遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
時任の気まぐれだ
大学に入って間もない頃、階段教室で座って本を読んでたら取り上げられて、振り向けばあいつがいた
「つまらない本だな。俺と話した方が楽しいぞ」と……
それがきっかけだな。あの時無視していたら腐れ縁は始まらなかった。学部が違うのに聴講にきていた物好き……あの頃から人のモノを取り上げるのが好きだったな……
貴方は彼に……なんだ?言いかけてやめられると気持ち悪い、最後まで言ってくれ
君はわがままだね。弱音じゃなければ愚痴か繰り言か……いずれにせよみっともない
なら君も死を仄めかす言動は自重したまえ。恋人がいるなら大丈夫だろうが…死を仄めかして対象の関心を引き止めるなら駆け引きとしては下の下だ。手段として卑しい。
……ああ、すまない。君は死にたがっている訳じゃない。俺と同じ、死ぬ事も生きる事もできずにもがいているだけ。だからこれは自虐なのかな。
心なんてなければいいのにな……どうしてこんな煩わしいものがあるんだろうな
おそらくそう思ってくれる人はいる。俺の思い上がりじゃなければね
彼らの為にも当分は生きるべきだ。……俺自身、このピアノが直る所を見届けたいしね
それに彼女が謎を解くところも見届けたい。
よくわかったじゃないか
他人の体液が染みついたハンカチに未練はない。返されても困る(どこまで本気かわからぬ言動で肩を竦めて)
わからない……。
時任が死んだ理由も。いや、本当は見えているのかもしれない。わからないフリをしているだけで、答えは案外すぐ近くに転がっているのかも。
自ら命を絶っても永遠など手に入る訳ないのに。手に入るとしたら永遠の代用品、粗悪な紛い物だ。彼方は命と引きかえても惜しくないものを手に入れようとしたのか?馬鹿だな
君だけの秘密ね……その気持ちは少しわかる。手に入らないなら壊したい、ぐちゃぐちゃに汚したい
彼女は……どうなんだろうな。知人以上友人未満の曖昧な間柄だ。どう定義したらいいのか
頭の中でどんな非道な事をしても実行してなければ正常か。でもそのうち実行に移すよ。予感がするんだ。そのうち衝動がおさえきれなくなる……
かつてお兄さんは身を挺して君を庇った、今度は君が守る番だ。それができるだけの知恵はあるだろう
過干渉は人を追い詰める。放任して見守るんだ。お兄さんが本当の意味で依存から脱却し自立できるように、今度こそ共依存の罠に嵌まらないように免疫をつけさせるんだ