路 秘子(うろんじ ひめこ)です。今夜もどうぞ、よろしくお付き合いのほどを……んふふ!」
今宵もまた、秘子は怪しい笑顔を浮かべつつ。どこからともなく取り出し、ぱらりとめくってみせるのは、古い、古い、色褪せてぼろぼろの冊子。表紙を見るに、小学生向けの絵本雑誌のようです。
「さて。人類の輝かしい未来。ロボットと暮らす生活。街には、雲をも突き抜ける超高層ビルが建ち並び、その合間を縫うように、空飛ぶ車がびゅんびゅんと行き交う……子供の頃、そんな明るい未来を想像したことのある方も、きっと少なくないのではないでしょうか」
かたかた、かたん。ブリキのおもちゃのロボットが、きらびやかなメッキのボディを揺らしながら、かたかたと通り過ぎていきます。
秘子は、しばしそれを目で追ってから、
「科学や技術は、まさに日進月歩。けれど、激しい企業間競争によって開発、発売されていく新商品を、近頃の人々は次々に買い替え、使い捨てていくのです。今や、技術とは有難がるものではなく、それを消費する時代へと移り変わったようです」
ぽいっ。秘子は雑誌を肩越しに後ろへ放り投げると、代わりに足元へ転がる、もこもこふさふさとしたぬいぐるみを持ち上げます。
いいえ。時折、手足がぴょこんと動くのを見れば、それはどうやら、生き物のようにも見えました。
「ここに、とある企業が開発した新商品があります。そして、あなたは幸運なことに、この商品の試供品モニターに選ばれたのです。おめでとうございます! これは画期的な商品で、きっとあなたの生活に、ささやかな幸福を与えてくれることでしょう」
……ただし。そう言い置いてから、秘子はきゅっと新商品を胸に抱きしめ、んふふっ! と笑いました。
「いくら便利な品物であっても、それはただ、持っている機能を提供してくれるだけに過ぎません。どう使うか、どう活かすかは、使う人次第……使い方を誤れば、思わぬ苦い経験をしてしまうことになるかも知れませんよ?」
「…………欝だ…………」
猫鳴館の自室で、
海原 茂はぐったりとして、机にうつ伏せています。
今日一日、彼を包み込んでいた幸福な気持ちは、今はどこへやら。一転して、彼は不幸のどん底へと落ち、誰とも無くぶつくさと愚痴を漏らすのみです。
大好きな『おちこぼれ姫シリーズ』も、今の彼にとっては、単なる詰まらない本に過ぎません。
机の脇、彼の足元には、色褪せてかさかさに萎み、ぴくりとも動かなくなった、緑色のぬいぐるみのような何かが転がっていました。
墨谷幽です、よろしくお願いいたします!
アヤシイ深夜番組、MFS! の第三夜をお送りいたします~。
●『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』とは
深夜、テレビ局の放送が終わった後に始まる、謎の番組。不可思議で不条理な出来事と、それに関わった人々の行動や、その顛末などが紹介されます。
いつも決まった時間に始まるわけではなく、また誰でも見られるわけでもなく、たまたま波長が合った人にだけ見ることができるようです。
●今回のシナリオの概要
あなたの元に、突然とある企業から、商品のモニター依頼が届きます。
商品名は、『MOCONU(モコヌ)』。
MOCONUはサッカーボールくらいの大きさで、全体をもこもこふさふさとした毛に覆われており、撫でればとても滑らかで心地よい手触りの、ぬいぐるみのようにも見える商品です。目や鼻、口などはふさふさの毛に隠れていて、あるのか無いのかも分かりませんが、4本の短い足が生えていて、犬のように走り回ったり、あなたについて来たりします。
可愛がってやれば懐いたりもするようです。
同梱の説明書を見ると、『MOCONU』の主な機能や特徴は、以下の通りです。
①MOCONUを抱き、優しく撫でながら、あなた自身の辛い過去や不幸な記憶を語ると、MOCONUがその記憶を改竄し、幸福な記憶として書き換えてくれます。
あなたは、幸せな気分に包まれることでしょう。
②特に書き換えるべき不幸な記憶が無い場合は、使用者の望んだ通りの、幸福な体験をしたという記憶を受け取ることもできます。
ただしその場合、同程度の不幸な記憶を後で植えつけられてしまったり、忘れていた辛い過去の記憶を掘り起こされてしまったりします。こちらの機能をご利用の際は、充分にご注意ください。
③MOCONUの使用期限は、一週間ほどです。期限を過ぎると全ての機能が停止し、使用できなくなります。
使用期限を過ぎたMOCONUは企業へ引き渡すか、ご自分で廃棄していただいても構いません。MOCONUは環境に優しい素材でできていますので、燃やせるゴミに出すことが出来ます。
④なお、MOCONUのカラー(毛色)は、ご自由にお選びいただけます。
アクションには、
・『MOCONUに書き換えて欲しい過去の不幸な記憶と、それをどのような幸福へ書き換えるか』
・『MOCONUから受け取りたい幸福な体験の記憶と、それに伴って後に受け取る不幸な記憶、または忘れていた辛い過去』
・『あなたのMOCONUのカラー』
などをお書きください。
※なお、このシナリオにおいて描写されるのはあくまで『番組の放送』であり、必ずしも事実として確定するものではありません。
(PLは、今回のシナリオで受け取った記憶、起こった出来事などを、事実として設定に組み込むこともできますし、あくまで番組内での出来事として、事実ではないとすることもできます)
●参加条件
特にありません。寝子高生の方でも、社会人の方でもOKです。
●舞台
記憶の中の舞台については、特に制限はありません。お好きな場所、シーンをご指定してくださって構いません。
現実のシーンについては、寝子島の中に限り、ご自由にご指定ください。
●NPC
○『胡乱路 秘子(うろんじ ひめこ)』
謎のテレビ番組『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』のストーリーテラー役を自称する、16~7歳くらいの女の子。
んふふっと怪しく笑います。
●その他、備考や注意点など
※海原 茂、胡乱路 秘子を含むNPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用されませんので、あらかじめご了承くださいませ。
以上になります~。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております!