アラベスクの床に鎮座まします黒塗りの棺。
ヴァイオリンケースを模した等身大の棺に寝かされているのは美しいお人形。
嵐の前の空を閉じ込めた曇り硝子の瞳に白磁の肌、胸の前でお行儀よく組んだ手には一輪の赤い薔薇。
小公女の喪服じみた漆黒のゴシックドレスは繊細なフリルに縁取られ、贅沢な生地に白い光沢のビジューが縫い込まれている。
ワインレッドの天鵞絨で内張りを施された棺の中、虚空を見つめてお人形が呟く。
「レクイエムが聞こえないの」
ねえ誰か唄って頂戴
小さな駒鳥を葬る鎮魂歌、可哀想な駒鳥を弔う葬送曲
誰が××を殺したの?
それは××と××が言った
これから埋葬され永遠の眠りにつく少女は、無垢なる静謐を宿した硝子の瞳で何かをひたと見据え、つぼみの唇からソプラノを紡ぐ。
彼女が見据えているもの。あるいは運命。
狂気の淵へと己を追いやった見えざる歯車と複雑な機構から成るその仕組み。
駒鳥は死んだことにされた。
誰にとってもその方が都合がいいから。
しかしこの葬式が狂言でも、埋葬される少女の悲哀は掛け値なしの本物で。
「ねえ誰か、歌って頂戴」
散る花びらと舞う羽根と、褥に仰臥した体を屍衣のように覆い流れる赤い髪。
葬られるのは彼女の童心、封じられるのは彼女の良心。
そして少女は問い続ける。
誰が私を殺したの?
それはワタシと私が言った……
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悪天絵師さまに捧ぐ