旧市街、参道商店街にある手打ち蕎麦屋『すすきの』
暖簾をくぐって中へと入ってみれば、出汁の香りか、天麩羅の香りか。
席に座って出されたお茶を飲みながらメニュー表を覗いてみると、
筆で書かれたしっかりとした文字が目に入ってきます。
・かけそば
・鴨南蛮
・天麩羅そば
・月見そば
・ざるそば
・天ざるそば
・寝子島そば定食…日替わりのそば定食
・サンマそば定食…サンマの蒲焼がのった掛けそば定食
その他にも季節ごとのメニューもあるようです。
お気軽にご注文下さいませ。
「あなたのそばに蕎麦屋すすきのーすすきのー」
孫娘の五月が接客の合い間にテーマソングとばかりにおかしな調子の歌を口ずさんでおりますが、
深い意味はありません。恐らく気分です。そして仕様です。
(月見そばに決まった食べ方は無い。最初に黄身を潰して混ぜてしまう者もいれば途中から黄身を潰してそばと絡める者もいる。そばつゆと混ざるのが嫌だからと最後に丸呑みしてしまう者もいる。ただ、この珠喪と言う少女は)
ふぅ…(一息、ここでついた。お茶を足されるのを見れば)
む、すまぬのう
(と、そんなお礼を五月へと入れる。その後は凡そ半分になった月見そばを軽く眺めた後は器を両手で持ってツーっとそばつゆと一緒に月である黄身を口の中へと。一見すると「途中で丸呑み」の様に見えるがこの少女は違っていた。上手く黄身を舌の上に乗せて上あごに軽く挟み込んでホールド。そばつゆを濁さずに堪能する。香り良く喉を通り過ぎたそばつゆの後に、そばを少しだけ多く持ち上げながら、口の中に含む。この瞬間、一瞬だけ彼女の舌の上に月が見えるだろうか。もし見逃さなければの話ではあるが。その後、月を潰しそばと一緒に口の中で混ぜる。その黄身の濃厚な味とそれに絡みつくそばを堪能し、その余韻を口の中に残しながら、またそばを食べ進める。それが珠喪の月見そばの食べ方であった)