旧市街、参道商店街にある手打ち蕎麦屋『すすきの』
暖簾をくぐって中へと入ってみれば、出汁の香りか、天麩羅の香りか。
席に座って出されたお茶を飲みながらメニュー表を覗いてみると、
筆で書かれたしっかりとした文字が目に入ってきます。
・かけそば
・鴨南蛮
・天麩羅そば
・月見そば
・ざるそば
・天ざるそば
・寝子島そば定食…日替わりのそば定食
・サンマそば定食…サンマの蒲焼がのった掛けそば定食
その他にも季節ごとのメニューもあるようです。
お気軽にご注文下さいませ。
「あなたのそばに蕎麦屋すすきのーすすきのー」
孫娘の五月が接客の合い間にテーマソングとばかりにおかしな調子の歌を口ずさんでおりますが、
深い意味はありません。恐らく気分です。そして仕様です。
>大山田さん
(店の中でひょこひょこしていると声に気がついて)
おお、お客様が。いらっしゃいませー。こんにちはー!
蕎麦屋すすきのーすすきのー。(聞き覚えのある声のお客様……!と思いながら顔を見ると)
(……? おや?) (と心の中で首を傾げ)
(何故だろう、顔が。 あれ。 あれ?
……い、いや! 蕎麦屋の娘としてお客様の顔を、忘れるなど! など!)
(声は聞き覚えがあるはず。
こうなれば会話から記憶を手繰り寄せてみせましょう!)
……はっ!おお、失礼致しました。
ふふふ。はい。お陰様で皆様お食事に来て頂けて、
蕎麦屋としてとても有り難く、幸せで。(ほんわり微笑み)
はい、かしこまりました。いつものですね!
いつもの……
(な、何と……! いつもの……!
いやしかし“いつも”のならば、やはり来て頂いた事のあるお客様のはず!)
(そしてとても健康的なスタイル、そして声。
おそらくはあのお客様に違いない! ……はず)
(ここは蕎麦屋としての勘を! 勘をフルに働かせて! あたたかいの!あたたかいの!)
かしこまりました。では……て、天麩羅そば!
……でよろしかったでしょうか?(キラーン!)