中学までのそれは何であっただろう
何も起こさず何もやり遂げず渇くことも満たされる事も無く
父は社畜とも呼ばれる中小企業のサラリーマン、母は特別美人と言うわけでもない主婦、
時々喧嘩もし、裕福でなくとも不自由の無い家庭
平均的な地位、一般的な生活、高くも低くも無い学力、
普通に好き嫌いがあり、普通に人と付き合い、普通に趣味を持ち、異なるのは比較的小柄なだけ
反発するわけでも何かを主張しようともしないそれの存在の理由、意義、そして示す必要性もなかった。ただなんとなく在るだけ
強いて言えば笑う事が好きだった。
笑えば幸せになれるから。一応生きてる以上楽しむ事に何も不思議は無いだろう。
テレビのバラエティを見て曲芸に見惚れ、巧みな言葉遊びに感心し、漫才でボケとツッコミのやり取りを見て笑う
中でもそれが一番笑顔を見せるのはツッコミの無いボケのみが思い思いに飛び交うカオスな場面だった。
高校に入ってからのそれは館に住み、地下の王と称されるようになった。
しかし、その名も最初は虚勢、強がりとも呼べるアイデンティティの誇示でしかなかった
ただ在るだけのものが意味のある振りをする行為。
普通が嫌いと言うわけではない、十分だとも思っていた
ある日、不思議な力を得、猫によって連れて行かれた世界を見て言葉を失った
空は赤く淀み、地上は極彩色に捻じ曲がりけたたましい音が鳴り響いていた。
天国と呼ぶにはあまりに禍々しく
地獄と呼ぶにはあまりに…愉快だった。
それの好む場面、混沌がそこにあった。
何人も解決の為に奔走する中一人小躍りしていた
事が終わってからも次々に起こる怪事件にとうとうそれから笑顔が絶える事が無くなった。
楽しみが増えた事と同時に空腹も覚えた。腹ではなく頭から
肥えた舌が更なる美味を求めるようにそれは飢えた。
そして知った、ろっこんの事、神魂、落神、のの子…
「あれを殺せば世界は面白くなるかねぇ?」
彼はとても楽しそうに策を練っている。