遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
ありがとう。じゃあ今度一局。……場所はどこがいいかな。俺の部屋に呼ぶのはまずいか……
イリュージョンランドの事務所はどうだ?チェス盤をもってくる
釣った魚ね……鑑賞に値するなら泳がしておくが。熱帯魚は結構好きだ
……聖書に詳しいな。全部暗記してるのか?
彼方は……まさに冷たく燃えている男だった。冷静と情熱の表裏、傍観者の仮面を被った情熱家。君も同類かな
勉強家だね。難しい言葉を知っている。
箱を開けてみるまでもない、君のお兄さんはお兄さんだ。生きてても死んでいても、そこに確かに在ると信じることが実在を保証する。その存在を空想で贖っているんだ
……さてな。子供時代の自分に会いたいなんて考えた事もなかった。だから正直面食らったが……
でも貴重な体験だった。自分を客観視するのもたまにはいい、新鮮な気持ちになれた
可愛げのない子供だったが……あれも確かに過去の俺だ。
パラレルワールドの存在と会って何が変わる訳でもないが、少なくともそう、自分を見直すいいきっかけにはなったよ。おかげで子供全般への苦手意識も薄らいだ
過去と向き合うのはトラウマやコンプレックスを払拭する上で避けて通れない通過儀礼なのかもな
よく言う。既に巻き込まれてるんじゃないか?他人の事情に嬉々として首を突っ込み饒舌に考察する、むしろ巻き込まれたがっているように見える。
……傍観者を気取ろうが、観察する対象がいつまでもその立場に甘んじているとは限らない
気をつけたまえ。あまり俺を……人をなめないほうがいい(不敵に笑って)
時任が死んでも俺は死ねない、抜け殻のように生きている……か
そう、それが事実だ。
死んでからもなお俺を縛り続ける……まったく、どうしようもない男だ。
死んだ彼方を抱いて生き続ける事が可能ならば……死者を利用しきる事が許されるなら
……もう少し、生きやすくなるのかな(諦観の滲んだ寂しげな笑みを浮かべ)