インターネットの片隅。
ひっそりとそのウェブページは置いてあります。
ときたま更新されるそれには、若い女性の歌声ファイルが置かれています。
気づく人は、あまりいないかもしれないけれど。
拙い小さなコメントボックスには、それを聞いた感想が書かれていたり。
彼女はそれが楽しみで、そこで歌っているのです。
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わかりやすく言うと、瑠奈が手に入れたノートPCから更新されているホームページです。
彼女は不定期に録音ファイルをアップしているようです。
コンピュータがあまり得意ではない彼女、更新は頻繁ではないかもしれません。
<ラジオ音声ファイルです>
今週はね、ちょっとまじめに。
歌うってことはどういうことなのか。というのをね。
いつもどおり、いろんなものをはさみながら、語ってみたいなって思うの。
そもそもあたしが歌おうと思ったのは、ママの影響がとても強くて。
そのママも、今はいないんだけれどね。
あたしはママのいた場所に憧れていて、いつか同じ場所に生きたいの。
パパはそんなあたしを応援してくれてる。
……そんな家族思いのココロから一曲。キャットアイランド内で取材した男の子の歌を乗せるよ。
彼……「じゅん」さんの持ち歌は、「幻影の中の真実」。かっこいい声だから、皆気に入ると思うよ。
(トークを中断し、ちょっとかっこいい声が流れる。家族のために戦う、そんな内容。)
……歌うっていうのはさ。
他人に自分のココロをぶつける行為だと、あたしは思うの。
そのために必要な物は、いくつかあるけれどさ。
……あたしの持ってる自分の心って、不安定で。
歌っていないと、その芯が何処かへいってしまいそうで。
あのね、実は……怖いんだよ。
皆に不快な思いを与えているんじゃないかな、本当はやめろって思われてるんじゃないかなって。
でも、あたしは歌うのをやめる訳にはいかないの。
だってそれはあたしのアイデンティであるのと同時に……ここに来る前の皆との、約束だから。
……少し整理したいから、曲を挟むよ。今度は女の子……「AI」さんの歌、「約束」。
(静かな曲が流れます。忘れないよ、あなたとの約束。そんなうた。)
……あたしは寝子島高校に来る前は、島外の人間だったんだよ。
その地元のみんなは、あたしの歌を気に入ってくれてて。でも、プロには認められない粗削りで。
だから、ちょっと離れたこの地で、自分に足りないもの、足りない技術を学びにきたんだ。
だからやめたら、送り出してくれた皆を裏切ってしまうから。
だから、足りないことがあったら、どんどん言ってくれないと困るの。
だって、あたし馬鹿だから。きちんと伝えてくれないと、伝わらないから。
全部、思ったことを伝えて欲しいの。
あたしはみんなが大好きだから。これを聞いてくれるみんなも、大好きだから。
だからね?だから……あたしは皆に、愛をこめて歌いたいって、思うんだ。
ずっとずっと、愛をこめつづけて。
(その後も時間いっぱいまで、彼女の語りは続きます)