知らない場所。
ううん、知っている場所。
僕が一人で目を覚ましたお家。
早くここから逃げなくちゃ。
また「あの子」がやってくる。
目の前には赤い水溜り。
見てはいけない気がするの。
ねぇこれは一体なに?
「本当に忘れてしまったの?」
気がつけば目の前に「あの子」がいる。
僕に良く似た姿をして、悲しそうに僕を見ている。
「本当に忘れてしまったの?
あんなにも愛していたのに、愛されていたのに。」
なんのこと?わからない。
僕は知らない。
「本当に忘れてしまったの?
「あの人」が一体なにをしたのか、
君は知っているはずでしょ?」
あの人って一体誰のこと?
わからない。わからないの。
「どうして忘れてしまったの?
本当は全部知っている癖に。」
少しづつ「あの子」が僕に近づく。
逃げなくちゃ。逃げなくちゃ。
後ずさるうちに壁にぶつかる。
お願い、もう近づかないで。
「いつ迄忘れるの?
ずっと忘れたままなの?
お願い。早く思い出して!」
あの子が叫ぶ。
じっと、じっと。
悲しそうな眼で僕を見つめて。
「私達は知ってるよ。
あの人が誰なのか。
私達に何をしたのか。
思い出して。君は私だから。
お願い、忘れないで。
早く!早く思い出して!」
わからない。わからない。わからない。
頭が割れるように痛い。
頭の中で何かがくらりと揺れる。
お願い、もう止めて。お願いだから。
「忘れてしまうの?
もう要らないの?
ねぇ、あんなにも幸せだったのに。」
知らない。わからない。
僕が忘れてしまったことなの?
それなら、もう、お願い。
近づかないで。
僕の幸せが壊れてしまう気がするから。
…夢から醒めて汗にまみれた自分に気付く。
嫌な夢。そう、あれはただの夢。
僕の罪悪感が見せる小さな悪夢。
ごめんなさい。ごめんなさい。
ただ、幸せでいたいだけなの。
幸せが壊れてしまうなら、何も思い出したくない。
悪いことだと、わかっているけど…。
頭が痛い。
夢から醒めても、頭痛が、止まらない。
「酷い。酷いよ。
あんなにも大切だったのに!」
「あの子」の声が、聞こえた気がした。