怖かった。
伝えるのも、伝わるのも、触れるのも。失くすのも。
たくさんの、百万の言葉で、百万回。誤魔化そうとして。
そうすれば、ひとことぐらい本当が紛れ込んだってばれないって。そう思った。
でも、届いてた。ちゃんと、聞いてくれてた。
考えてみれば当たり前の話でさ。
あるひとことを隠すために浴びせた、九十九万の、反対の言葉。
それって、つまり、九十九万回。ひたすらそのひとことを繰り返すのと同じだ。
要するに、あたしは都合百万回、好きって言い続けてきたわけで。
やっと気がついたとき、目の前には…――
月がさ。泣けるぐらい綺麗で。
多分、いや絶対。世の中には、もっと上手なやり方があって。
どちらかと言えばこれは、出来が悪い方の結末なのかも知れない…けど。
あの満月の夜は本当。
変わらないし、失くならない。
終わっても、離れても。いつまでも、何度でも。好き。この熱が冷めることはない。
だから、もう怖くない。
あの夜のことを、今もよく考える。
手をつないで、抱きしめて、キスして……あの人の手を離した。
もしも。
もしも違った場所で出会っていたら、
もっと違った時に出会っていたら、
どうだったかって考える。
百万の違った夜、百万の違った月の下で、百万回のキス。
意気地なしの私はきっと、たくさんのチャンスを無駄にするはずだから……壊れたハートが数十万。
でもいくつかは、もっと優しい終わり方かもしれない。
もしかしたら、ひょっとすると、例えばだけど……
……百万の違った月夜があっても、確かなことがひとつある。
きっと私は百万回、あの人のことを好きになる。
(PL:シナリオ『満月の夜に』 http://rakkami.com/scenario/reaction/731?p=31 より。
ただひたすら綺麗で、繊細で、哀しく、幸せで。
語る言葉を持ち合わせず……未織様、今回は本当にありがとうございました。
また、握君よりSSを頂いちゃいました……!こちらも感謝)
プロレスを馬鹿にしたら、現役プロレスラーに指関節技かけられて、痛くて号泣する一般人の図です?(マテ
…… if ……
街の灯りが雲を照らす。
薄暗い廃墟で少女が二人、言い合っている。
いや、正確には三つ編みの少女が一方的に責め、茶髪の少女がそれを黙って受け止める。
「ガサツに人の心に踏み入って、弄んで、荒らして、何様のつもり?」
言い放ち、去ろうとする少女の手が引かれる。
刹那、雲間から覗いた満月が、三つ編み少女の涙を照らした。
「In other words?」
茶髪の少女の一言が、最後の抵抗を断つ。
震える唇は、何度か躊躇い、開きかけて、塞がれ……。
『カツン』と、控えめで乾いた音が、二人の距離を開ける。
頬を染め、動きを止めた茶髪の少女の顔に白い指が添えられ、ズレた眼鏡を優しく外す。
「ったく、詰めが甘いんだよ」
三つ編みの少女は、鼻を啜りながら強がってみせる。
「悪かったわね……」
少し膨れながら、細長い指が涙に濡れた眼鏡を外す。
「つ……、月がっ、綺麗、だよな」
三つ編み少女の不器用な答えに、顔を寄せながら応じる。
「バカ、眼鏡を取ったら、良く見えないじゃないの」
二人を阻む物は、もう、無かった。