古々しくも手入れの行き届いた空手道場。
人数こそ少ないものの猛者揃いの盆倉門下たちが日々汗を流している。
土日には子供空手教室なんかも行っていたりする。
時折態度のでかい居候がやって来て指導をしたりしなかったり。
ほらほらどうした!
守ってるだけじゃあ勝てねェぞ、――ッ!?
(豪雨のような連打の中を、被弾覚悟で飛び込んでくる相手に目を見張る。
相手に背中を向けたこの動きはボクシングではない。これは――)
八極拳、かッ!!
(左腕をガード位置まで引き戻そうとするが、間に合わない。
フリッカーは構えの性質上防御に移りにくいという弱点がある。
ガードを掻い潜った鉄山靠がその勁力を発揮し、弾かれるように楓の身体が数メートル程押し戻される)
……、……惜しいな。
あと5年、いや3年功夫を積んでりゃ今のは完全に有効打だった。
(コオォ、と深く息を吐いて体勢を整える。鉄山靠が決まりきる直前、
すんでの所で自ら後ろに跳び、更に脱力によって衝撃を逃がしていたのだ)
しかし今の一撃が見事だったのは間違いなく事実。
そこんトコに敬意を表して、――少し本気を出してやろう。
(直後。ズダァンッ!! という炸裂音と共に楓の身体が砲弾の如く打ち出される。
床板を抉る程の踏み込みにより十歩の距離を三歩で駆け抜け、放つのは中段正拳突き。
ごく基本的な、しかし極限まで研ぎ澄まされた「空手」の一撃)