遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
そうか……君は生前の彼方を見た事があるのか
あいつのコンサートはいつも盛況だった。クラシックに無縁な若い女性のファンも多く詰めかけた。素人にも玄人にもわかる、それが本当の芸術、真実の才能だ
契約しないで正解だな。あいつの音楽に魅入られて身を滅ぼした人間を誇張じゃなく何人も見てきたからな…コンサート会場で自殺した人間もいた。
……おかしなことを言ったか?(「貴方はそう思っているのでしょうね」という発言に片眉を上げ)
誰が見てもそうだろう、俺自身もそう思うそしてそれは正当な評価だ。
秀才と天才、凡庸と異端、脇役と主役……役回りは最初から決まっていた。
……そうだな、掃いて捨てる程いたな。
その中で何故わざわざ俺を選んだのか……盲目的に崇拝してくれる下僕を選べば低俗な虚栄心も充たされたのに。
悪魔がカラスを見初めるような、ただの気まぐれかもな。
……自分に似て非なるもの、近い色をしていても己のように飛べないモノを見るのは楽しかった筈だ。
(「親戚のおじさんみたい」と指摘され苦笑いし)
君達からすれば俺なんか年寄りだろう。いくつ年が離れてると思ってる。
しかし親戚のおじさんね……君のような理屈っぽい甥がいたらさぞ面倒くさいだろうね
皆口君のそんな顔を見られただけでも言った甲斐はあったな(冗談めかし)
……ああ、これじゃ人の顔を歪めるのが好きだった彼方を軽蔑できないか。
確かに俺は彼方に見透かされていた。
俺もあいつを……その凡庸な一部を理解して、共有していたと言えるのかもしれない
アレで妙に人間臭くもあったからな……俺のする事には何でも子供みたいに興味を示したし
落語のレコードを手に入れたら嬉々として聞きにきたくらいだ。貪欲で強欲、好奇心の塊だった
君が云う凡庸な感情とは……(眼鏡越しの目を推し計るように細め)いや、言わなくていい
それはきっと俺が辿り着くべき答えだろうから。
傷の舐めあいという言葉がある。
いくら似ていても他人の傷は他人のモノ、自分の傷は自分のモノ。血は混じりあっても傷口が同化する事はありえない。それと同じ理屈で、本当の意味での傷の共有は不可能だ。束の間痛みを紛らわす事はできてもな
……本当に自分を癒したいならしめっぽい自己憐憫から抜け出す事だ。蒸し返すほどに膿んで深くなる
どちらかというと教育する側でありたいものだが
学生に指南されたら立つ瀬がないよ